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災害援護資金とは?
災害により、大きな財産をなくした時、これからの見通しも立てることができずに、途方に暮れることもあるのではないでしょうか。そんな時のため、公的支援として「被災者生活再建支援制度」、「災害復興住宅融資(住宅金融支援機構)」等のほか、「災害援護資金」という貸付制度があります。災害弔慰金の支給等に基づいた被災者の生活立て直しのための、特別な貸付制度です。
その資金は国が3分の2、都道府県・指定都市が3分の1を負担し、市町村等の自治体が窓口となって被災者へ支援されることになります。
災害援護資金が適用される状況
まず、「災害援護資金」が適用される状況について説明しましょう。対象となる災害として「都道府県内で災害救助法が適用された市町村が1以上ある災害」が指定されています。この「災害救助法」が適用されたかどうかについては、都道府県からの「お知らせ」をホームページなどで確認することができます。
また、「災害救助法」は「応急的に必要な救助を行い被災者の保護と社会の秩序の保全を図る事を目的とする」(災害救助法・抜粋)という性質上、災害のあった日から数日~数週間の内に適用されることになります。
災害援護資金が適用される対象条件
「災害援護資金」が適用される災害と認定された場合において、「負傷又は住居、家財に被害を受けたもの」(災害援護資金の概要・抜粋)が、対象者となり得ます。「負傷」については、世帯主が1か月以上の負傷の場合。
「住居、家財の被害」については、家財は3分の1以上の被害、住居は半壊以上の被害であることが対象条件となります。
また、「所得制限」があり、 市町村民税における前年の総所得金額が対象となります。これは世帯人数により6段階に設定されており、世帯人数が、1人の場合は220万円、2人の場合は430万円、3人の場合は620万円、4人の場合は730万円、5人以上の場合は、730万円に1人増える毎に30万円がプラスされた金額となります。そして、住居が減失した場合においては、世帯人数に関わらず1,270万円が所得制限となります。
災害援護資金の貸付金額
「災害援護資金」の貸付は最高350万円です。対象条件によって上限額が決まっており、それぞれの合計金額の最高限度額が350万円となります。貸付金額については、
- ①世帯主が1か月以上の負傷であった場合は150万円
- ②家財の3分の1以上の損害であった場合は150万円
- ③住居が半壊であった場合は170万円
- ④住居が全壊であった場合は250万円
- ⑤住居が減失、もしくは流出した場合は350万円
となります。
そして、合計の限度額については、①+②の場合は250万円、①+③の場合は270万円、①+④の場合は350万円、⑤の場合は限度額の350万円なので+はありません。
また、被災した住居を建て直す際に、その住居の残存部分を取り壊さざるをえない場合等の事情がある場合は、③の半壊であった場合は250万円、④の全壊であった場合は350万円、となります。
合計金額の上限については、①+③の場合は350万円、①+④の場合は限度額の350万円なので+はありません。
災害援護資金の返済についての詳細
「災害援護資金」は貸付制度であり、貸付金額の「返済=償還」が必要です。被災者の生活立て直しのための支援であるため、利率や期間においても、その内容は考慮されたものになっています。利率は3%、据え置き期間は3年で、その間は無利子となっています。償還期間は据え置き期間を含む10年、償還方法としては年賦か半年賦を選択できます。
また、据え置き期間は特別の場合5年とされており、特別の場合とは、住居が全壊した場合、世帯主が死亡した場合等、市町村長が特に必要と認めた場合となります。
また、東日本大震災においては特例措置として、利率は1.5%(連帯保証人ありは無利子)、据え置き期間は6年、特別の場合は8年、償還期間は据え置き期間を含む13年となっています。
- 災害援護資金の概要
- 災害援護資金の返済について
- 災害援護資金の返済の特例措置について
阪神淡路大震災の災害援護資金の貸付状況
甚大な自然災害として、近年はじめて認識することになった、阪神淡路大震災。1995年の1月17日、午前5時46分52秒に起こった未曽有の大地震は、20年以上経過した今でも記憶に焼き付いて離れることはありません。犠牲者は死者数6千434人、行方不明者3人、負傷者4万792人、住宅被害は63万9686棟(2018年1月時点)にも及ぶ大災害となり、被害総額は約10兆円ともいわれ、国家予算の1割を占める程にもなりました。
阪神淡路大震災での災害援護資金の対応
阪神淡路大震災での貸付総額は約777億円。災害援護資金としての利用条件は基本的に変わりなく、災害弔慰金の支給等に基づいたもので貸付されたものです。金額だけ見れば相当なものですが、被害総額に比べるとはるかに及ばないことは一目瞭然で、同時に、被災者の負担が大きいことは想像するには容易いことです。
また、東日本大震災にみられる、特例措置での貸付年率1.5%は阪神淡路大震災当初には存在せず、一律で年率3%とされていました。
阪神淡路大震災の返済についての経過
777億円のうち、返済されたのは83%の640億円。免除されたのは13%の104億円。4%の33億円が未償還額として2017年8月時点までは存在していました。返済がここまで長引いてしまった大きな理由の一つとして、阪神淡路大震災においての災害援護資金では、連帯保証人なしの貸付は認められなかったこと。また、そのため、連帯保証人自身が被災者であったり、重複するケースも多く、生活が困窮し、返済苦による行方不明者、果ては自殺者まで出てしまう事態にもなりました。返済免除の条件緩和はこのことから見ても必要であることは明らかでした。
現在ではそのことも踏まえ、災害援護資金の償還については、被災者に寄り添った条件が考慮され、連帯保証人なしでの貸付や、少額返済などを認められるケースも多く存在するようになっています。
- 阪神淡路大震災の災害援護資金の貸付金額
- 阪神淡路大震災の貸付当時の貸付条件と返済条件
- 阪神淡路大震災の返済の経過と条件緩和
神戸市での23年経った返済状況
阪神淡路大震災から23年が経過した現在。甚大な被害を受けた神戸市の復興状況は、当初からめざましく、公的支援だけでなく、ボランティアや事業団体、海外からの支援を得て、現在ではすっかり震災前の賑わいを取り戻したかにみえます。しかし、被災者にとっての経済的状況はどうでしょうか?
また、災害援護支援金を返済するにあたって、被災者の負担はどんなものだったのでしょうか?
震災後の経済状況と災害援護資金の返済開始
実際、復興事業として兵庫県では16兆3000億円が投じられ、多くの事業や建築が再建され、インフラの復旧や住宅建設などの復興需要で地域経済は活性化されました。しかし、それは一時的な復興需要であり、継続されるものではありませんでした。2000年を過ぎるころには、復興事業も終焉し、景気低迷もともない、経済、雇用状況は一気に悪化、そこから10年以上、震災前の水準まで回復されることはありませんでした。
1995年の大震災で被災した時の災害援助資金の返済は、そんな状況の中で行われることになりました。
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※参考:神戸市の消費支出と貯蓄の推移 神戸市『神戸市統計書』より
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神戸市の災害援助資金の返済状況
当初、777億円あった災害援護資金の貸付金は2017年3月時点で未収分として33億円となっていました。また、同時に、返済が不可能であった分の返済期間については2006年、2011年、2014年、と延長され、2017年に4度目の3年間の延長が認められることになりました。
2016年の時点で、5万6,422件、約1,309億円のうち、約1,104億円が返済された一方、5,471件、約78億円が未返済のままであり、期限までに返済がなければ、市が立て替えて国に返済しなければならず、国に対し期限の延長を求めた結果、さらに3年の延長が認められることになったのです。
そして2017年9月、未収分の33億円が連帯保証人の債権放棄が認められた形で22年に及ぶ返済に決着がつくことになりました。
- 神戸市での災害援護資金の返済状況
- 神戸市での災害援護資金返済開始当初の経済状況
- 神戸市での現在の貸付返済状況
返済免除になり得る基本的な事由
災害援護資金は被災者の生活支援のための公的支援です。返済の取り立てが、被災者の生活再建を著しく阻害するものになっては、その趣旨に反することになってしまいます、そこで、災害援護資金の返済を免除する、償還免除の制度が設けられています。
災害援護資金の返済免除の条件
返済免除には2つの条件があり、両方を満たしたときに申請をすることができます。①借受人が死亡し、借受人に相続人がいないとき、又は、その相続人が償還できないとき。あるいは、借受任が精神もしくは身体に著しい障害を受けたため償還することができなくなったとき。
②連帯保証人又は連帯保証人の相続人の方が、未償還額を返済することができないとき。
これは、借受人本人が死亡したとしても、相続人や連帯保証人、連帯保証人の相続人が死亡、もしくは返済能力がない事由(心身に著しい障害あり、もしくは自己破産者)、とされた場合のみが適用されるということです。
該当するケースはごく一部であり、被災者の返済による困窮を救うことには厳しい条件と言わざるを得ません。
返済免除に必要となる書類
また、免除の条件に該当した場合には、申請するための災害援護資金償還免除申請書とともに、それぞれの状況を証明する書類が必要となります。①については、借受人、相続人の死亡を証する書類、または、借受人、相続人が精神若しくは、身体に著しい障害を受けて貸付金を償還することができなくなったことを証する書類、②については、連帯保証人もしくは連帯保証人の相続人の死亡を証する書類、または、連帯保証人もしくは連帯保証人の相続人が精神若しくは、身体に著しい障害を受けて貸付金を償還することができなくなったことを証する書類、が必要となります。
- 災害援護資金の償還免除の制度
- 災害援護資金の免除となる条件
- 災害援護資金の免除に必要となる書類
神戸市にて返済免除になった事由
神戸市における、災害援護資金返済の被災者への負担は大きく、その理由のひとつとして、直接的な被害に加え、住宅再建に関わる二重ローン問題、その後の経済不況による二重、三重の苦しみが長年にわたり続いたことが挙げられます。返済免除となった事由と詳細
返済免除について国は、2015年4月、自治体の判断で破産者や生活保護受給者、少額返済者に対象を拡大できるようにしました。内容の詳細は、期限から10年経過した時点で、破産や生活保護で資力がなく将来にわたっても返済できる見込みがない、という場合に免除を認めるというものでした。神戸市は同年6月時点で未返済だった約6,000件のうち約4,000件、およそ65億円の返済を免除することになりました。
また、さらに、2017年1月には、阪神淡路大震災における災害援護資金の償還について、国から新たな償還免除事由の通達があり、「新・法定免除制度の判定式 所得+資産-負債-生活費 < 月額償還相当額の場合、弁済できる見込みなし」(新たな償還免除事由より抜粋)とされることになりました。
これにより、2016年11月までに当初の返済期限から10年を迎えたものである、3,625件、56億円のうち、約1,300件、21億1300万円、合計約2,600人が免除対象となりました。
続いて2017年、9月、神戸市が未返済の1957件、約33億円の連帯保証人への債権を放棄されることになり、これにより災害援助資金の未収分はすべて償還免除となり、返済が免除されることになりました。
当時は十分ではなかった公的支援の状況
阪神淡路大震災当時は給付型の被災者支援制度である「被災者生活再建支援法」は存在していませんでした。被災者には、生活再建給付金(上限300万円)は支給されず、現在の水準に比べて十分な支援がなされていなかったといえるでしょう。東日本大震災において特例措置のあった年率1.5%は適用されず、年率3%、連帯保証人なしの貸付については認められませんでした。
- 神戸市で災害援護資金の返済免除となったケース
- 神戸市で返済免除となったケースの詳細
- 神戸市で返済免除となったケースの背景
東日本大震災でも求められる返済免除の拡大
東日本大震災があった2011年から6年、災害援護資金の据え置き期間が終了し、いよいよ2017年8月から、災害援護資金の返済期間がはじまりました。阪神淡路大震災の返済状況をみても、東日本大震災での災害援護資金に係る多額の未収金が想定されるのは、避けられない事態となるでしょう。
東日本大震災の災害援護資金の貸付状況
東日本大震災における、平成29年6月時点での災害援護資金の貸付額は、813件で18億9480万7500円、うち、繰り上げ返済は64件で1億1807万円でした。全額償還は35件で9215万円、残り749件で17億7673万7500円を順次返済していくことになります。2017年には63件,2018年には51件,2019年には188件,2020年には202件,2021年には115件,2022年には57件,2023年には39件,2024年には45件,2025年には18件、の返済が予定されています。
返済開始年数と該当件数
年度 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
件数 | 63件 | 51件 | 188件 | 202件 | 115件 | 57件 | 39件 | 45件 | 18件 |
東北市長などが国へ返済免除の緩和請求
災害援護資金の返済期間が始まり、東北市長、宮城県市長から国へ、具体的な返済免除の要望がなされています。そのうち、被災者に関わる免除尿兼緩和についての内容については以下2点となります。
①借受人またはそれにかわる保証人(相続人、連帯保証人)が、生活困窮により返済が困難な状況である場合は、少額償還を認める事。②償還免除要件として示されている無資力要件に生活保護受給者及び破産手続きにより、免責許可決定を受けた者も含める等要件を緩和する事。
①については、阪神淡路大震災では少額償還として償還予定額よりも少ない金額で毎月償還する方法(月々1,000円等)をとっている前例がある。②については、東日本大震災の特例として,支払期日到来から 10 年経過後において、なお無資力又はこれに近い状態にあり、償還金を支払うことができる見込みがない場合も要件に追加されているが、生活保護受給者等の具体的記載はありません。
いずれにしても、阪神大震災における災害援護資金返済の決着が23年もかかったことについて、国は根本的な制度の見直しをはかり、東日本大震災についてもな賢明な対応が必要とされるでしょう。
- 東日本大震災における災害援護資金の貸付状況
- 東日本大震災における災害援護資金の返済計画
- 東日本大震災の返済免除条件の緩和拡大の必要性
返済できなかった人の複雑な思い
災害援護資金の返済が免除となった場合でも、とても複雑な思いが交錯する場合があります。たとえば、借受人自身に返済能力がないと判断され、連帯保証人が借受人のかわりに債務を負うようなケースです。自己破産により連帯保証人に返済請求がいくことに
借受人自身が、自己破産してしまった場合、本人の意思に関わらず、連帯保証人に返済の請求が肩代わりされることは、法律で決まっていることです。甚大な災害の非常時において、自身がそのようなことになる事、連帯保証人が債務を強制的に負わされることを現実として想定することは難しいことだったのではないでしょうか。
たとえ支払う意思があったとしても、請求は連帯保証人にいくことになります。
法的責任はないとはいえ、連帯保証人との関係がどうなるかは、容易く想像できてしまいます。
自然災害への備えは自助努力で
災害時の公的支援の貸付は返済負担が大きく、たとえ返済免除となったとしても状況は苦しいまま・・・そのような事態にならない様にするには一体どうすれば良いのでしょうか?
「災害時の備えは自助努力」を基本とすることが重要です。
なかでも、大きな財産である「家」の保証を厚くすることで災害による金銭的リスクはある程度回避できると言っていいでしょう。
「火災保険」であれば、自然災害である、台風、竜巻、洪水、土砂崩れ等に対応しており、「建物」から「家財」まで幅広く保証されます。
ただし「地震」については単独での保険加入はできず、「火災保険」とセットでの加入となることに注意しましょう。
災害に備えるには「負担」はあくまで「現在の自力」で「将来の保証」を買う事が大切です。
災害保険の相談もイエウールの経験豊富な不動産会社へ
災害時の「家」への保証は「保険」で備えることができるとわかりました。それでは、「どのくらいの保証」を買えば良いのか?
火災保険の「家」に対する保険金額は「建物の評価額」と同等とすることが基本です。
例えば、4000万円の「家の価値=評価額」であれば、4000万円の保険であることが正解です。
なぜなら、たとえ5000万円の保険を掛けたとしても、評価額である4000万円以上は支払われないからです。
建物の評価額を正確に知ることは素人では限界があります。
そこで、専門家にしっかりと査定してもらうことが重要
になってきます。
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