日本では文化財にならなければ歴史的な建造物であっても建て替えられてしまう傾向にあります。しかし、少子高齢社会の中で過疎化は進展し、住宅やオフィスは過剰供給な状況にあります。そんな中で、これまでのスクラップアンドビルドを見直し、地球環境のためにも古い建物を再利用する取組みが進んでいます。
リフォームからリノベーションへ進展し、今日コンバージョンという新しい取組みが広まってきています。ここではコンバージョン建築のメリットや実在するコンバージョン建築について紹介していきます。困難な時代にあっても新しいニーズを捉え、経営を安定させましょう。
アパート建築費については以下の記事をご覧ください。
コンバージョン建築とは
建築用語で言うところのコンバージョン建築とは、既存の建物の用途を変更し、新しい建物へと再利用する手法のことです。既存の建物を解体して新しい施設を建てるよりもコストが安く済み、環境への負担の少なさも注目される点です。また、既存の建物が持つ特性を活かした魅力のあるデザインにすることが出来たり、建て替えると容積率が減ってしまうような建物にも有効です。
建物は修繕をすれば長く利用できますが、古い建物を維持するのにはお金がかかります。その上時代に合わなくなった建物をそのまま利用し続けることは、需要が減っていくので経営が困難になります。
リノベーションとは異なる
中古物件を修繕して利用するのにはいまでも「リノベーション」という手法が人気を集めています。リノベーションは修理や修繕を意味します。建築用語では和室の住宅を洋室にしたり、2DKを1LDKなどに間取りを変更するなどが一般的です。
特に中古マンションや中古アパートなどを中心に住宅再生の面が強いです。一方でコンバージョンは用途の変更も含まれるのがリノベーションと異なる部分です。倉庫をカフェやレストランにしたり、オフィスビルをアパートやマンションにするなど別の用途で経営再編を図るものです。
コンバージョン建築のメリット
これまでは活用が難しいとされてきた物件でもコンバージョンによるアイデアで収益化できる事例が増えてきています。
本章では、古い建物をアイデアで再利用するコンバージョン建築のメリットについてみていきましょう。
経営の立て直しができる
競合他社が増えてきたり、時代のニーズに合わなくなって経営が不振になっている物件でもコンバージョンで用途を変更し、新しい需要を喚起することで経営の立て直しが見込めます。アパートとして長く経営をしてきたが、周辺にマンションなども増えてきて経営が難しくなるケースはよくあります。
ベンチャー企業やスタートアップ企業向けのスモールオフィスとしてコンバージョンすることで賃料を上げても入居者が獲得できている事例もあります。相続した古い実家を持て余して固定資産税を毎年払うだけだった物件でもシェアオフィスやレストランにコンバージョンして固定資産税を上回る利益を上げる事例もあります。
これまで活用が難しいとされていた物件ほどコンバージョンによるアイデアで経営を立て直す効果が高く得られるメリットがあります。
新しく建物を建てるより費用が安い
新しい建物を建てるとなると小さなアパートでも数千万円からの資金が必要になります。一方でコンバージョンを利用するならリノベーション同様に、既存の建物を活用できるので、工事費用が安く済みます。
初期費用が低く抑えられれば、借り入れるローンも少なく済み、事業を開始した後の返済額も抑えられるので経営において資金繰りが楽にもなります。キャッシュフローが良ければ経営で失敗するリスクも抑えられるので長く事業を続けられる可能性が高まります。
工事期間も短くて済む
コンバージョン建築のメリットとしては工期が短く済むのもメリットの一つです。アパート建築なら4カ月から5カ月程度、マンション建築となると1年程度は事業を始めるまでかかります。その間は事業ができないので収入はありません。
コンバージョンであれば既存の建物を利用するので、基本的には工期が短く事業を開始できます。
空き家対策ができる
拡大する空家問題に対して2014年に空家等対策の推進に関する特別措置法が施行されました。空き家を放置しておくと管轄する行政機関から指導を受けて、適切な管理をすることが必要になったのです。
行政からの指導や命令に従わない場合には、特定空き家に指定する措置がとられます。特定空き家に指定されてしまうと、住居として減免されていた固定資産税の特例措置が外され、税額は6倍程度に膨れ上がります。
活用できないからと放置していた空き家でもコンバージョンによってレストランやシェアオフィスなどに用途変更することで、指定を回避するだけでなく、資産として収入を得られるようになる事例もたくさんでてきています。
価値ある歴史的建造物を残せる
江戸時代よりも前からある古民家などは文化財指定すれば後世にも繋いでいけるかもしれません。しかし、大正や昭和の古き良き建物を残そうと思っても一般の住宅などでは手段がありません。所有者がメンテナンスをしながら次世代へ繋いでいくのが現状です。
しかし、家の考え方も変わっていく中で、少子化で財産を継ぐ子どものいない家庭も増えてきています。そうなると自宅を売却して老後の資金に充てるなど歴史的な建造物は姿を消していきます。これまでの日本では古いものを壊して新しいものを建てることで経済を大きく発展させてきました。
社会構造の変化の中で、スクラップアンドビルドも上手く回らなくなってきています。歴史的な建造物だけでなく、古いアパートや中古の商業ビルでもコンバージョンを利用することで利益を生み出す事業として残していくことができます。
大量生産大量消費の流れもエシカルな環境に優しい産業構造への転換が求められています。SDGsなどの流れも受けて、コンバージョン建築は今後さらに成長が見込まれる分野です。
違う使い方ができるようになる
リノベーションは現状リフォーム寄りなイメージが強く、修繕をすることで元の建物をより使いやすくするものです。コンバージョンは同じ修繕でも改修というイメージが強くあります。建物自体をこれまでの用途から別の用途に作り変えることで新しい需要を生み出すのです。
倉庫をカフェにしたり、古民家をレストランに、マンションをオフィスになどそれまで続けてきた業態では経営が振るわなくなってきた物件に対して、別のアプローチをすることで地域のニーズをすくい上げて経営を立て直すことが見込めます。
付加価値をつけることができる
文化財でもない限り、古い建物は建て替えを待つのがこれまでの考え方でした。なにもしなければ相続などのタイミングで取り壊される古屋に過ぎないものでした。しかし、コンバージョンを活用して新しい目的で再利用することで、「古さ」を付加価値として経営の助けにする事例も出てきています。
古民家レストランや蔵カフェなどはその珍しさや落ち着いた雰囲気から利用者ニーズを満たして収益にプラスな働きを与えています。古くても活用できる建物だからこそアイデアで新しい事業を展開することが可能です。
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エリア | 愛知県 |
土地面積(㎡) | 163.88 |
延べ床面積(㎡) | 66.24 |
コンバージョン建築のデメリット
活用が困難と考えられてきた物件もコンバージョンによって新たな可能性が見える反面、デメリットもあります。コンバージョン建築は古いものを活かしていくことが目的なので、どうしても耐久性や安全性を確保するのに十分な対策ができるかがポイントになってきます。
本章ではコンバージョン建築のデメリットについてみていきましょう。デメリットを理解し、事前に対策を講じて経営が十分できるかの判断をすることで、後から思わぬトラブルに対処するリスクを軽減できます。
耐震性や耐久性が劣る
コンバージョンの対象となる建物は基本的に古い物件が多くなります。蔵や古民家などさまざまな災害を乗り越えてきた建物はある程度の耐震性や耐久性があるとも考えられます。一方で倉庫やオフィスビルなど古い建物の中には耐震性や耐久性が劣っている物件もあります。
特に1981年以前に建てられた40年程度経つ物件については旧耐震基準で建築されているので耐震基準を満たしているかどうか確認する必要があります。新耐震基準を満たしていないと固定資産税の税率が上がるだけでなく、利用者への安心面でも不安が残ります。
また、古い建物を利用する場合には、定期的な修繕が必要になり、物件によっては経営の負担になる場合もあります。物件がどれくらい利用でき、ランニングコストがどれくらいかかるのかは事前によく調査したうえで計画を立てましょう。
自由度が低い
コンバージョン建築は元の古い建物を有効活用するメリットがある一方で、既存の建築に改装内容が左右されるデメリットもあります。リノベーションでも同様ですが、新築で建てるよりも自由度は低い施工内容になりがちです。
新築なら水回りや配管等を自由に配置して理想の建物を建てることができます。コンバージョンする建築物が汎用性の高い構造であればある程度自由度は高くなりますが、蔵などの出来上がった建物をコンバージョンする場合には工夫が必要です。
コンバージョンする場合にはアイデアも必要になってくるので、実績のある土地活用業者に相談して活用方法を引き出すのが良いでしょう。
コンバージョン建築の事例
コンバージョン建築には、アパートやマンションをオフィスビルにしたり、逆にオフィスビルをアパートやマンションにしたり、古くからある蔵をカフェにしたりなど、様々な成功例があります。
本章では、実際に存在するコンバージョン建築の事例について紹介していきます。
横浜赤レンガ倉庫
日本で行なわれた有名なコンバージョン建築として、2002年に新しく商業施設・展示スペースとしてオープンした横浜赤レンガ倉庫が挙げられます。
明治末期から大正初期に建設されたレンガ造りの歴史的建造物で、元々は国の模範倉庫として利用されていましたが、1989年にその役割を終えることになります。
その後、1999年に横浜赤レンガ倉庫事業コンセプトが決定し、2002年には保存・活用工事が終了し、赤レンガ倉庫は文化・商業施設としてコンバージョンされました。
旧奈良監獄
旧奈良監獄は明治41年に完成した建築物で、歴史的価値の高さがあり意匠に優れた近代建築であることから、平成29年に重要文化財として指定されました。
その旧奈良監獄について、施設全体のホテル仕様の改修設計が進められています。旧奈良監獄の赤れんが造りの魅力を最大限に活かした上質な宿泊施設を実現するとされています。
国の重要文化財が高級ホテルへと再生されるということで、歴史的建造物を残せる上に付加価値をつけることのできるコンバージョンと言えるしょう。
なごのキャンパス
なごのキャンパスとは、廃校になった旧那古野小学校の校舎を、起業家やベンチャー企業の育成拠点となる施設(インキュベーション施設)に転用した事例のことです。
100年を超える歴史を持つ小学校を引き継ぎ、「歴史を紡ぎながら次の100年を担うひと・もの・ことが育っていく」として2019年にオープンされました。
旧職員室・校長室・放送室はコワーキングスペースへと生まれ変わり、旧教室にはテナント企業が入居し、旧音楽室・保健室が会議室になるなど、見事にコンバージョンされることになりました。
トランプ・インターナショナル・ホテル&タワー
コンバージョン建築について代表的なものは、日本だけではなく海外にも存在します。ドナルド・トランプ氏の商業的成功を象徴する「トランプ・インターナショナル・ホテル&タワー」という、セントラル・パークの南西角に面する、高級ホテルと集合住宅の高層建築も実はコンバージョン建築です。
もとは「ガルフ&ウエスタン・ビル」という高層オフィスビルでしたが、耐風耐力の不足や耐火被覆のアスベスト使用などの問題があったため、建物を抜本的に刷新する必要がありました。
それが結果的に、高層部分を分譲タイプの集合住宅に、下層部をホテルに転用することになり、構造体を残して各階の耐風壁補強を行ない外壁を含めて完全に仕上がり、コンバージョンされました。
アパートなどの賃貸住宅を建築する可能性が出てきたら、早い段階で施工会社から建築プランと建築費用の見積もりを取得しましょう。
施工会社に提案される建築プランには建築費用の見積もりだけでなく設計図面や収支計画が含まれています。複数の施工会社の建築プランを比較することで、客観的に利回りを算出することもできますし、自分の土地でどのようなアパートを建てられるかイメージが湧くようになります。
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コンバージョン建築のポイント
コンバージョン建築を利用して土地活用をしようとするときにはいくつか注意したいポイントがあります。特に用途を変更するにあたっては地域にニーズがあるかどうかが重要なポイントになります。
地域ニーズもある程度潜在的にある需要を喚起することで集客アップに繋がりますが、ニッチなニーズを狙っても外れる可能性もあります。また、用途変更の内容によっては確認申請が必要になる場合もあります。ここではコンバージョン建築を利用して土地活用をするときのポイントについて詳しくみていきましょう。
地域のニーズにあった建物に変更する
コンバージョンは用途を変えて潜在ニーズを満たし、目新しさだけでなく実用面でも需要を喚起する新たな取り組みです。コンバージョンは集客アップが見込める新しい手法ですが、地域のニーズにマッチしていないと効果が得られません。
地域の世帯構成や年収、満たされていないニーズなどをよく調査した上で計画を立てることが大切です。世帯年収が高くない地域で高級フレンチレストランを提供しても顧客を得るのは難しい状況でしょう。
確認申請が必要ないか確認しておく
コンバージョンを行う場合には業態や大きさによっては確認申請を自治体に行う必要があります。コンバージョン目的で利用するとなると共同住宅や寄宿舎などが確認申請の必要な特殊建築物にあたります。特殊建築物として建築基準法によって以下のように定められています。
- 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場
- 病院、診療所、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎など
- 学校、体育館、博物館、図書館、ボーリング場、スケート場など
- 百貨店、マーケット、展示場、ダンスホール、キャバレー、料理店、飲食店、遊技場、公衆浴場など
- 倉庫
- 自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ
上記の業態に用途変更する場合には再度建築確認を行って適正に建てられたものであることを審査される必要があるのです。2019年6月に用途変更に伴う確認申請の広さの要件が100㎡から200㎡に緩和されているのでコンバージョンしやすくはなっています。
コンバージョンを行う際には用途変更に伴う確認申請が必要かどうかは確認しておきましょう。上記以外の一般的なオフィスなどに用途変更する場合には特殊建築物に当たらないので確認申請は不要です。確認申請が必要になると建築基準法や消防法などの法令に適合した施工を行わなければなりません。
オフィスからアパートなどに用途変更する場合には特に避難経路が不足していると外階段を新設するなどの対処が必要な事例も見受けられます。思わぬ出費が伴わないようにするためにも確認申請の有無は事前に確認しておきましょう。
一方で古い建物を利用することになるので、安全確認や耐震性などの確認は十分にしておく必要があります。
コンバージョンにはリフォームよりメリットが多い
すでに経営が不振な建物でそのまま賃貸経営を進めるのは難しいでしょう。これまではリフォームをして入居希望者に目新しさを提供してきましたが、住宅供給過多な状況にある現状ではただリフォームするだけでは空室を埋めることが難しくなってきています。
そこでリノベーションで大きく修繕をして様式や間取りを変えて、現代のニーズを満たそうとする取り組みも盛んに行われるようになりました。しかし、住宅が過剰ななかで住宅を供給してもなかなか需要を上げることは難しい時代にあります。
そんな中で「コンバージョン」という概念で地域にあるニーズを満たす業態に用途変更することで新しい需要を喚起する建築物が増えてきました。マンションをオフィスに変えたり、倉庫をギャラリーに変えるなどこれまでとは違った用途に改修して経営することで経営を立て直しているケースはたくさんあります。
コンバージョンの良さを知れば、諦めていた建物でもアイデア次第で収益を生み出す不動産に甦る可能性があります。コンバージョン建築を利用した土地活用にはコンバージョン建築の実績のある土地活用業者に相談をしてみましょう。
他にもアパート建築のノウハウを知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。