賃貸併用住宅の登記には、単独登記と区分登記の2つがあります。区分登記を行うことで、さまざまなメリットが得られますが、一部デメリットもあるため注意しなければなりません。
賃貸併用住宅を建築するなら、単独登記と区分登記のどちらがよいかを考えておく必要があります。区分登記の特徴や注意点を知り、自分に合った登記方法なのかを知っていきましょう。
賃貸併用住宅については以下の記事をご覧ください。
賃貸併用住宅の登記の基本
賃貸併用住宅を建築するなら、登記についての理解を深めておく必要があります。登記の基本として知っておきたいのは、次のポイントです。
- 賃貸併用住宅を所有するため登記手続きが必須
- 区分登記で自宅と賃貸を分けられる
- 賃貸併用住宅の区分登記をする流れ
- 賃貸併用住宅の区分登記にかかる費用
登記とはどのようなものなのかだけではなく、区分登記の特徴や登記手続きの流れや費用まで知っていきましょう。
賃貸併用住宅を所有するため登記手続きが必須
大前提として、賃貸併用住宅やその他不動産を所有するためには、登記手続きが必須です。登記手続きとは、購入や取得した不動産を、自分名義で登録することを指します。登記手続きをすることで、法務局で管理されている登記簿謄本に記録として残り、対象となる不動産を誰が所有しているのかを証明できます。
つまり、登記手続きを行っていない不動産は、第三者に対して所有権を主張できません。不動産は取得しただけで所有を主張できるわけではなく、登記手続きを完了し、名義を登録することで所有している証拠が生まれると考えましょう。
区分登記で自宅と賃貸を分けられる
賃貸併用住宅では単独登記と区分登記の2つがあり、それぞれで特徴が異なります。区分登記は自宅と賃貸部分を、別のものとして分けて登記できる方法です。区分登記をするには、建物の構造上自宅と賃貸部分が分かれている必要があります。
通常の単独登記では、自宅部分と賃貸部分をまとめて1つの建物として登記しますが、区分登記は1つの建物で複数の登記ができることが特徴です。
賃貸併用住宅の登記申請の流れ
賃貸併用住宅を新築した場合は、まず建物の表題登記が必要です。表示部の登記は土地家屋調査士がおこない、登記簿の権利部の登記は司法書士が行います。
それぞれの専門家に自分で依頼することもできますが、土地家屋調査士・司法書士両方の資格を持つ事務所に依頼したり、依頼した司法書士が提携している土地家屋調査士に実務を代行してもらうこともできます。
登記の申請には、登記申請書・印鑑証明書・委任状・住民票などの書類の提出が必要です。申請が終わった後は、登記の完了を待ち、終了次第登記完了書類が司法書士より送付されます。登記完了書類は名義を主張する重要な書類であるため、紛失しないように保管しておきましょう。
賃貸併用住宅の登記申請にかかる費用
登記申請には登録免許税がかかります。その金額は課税標準に一定の税率をかけることで計算することができます。ただし、個人が取得する住宅で一定の条件を満たすものは、税率軽減の特例があるので確認しておくとよいでしょう。また、登記事項証明書の取得に1通600円ほどの実費がかかります。
土地家屋調査士や司法書士への報酬は登記する件数や不動産の課税標準額によって異なりますが、3万円~9万円程度が相場です。
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賃貸併用住宅を区分登記する3つのメリット
賃貸併用住宅で区分登記をすることには、3つのメリットがあります。
- 住宅ローンを組むハードルが下がる
- 自宅部分で住宅ローン控除が使える
- 1戸単位で売却ができる
区分登記ならではのメリットを知り、どのような魅力があるのかを把握しておきましょう。
住宅ローンを組むハードルが下がる
区分登記を行うことで、住宅ローンを組みやすくなることは大きなメリットです。賃貸併用住宅でも住宅ローンは利用できますが、ローンを組むには自宅部分の割合が50%以上なければなりません。
しかし、区分登記だと自宅と賃貸部分を別で登記するため、自宅部分の割合に関係なく住宅ローンを利用できます。事業用のアパートローンと比較すると、住宅ローンのほうが金利が低いため、お得に融資を受けられることは大きな魅力です。
自宅部分で住宅ローン控除が使える
住宅ローンを利用することで、賃貸併用住宅の自宅部分において、住宅ローン控除を適用できることもメリットの1つです。住宅ローン控除は、毎年末の住宅ローン残高の1%が、所得税控除として受けられます。住宅ローン控除を受けるには、住宅ローンを利用するだけではなく、次の条件を満たす必要があります。
- 控除を受ける人人が住宅の引渡し日から6ヵ月以内に居住する
- 控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下
- 対象となる住宅の床面積が50平方メートル以上で床面積の2分の1以上が自身の居住用である
- 対象となる住宅に対して10年以上のローンがある
- 居住用にした年とその年の前後2年ずつの合計5年間に長期譲渡所得の課税の特例などを受けていない
住宅ローン控除の控除上限は年間40万円です。例えば2,000万円の住宅ローンを組み、その年の年末時点での残高が1,900万円の場合は、19万円が所得税から控除されます。
1戸単位で売却ができる
区分登記だと、自宅や賃貸部分を1戸単位で売却できることもメリットです。不動産投資ではワンルームマンション投資が手軽に始められることから人気であり、1戸単位での購入を考える人も多いです。
賃貸併用住宅は自宅と投資用物件の両方の性質を持つため、1棟まるごとの売却は難しくなります。1戸単位で手放せると、売却のハードルは下がり、スムーズに不動産を現金化できます。
「今持っている不動産を現金化したい」という方は、売却という形で手放すという選択肢もあります。一括査定サイト「イエウール」を使えば、無料で最大6社から査定を受けられるので高く売ってくれそうな会社が分かります。
賃貸併用住宅の建築を考えている方は、以下の記事をご覧ください。
賃貸併用住宅を区分登記する2つのデメリット
メリットの多い区分登記ですが、一部デメリットもあります。
- 将来の相続で使えない特例がある
- 複数のローンを組むため諸費用が増える
デメリットも正しく理解して、区分登記が自分にとってお得かどうかを見極めましょう。
将来の相続で使えない特例がある
区分登記を行うことで、将来の相続で一部の特例が使えなくなることがあります。相続時に使える小規模宅地等の特例は、相続する宅地の330㎡までの部分に対して、評価額を80%減額できます。
しかし、小規模宅地等の特例を適用できるのは、不動産の所有者と同居していた場合のみです。区分登記している賃貸併用住宅で、家族が賃貸部分に住んでいる場合は同居として認められないため、相続時に小規模宅地等の特例は適用できなくなります。
複数のローンを組むため諸費用が増える
区分登記をする場合は、自宅部分で住宅ローンを組み、賃貸部分では事業用のアパートローンを組んで融資を受けます。ローンを複数組むことになるため、ローン契約時の諸費用が増える点はデメリットです。ローン契約に必要な諸費用としては、次のものがあげられます。
- ローン契約の事務手数料
- 団体信用生命保険の保険料
- 抵当権の設定費用
ローンの本数が増えるほど、諸費用も増額されることは覚えておきましょう。
区分登記以外でも賃貸併用住宅にかかる費用を節約
賃貸併用住宅では、区分登記をする場合以外でも、さまざまな費用がかかります。そのため、低コストで運営するには、登記以外にかかる費用を節約することが大切です。
- 相場にあった建築費にするため複数社で比較
- 自宅と賃貸部分で設備のランクを変える
- 賃貸の部屋は40㎡以上で設計
ポイントを押さえて経営することで、さまざまなコストを削減できます。
相場にあった建築費にするため複数社で比較
相場に見合った金額で賃貸併用住宅を建築するには、複数の建築会社から見積もりをもらい、各社の条件を比較することが大切です。賃貸併用住宅の建築には、決まった価格はありません。同様の条件で建築してもらえる場合でも、依頼する建築会社によってかかる費用は異なります。
相場以上の金額で建築し、損をすることがないように、複数社の見積もりを比較して相場を知り、納得できる金額を提示した建築会社に依頼しましょう。
自宅と賃貸部分で設備のランクを変える
設備投資にかける費用を削減することで、コストは減らせます。コストを削減するには、自宅部分と賃貸部分でランクを変えるとよいでしょう。
快適に暮らせるように自宅部分の設備にはこだわり、賃貸部分のランクを落とすことでコストは削減できます。賃貸部分の設備のランクがどれだけ高くても、設備投資に見合う高額な家賃を設定すると入居者は見つけづらいです。
そのため、賃貸部分は入居者からの不満が出ない最低限のランクで設備を導入し、自宅部分にお金をかけられるようにしておきましょう。
賃貸の部屋は40㎡以上で設計
不動産を取得した際には、取得した不動産の評価額に応じて不動産取得税がかかります。賃貸の部屋を40㎡以上240㎡以下にしておくことで、不動産取得税の軽減措置が受けられます。
不動産取得税は通常固定資産税評価額に税率の4%をかけて計算しますが、軽減措置が受けられると税率を3%に下げることが可能です。また、固定資産税評価額に対して1,200万円の控除が受けられるため、場合によっては不動産取得税が非課税となることもあります。
\建築費は?初期費用は?/
賃貸併用住宅の区分登記の気になる疑問
賃貸併用住宅で区分登記をしようと考えているなら、詳細な疑問も解消しておくことが大切です。
- 区分登記をやめることは可能なのか
- 区分登記なしでアパートローンが得になることはあるか
- 登記手続きは自力でできるのか
よくある疑問とその回答を参考にして、不明点を解消してから登記手続きに臨みましょう。
賃貸併用住宅でよくある失敗や後悔については、以下の記事をご覧ください。
区分登記をやめることは可能なのか
すでに区分登記していたものを、一棟の建物として単独登記し直すことは可能です。登記は手続き上のものであるため、区分登記から単独登記にするにあたっては、建物に手を加える必要はありません。再度登記手続きをやり直すことで、区分登記から単独登記に変更できます。
区分登記なしでアパートローンがお得になることはあるか
区分登記なしで住宅ローンを利用せず、アパートローンを組むことで得られるメリットもあります。住宅ローンでは金融機関ごとに完済時の年齢の上限が定められていますが、アパートローンには年齢の上限はありません。
そのため、長期間融資を受けたい場合で、住宅ローンだと完済時の年齢の上限が問題になる場合は、アパートローンを組んだほうがよいでしょう。
ただし、アパートローンは住宅ローンよりも金利が高く、ローン返済の負担が増えることは理解しておかなければなりません。
登記手続きは自力でできるのか
自身で法務局を訪れて申請することで、司法書士に依頼しなくても登記手続きは行えます。ただし、自分で手続きをする場合は、必要書類を集めたり、法務局で申請をしたりする必要があるため、時間と手間がかかります。
手続きに関して不明点があったり、時間や手間をかけられなかったりするなら、多少費用を支払ってでも司法書士に依頼して、代行してもらったほうがよいでしょう。
区分登記が本当に必要かよく考えて賃貸併用住宅の手続き
賃貸併用住宅の登記をする際には、区分登記が本当に必要なのか、よく考えておくことが大切です。人によっては区分登記よりも、1棟まとめて登記する単独登記のほうがメリットが大きくなることもあります。
一概に単独登記と区分登記のどちらがよいかは、決まっているわけではありません。それぞれの特徴を正しく理解して、自分に合った方法で賃貸併用住宅の登記を行いましょう。