アパート経営をしている方のなかには、自分は青色申告をすることができない、青色申告は事業規模が大きいオーナーがするものだと思っている方もいるのではないでしょうか。
結論、受けられる特典は異なりますが、ワンルーム経営でも青色申告を行うことができます。
本記事では、アパート経営における青色申告の特典を最大限に受け取るための条件や青色申告の特典、確定申告のために必要な所得の求め方、経費、さらに法人化して節税する方法について解説します。
アパート経営を個人事業主として始めたい方には、以下の記事もおすすめです。
アパート経営の青色申告で65万円の控除を受ける方法
本章では、アパート経営の青色申告を利用して、最大限に控除を受けるための条件を解説します。全ての条件をクリアしなければ、65万円の控除を受けられませんのでしっかりと確認していきましょう。
5棟10室の事業的規模にする
青色申告で65万円の特別控除を受けるためには、事業的規模のアパート経営を行わなければなりません。
事業的規模とは、5棟10室以上の規模でアパート経営を行うことであり、事業的規模であるかどうかの判定は税務署が行います。
事業的規模の判断基準として、アパート経営では10室以上建物の貸付けが行われていれば、事業的規模として認めれます。また、サブリースなどの一括借り上げの場合も同様に10室以上であれば事業的規模として認められます。
事業的規模の判断基準
事業的規模の判断基準として、収益不動産であればワンルームマンションやアパートを組み合わせて、5棟10室の事業規模を超えていれば、事業的規模として認められます。戸建て賃貸や駐車場を所有している場合、以下のようにカウントしていきます。
- アパート1部屋=1室
- 戸建て賃貸1棟=2室
- 駐車場5台=1室
例えば、戸建てを2棟、アパートを5部屋、駐車場5台分の収益不動産を所有していた場合、戸建ては2棟=4室、駐車場は5台=1室となるため、4室(戸建て2棟)+5室+1室(駐車場5台)=10室となり、事業的規模と判定されます。
現金主義の帳簿をつけない
青色申告で最大限に特別控除を受けるためには、現金主義で記帳をつけるのではなく、発生主義で記帳をつける必要があります。
発生主義とは、取引をとらえるうえで、現金の出入りではなく、取引が発生したタイミングで認識する考え方です。
そのため、発生主義では、まず商品を購入したタイミングで仕訳を行います。そして、取引の終了を待たずに取引の発生(取得・購入など)と処分(支払・入金など)を分けて考えるため、取引において必ずしも金銭が関係するわけではありません。
以下の表は、アパート経営で使うために3月15日に3,000円分の文房具を買って、支払を月末に行った例をまとめています。
発生主義 | 取引 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|---|
購入時 | 商品を購入する | 消耗品費 | 3,000円 | 未払金 | 3,000円 |
支払時 | 商品代金の支払いをする | 未払金 | 3,000円 | 現金 | 3,000円 |
そして、上記の表を実際に記帳をつけるときは、以下のように行います。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
3月15日 | 消耗品費 | 3,000円 | 未払金 | 3,000円 | 消耗品 |
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
3月31日 | 未払金 | 3,000円 | 現金 | 3,000円 | 消耗品 |
e-Taxで申告するか電子帳簿保存をする
令和2年度分以降から、青色申告で65万円の控除を受けるためには、国税庁のe-Taxというサービスで確定申告を行うか、電子帳簿保存を利用しなければなりません。
上記のどちらかを利用していなくても、青色申告をすることはできますが、青色申告の控除額が55万円に下がってしまいます。しっかりと65万円の控除を受けるためにも2つのサービスについて確認していきましょう。
e-Taxとは
e-Taxとは、所得税や法人税、消費税などの申告をインターネットを利用して電子的に手続きを行うことができるシステムのことです。
これまで書面で行っていた手続等を電子化して、簡潔に行うことできるようになっています。
このe-Taxというサービスを利用して、自宅などのパソコンから確定申告書と青色申告決算書のデータを送信することで65万円の控除を受けることができます。
しかし、税務署のパソコンでは青色申告決算書のデータを送信することができないため、65万円の控除が受けられないことに注意が必要です。
電子帳簿保存とは
電⼦帳簿保存とは、電⼦的に作成した帳簿について、⼀定の要件の下で、電⼦データのまま保存できる制度のことです。
65万円の控除を受けるためには、その年の事業にまつわる仕訳帳と総勘定元帳を税務署長の承認を受けて、電子的記録による備付けと保存を行う必要があります。
この制度を適用するためには、帳簿の備付けをする3か月前までに「電子帳簿保存に係る承認申請書」を税務署に提出しなければなりません。
しかし、令和3年度の税制改正により電子帳簿保存法が改正され、令和4年1月1日以降に電子帳簿保存を行う場合、事前の税務署長の承認を受ける必要がなくなりました。その代わりに、法定申告期限までに⼀定の事項を記載した届出書を提出する必要があります。
詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
正規の簿記で記帳する
青色申告では正規の簿記で記帳をする必要があります。
資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引を正規の簿記の原則に従い整然と、かつ、明瞭に記録し、その記録に基づき、貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならない
引用:青色申告者のための貸借対照表作成の手引き
提出期限までに提出する
最後に、その年の3月15日までに確定申告書とともに貸借対照表と損益計算書を提出する必要があります。
期日に間に合わなければ、65万円の控除を受けることができないため、しっかりと確定申告に向けて準備をしておきましょう。
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エリア | 愛知県 |
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延べ床面積(㎡) | 550 |
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建築費用(円) | 10,000万 |
アパート経営の青色申告で受けられる特典
青色申告をすることで得ることできる特典は、青色申告特別控除・青色事業専従者給与・貸倒引当金・純損失の繰越しと繰戻しがあります。
事業規模によって受けられる特典が違いますので、1つずつ確認していきましょう。
青色申告特別控除
アパート経営で確定申告を行うとき、給与所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得、事業所得、利子所得、配当所得、退職所得、一時所得、雑所得を1つにまとめて税務署に申告します。
アパート経営では、不動産所得が発生し、これは家賃収入から必要経費を引いた金額となります。そして、事業的規模で青色申告をすることで、不動産所得からさらに65万円(※)の控除を受けることができます。
一方で、5棟10室の条件を満たしていない場合でも所得の控除は受けられますが、不動産所得から10万円の控除になります。
(※)2020年度以降の青色申告特別控除額は最大で55万円となりましたが、これまでの要件とe-Taxによる電子申告を行うことで65万円の控除を受けられます。
参考:国税庁「青色申告特別控除」
青色事業専従者給与
アパート経営が事業的規模と判定されている場合、青色事業専従者給与の特典を受けられます。
青色事業専従者給与の特典とは、青色申告者と同一生計であり、かつ業務に専従している15歳以上の家族に支払った給与は、一定の条件の範囲内であれば、必要経費に算入することができます。
一定の範囲内とは、事前に提出された届出書に記載された金額の範囲内であり、専従者の業務に対価として適した金額であることです。
また、青色事業専従者として給与をもらっている人は、控除対象の配偶者や扶養家族になることができないことに注意が必要です。
貸倒引当金
アパート経営がアパート経営が事業的規模と判定されている場合、貸倒引当金の特典を受けられます。
借主が夜逃げや自己破産で回収不能となった場合、回収不能になった年の分の損失を経費として計上することができます。
純損失の繰越しと繰戻し
アパート経営で赤字をが出た場合、青色申告者はその純損失を翌年から最大3年間、繰越したり、繰戻したりすることができます。
例えば、令和2年度の所得が300万円の赤字を出し、令和3年度の所得が500万円の黒字だった場合、令和3年度の所得が200万円になります。
- 令和3年度分500万円(黒字)-令和2年度分300万円(赤字)=令和3年度分200万円(黒字)
アパート経営では初年度や大規模修繕を行った年は、特に費用を使うため、アパート経営自体が赤字になりやすいです。こういった赤字を所得の多い年にぶつけることで、所得を目減りさせることができ、所得税や住民税の節税になります。
参考:国税庁「青色申告制度」
アパート経営の青色申告における所得の求め方
本章ではアパート経営の確定申告に必要になる所得の求め方を解説します。
個人の所得の求め方
個人の所得には、給与所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得、事業所得、利子所得、配当所得、退職所得、一時所得、雑所得の10種類があります。普段は会社員で、副業としてアパート経営を行っている場合、会社からの給料所得とアパート経営の不動産所得を得ることになります。
そして、これらの所得を1年間でいくら得たのかを計算したものが総所得金額です。個人の総所得金額は以下の計算式で求めることができます。
- 総所得金額=給与所得+不動産所得+・・・+雑所得
確定申告では、以上の計算式で求めた金額を申告する必要があります。
不動産所得の求め方
個人の所得の1つである不動産所得は、家賃収入から必要経費を差し引いた金額になります。
収入には、家賃収入だけでなく共益費や礼金、更新料まで含まれます。また、必要経費にはアパートや設備の減価償却費などが含まれます。
個人の不動産所得は以下のように求めることができます。
- 不動産所得=家賃収入+共益費+礼金+更新料+・・・-必要経費
したがって、不動産所得を求めるには、アパート経営において1年間で得た収入と支出の項目と金額を明らかにしておく必要があります。
青色申告における所得の求め方
上記で解説したように不動産所得を求めることができたら、青色申告をする場合、ここからいくら控除が発生します。
- 不動産所得=家賃収入+共益費+・・・-必要経費(青色事業専従者給与、回収不可になった家賃など)-特別控除55万円(65万円)
また、アパート経営を始めて何年か経過している場合、過去3年間の赤字を繰越すことができます。赤字を繰越すことで、その年の課税所得を目減りさせることができるため、所得税や住民税を節税することができます。
アパート経営の青色申告で費用できる費用
本章では、アパート経営において経費になる費用と経費にならない費用を解説します。
アパート経営において経費になるかどうかは「アパート経営に直接関係した費用であるかどうか」です。基本的に、この考え方をアパート経営で発生した費用に当てはめて経費かどうか判断します。
一部わかりづらい費用もありますので、下記で詳しく解説していきます。
経費になる費用
アパート経営において経費になる費用は以下の通りです。
分類 | 勘定科目 | 具体例 |
---|---|---|
不動産所得の勘定科目 | 公租公課 | 固定資産税・都市計画税 |
減価償却費 | 建物や設備投資費用 | |
修繕費 | 共用部の修繕や排水管の工事などの費用 | |
借入金利子 | アパートローンを返済する分のうち、利息分のかかる費用 | |
損害保険料 | 火災保険や地震保険にかかる費用 | |
専従者給与 | 青色申告従事者への給料 | |
一般用の勘定科目 | 広告宣伝費 | 入居者を募集するためにかかった広告費用 |
通信費 | アパート経営に関して利用した電話やインターネットにかかる費用 | |
雑損失 | 立ち退きの際に発生した費用 | |
接待交際費 | 関係者と行った食事代や贈答品代 | |
消耗品代 | カメラやパソコンなどアパート経営に必要な機材費用・ボールペンやハサミなどの事務用品費 | |
旅費交通費 | アパート経営関連の電車賃やガソリン代など | |
新聞図書費 | アパート経営関連の情報収集に使った書籍や新聞代 | |
増設した勘定科目 | 管理諸費 | (委託する場合)管理委託費用 |
支払手数料 | 物件を購入した際に不動産仲介会社に払う仲介手数料 | |
支払報酬 | アパート経営に関して、弁護士や税理士に依頼する際にかかった費用 |
ここでは、青色申告において注意が必要な「公租公課」「減価償却費」「専従者給与」「修繕費」「管理所費」について解説します。
公租公課
公租公課は、固定資産税や不動産所得税といった税金が含まれます。
一方で、所得税と住民税はアパート経営に直接関係している訳ではないため、経費として計上することはできません。
減価償却費
減価償却費とは、時間の経過にともない価値が薄れていく資産価値をその法的耐用年数で割ったもの(減価償却)の1年あたりの費用のことを指します。
アパート経営における減価償却費は、アパートの建築・購入費はもちろんのこと、新しい設備を設置したときに発生する費用もここに含まれます。
アパートの減価償却費は構造ごとに法定耐用年数が異なるため、どの構造を選ぶかによっても減価償却費は変わってきます。以下は、構造ごとの法的耐用年数です。
- 木造・・・22年
- 軽量鉄骨造・・・19~34年
- 鉄筋コンクリート造・・・47年
専従者給与
専従者給与とは、先述した青色事業専従者給与のことです。
専従者給与として経費に計上するためには、親族かつアパート経営以外で給与をもらっていないことが条件となりますので注意が必要です。
修繕費
アパートを修繕したときに発生する費用は「修繕費」と「資本的支出」に分けられます。
これを見分けるには、支出額が20万円未満でその支出の周期が3年以内であるかがポイントになります。この基準を満たすものは「修繕費」となり、オーバーするものは「資本的支出」となります。
具体的に「修繕費」に該当するものは、以下のような費用です。
- 退去による壁紙の張替え
- 敵的な外壁の塗装
一方、「資本的支出」に該当するものは、以下のような費用です。
- 今より上質な材料を用いた外壁塗装ための費用
- ブロックキッチンをシステムキッチンに入れ替えるための費用
管理諸費
アパートを自主管理したときに発生した費用や管理会社に依頼したときの管理手数料は管理諸費として経費に計上することができます。
自主管理では、日々の清掃や設備点検、入退去の際にかかった費用から、業務に関係する交通費や接待費なども経費にできます。そのため、領収書などは忘れずに受け取り、不足なく帳簿に反映させるようにしましょう。
アパート経営の青色申告で経費ならない費用
アパート経営において経費にならない費用は、以下の通りです。
必要経費にならないもの | 具体例 |
---|---|
借入金 | アパートローンの元本部分 |
税金 | 所得税や法人税 |
アパート経営に関係ない費用 | プライベートで使った費用 |
基本的に、アパート経営に直接関係のない費用は経費になりません。
アパートを建築・購入するための借入金やプライベートで使った交際費などは経費として計上できないことに注意が必要です。
アパート経営を始める可能性が出てきたら、複数の企業にプランを提案してもらうのがおすすめです。
なぜなら、アパート経営は建築費の見積もりや賃料設定など経営プランによって収益が1,000万円以上変わることもあるからです。
建築費がいくらなら収益性の高いアパート経営ができるのか、利回りはどのくらいが適切なのか、気になるところを建築会社に相談してみましょう。
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アパート経営を法人化して青色申告をするとさらに節税できる
個人事業主としてアパート経営をするより、法人化した方がさらに節税できることもあります。
本章では、アパート経営を法人化する目安と法人が青色申告をすると得られる特典を解説します。
法人化の目安
上記で求めた課税所得が1,000万円を超える人は、アパート経営を法人化した方が所得税を節税することができます。
まず課税所得に応じて、所得税と住民税が課されることはご存じだと思います。アパート経営を法人化することで所得税や住民税を払わなくなる代わりに、法人税を払うことになります。
そこで、課税所得が1,000万円(厳密には900万円)を超えていると法人税率の方が所得税率と住民税率を合わせた税率よりが10%ほど低くなります。そのため、課税所得が1,000万円を超えている人は法人化したほうが所得税の節税になります。
法人化の目安について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
欠損金の繰越控除
個人事業主の青色申告でも純損失の繰越しができますが、法人化しても同じようなことが可能です。
たとえば、令和元年が100万円の赤字で令和2年が50万円の黒字だった場合、令和2年度の50万円の黒字は相殺されます。
さらに、法人化することで、相殺した残りの赤字を翌年にも繰越すことができます。先ほどの例で解説すると、令和3年度が70万円の黒字だった場合、70万円(令和3年度)+(50万円(令和2年度)-100万円(令和元年))=20万円の黒字として確定申告を行います。
また、個人事業主の純損失の繰越しは3年間でしたが、法人化すると10年間の間、欠損金を繰越すことができます。
詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
欠損金の繰戻しによる法人税の還付
法人化をすると、個人事業主の青色申告と同様に赤字を過去の黒字にぶつけることができます。
過去の黒字に赤字をぶつけることで、過去の黒字分で支払っていた法人税を一部還付してもらうことが可能になります。
注意点としては、ある年度の赤字を繰越控除と繰戻し還付の両方に適応させることができないことです。また、適用できる赤字は前年度の黒字分だけになるため、残った赤字分は翌年以降に繰越すことができます。
こちらも詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
少額減価償却資産の取得価額の損金算入
法人化すると、30万円未満の少額減価償却資産を一括で経費に計上することができます。
こちらの制度は、令和4年3月31日に事業用に取得した少額減価償却資産が対象になります。一度に多くの費用を経費として計上することができるため、その年の法人税を大幅に減らすことができるでしょう。
また、この制度には経費にできる金額に限度があり、1年間で合計で300万円までを一括計上することができることに注意が必要です。
こちらも詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
アパート経営は青色申告した方が節税できる
アパート経営において青色申告を行うことで、特別控除を受けることができます。
アパート経営が事業的規模であれば、最大で65万円までは確実に控除を受けることができますので、確定申告が必要な方は青色申告を行うことをおすすめします。
ただし、青色申告を行うには事前に税務署で申請を行う必要がありますので、注意が必要です。
アパート経営においてもメリットの多い青色申告をスムーズに行えるよう、その条件を確認し上手に節税ができるようにしましょう。
記事のおさらい