一般的に10室以上を賃貸住宅として貸し出している場合、事業的規模とみなされ、個人事業主として開業する必要があります。
開業することで得られるメリットが大きく、青色申告ができるというところが特に税制面においてとても有利に働き、所得税の対策にもなります。そのため、アパート経営をしているなら個人事業主として開業することを考えている人も多いかと思います。
そこで本記事では、アパート経営で個人事業主として開業することにより行える節税対策や、必要な届け出などを紹介しています。
また、2023年10月から始まった「インボイス制度」がアパート経営の個人事業主に与える影響についても解説します。
アパート経営については、以下の記事をご覧ください。
アパート経営の個人事業主が取れる節税対策
アパート経営を個人事業主として開業すると、以下の三つの節税対策を行うことができます。
- 青色申告を利用する
- 必要経費を正確に計上する
- 所得控除・税額控除を活用する
青色申告を利用する
事業的規模でアパート経営を始め、個人事業主として開業すれば、青色申告で確定申告をすることができます。青色申告とは、一定の水準の記帳を行い、その記帳に基づいて正しい申告をする人には、所得金額の計算に有利になる特典を受けられるという確定申告の制度です。
青色申告では、通常の確定申告よりも手間のかかる複式帳簿を記帳しなければなりませんが、その分多くの特典を得ることができます。青色申告で受けられる特典は、以下の4つとなっています。
- 青色申告特別控除
- 青色事業専従者給与
- 貸倒引当金
- 純損失の繰越し・繰戻し
青色申告については、下記の記事で詳しく解説していますので是非そちらをご覧ください。
青色申告特別控除
青色申告特別控除とは、不動産所得や給与所得を合算した総所得から最大で65万円の所得控除を受けられる制度です。
この特別控除を受けるためには、事業的規模であったり、e-Taxや電子帳簿保存を利用していなければいけなかったりと多くの条件がありますが、65万円の所得控除はとても大きいため、個人事業主として青色申告は必ず行いましょう。
青色事業専従者給与
青色事業専従者給与とは、青色申告者と同一生計であり、かつ業務に専従している15歳以上の家族に支払った給与は、一定の条件の範囲内であれば、必要経費に算入することができます。
つまり、15歳以上の家族に支払った給与は経費として計上することができます。この特典を利用することで、課税所得を減らすことができ、所得税や住民税を大幅に節税することが可能になります。
貸倒引当金
貸倒引当金とは、入居者が夜逃げや自己破産で回収不能となった場合、回収不能になった年の分の損失を経費として計上することができます。
アパート経営の損失を経費にすることができるため、課税所得も減らせて、オーナーにとってもありがたい特典となっています。
純損失の繰越し・繰戻し
アパート経営で赤字が出た場合、青色申告を行うことで最大3年間その赤字を繰越したり、繰戻したりすることができます。
特にアパート経営を始めた年や大規模修繕を行った年は、支出が多くなり、収支が赤字になることが多いです。その赤字を黒字の年にぶつけることで、その年の不動産所得を目減りさせることが可能になります。そのため、所得税や住民税の節税につながります。
必要経費を正確に計上する
所得税は所得が高くなるほど税率も高くなるため、経費を正しく計上し、所得額を低く抑えることで節税に繋がります。
経費にできる費用
ここでは、具体的にアパート経営で発生することの多い経費をまとめました。下記の表は、該当する費用の勘定科目まで記載しているため、確定申告の書類を作成するときにも参考にすることもできます。
分類 | 勘定科目 | 具体例 |
---|---|---|
不動産所得の勘定科目 | 公租公課 | 固定資産税・都市計画税 |
減価償却費 | 建物や設備投資費用 | |
修繕費 | 共用部の修繕や排水管の工事などの費用 | |
借入金利子 | アパートローンを返済する分のうち、利息分のかかる費用 | |
損害保険料 | 火災保険や地震保険にかかる費用 | |
専従者給与 | 青色申告従事者への給料 | |
一般用の勘定科目 | 広告宣伝費 | 入居者を募集するためにかかった広告費用 |
通信費 | アパート経営に関して利用した電話やインターネットにかかる費用 | |
雑損失 | 立ち退きの際に発生した費用 | |
接待交際費 | 関係者と行った食事代や贈答品代 | |
消耗品代 | カメラやパソコンなどアパート経営に必要な機材費用・ボールペンやハサミなどの事務用品費 | |
旅費交通費 | アパート経営関連の電車賃やガソリン代など | |
新聞図書費 | アパート経営関連の情報収集に使った書籍や新聞代 | |
増設した勘定科目 | 管理諸費 | (委託する場合)管理委託費用 |
支払手数料 | 物件を購入した際に不動産仲介会社に払う仲介手数料 | |
支払報酬 | アパート経営に関して、弁護士や税理士に依頼する際にかかった費用 |
減価償却費
アパート本体やパソコンなどの減価償却資産(固定資産)は年数が経過することで、資産の価値が減少していくため、その減少分を毎年経費として計上することができます。
この減少分のことを減価償却費といい、ここにはアパートの建築費が含まれるため、1年間の経費の大部分を占めることになります。
また、減価償却費は、耐用年数をもとに減価償却をする期間が決まっています。
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
鉄骨造 骨格材の厚み3mm以下 | 19年 |
鉄骨造 骨格材の厚み3mmを超え4mm以下 | 27年 |
鉄骨造 骨格材の厚み4mm以上 | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
上記の表は、アパートの構造別の耐用年数となっており、5,000万円で木造アパートを建築した場合、毎年、5,000万円×(1÷22年)=230万円を22年間、経費として計上することになります。
詳しい減価償却費の計算方法は以下の記事をご覧ください。
所得控除・税額控除を活用する
所得控除・税額控除も有効な節税対策の一つです。年間の所得金額から一定額を差し引くことができる所得控除や、課税金額自体を減額させられる税額控除を活用しましょう。
それぞれ所得控除の要件に当てはまる場合、各所得の合計金額から各所得控除の合計額を差し引きます。所得税額は、その残りの金額を基礎として計算されます。
所得控除の種類は以下の通りとなっています。
- 雑損控除、医療費控除、社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除
- 地震保険料控除寄附金控除、障害者控除
- 寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除
- 配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除
- 基礎控除
詳しく知りたい方は、国税庁が紹介しているので参考にしてみて下さい。
個人事業主として開業するために、10室以上のアパート経営を始めたいと思ったら、早い段階で施工会社から建築プランと建築費用の見積もりを取得しましょう。施工会社に提案される建築プランには建築費用の見積もりだけでなく設計図面や収支計画が含まれています。複数の施工会社の建築プランを比較することで、客観的に利回りを算出することもできますし、自分の土地でどのようなアパートを建てられるかイメージが湧くようになります。
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個人事業主として開業するために必要な届け出
実はアパート経営で個人事業主として開業することはそう難しくはありません。必要な届け出を提出するだけで開業することができます。その必要な届け出に関して説明していきます。
個人事業主になることで大きなメリットを得られるため、開業を考えている人はしっかりと確認しておきましょう。
開業届
アパート経営を個人事業主として開業するためには、「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を税務署に提出する必要があります。
個人事業主として開業しないのであれば、この書類を提出しなくても特に罰せられることはありませんが、青色申告で節税しようと考えているのであれば提出が必須となります。
開業する場合、「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」は開業日から1か月以内には提出しましょう。
青色申告承認申請書
税務署に開業届けを提出する際、青色申告承認申請書も一緒に提出すると良いでしょう。これは開業して青色申告をするのに必要で、開業日から2か月以内に税務署に提出する必要があります。
青色申告では、通常の確定申告よりも手間のかかる複式帳簿を記帳しなければなりませんが、その分青色申告特別控除を受けられるなどのメリットがあります。
青色申告のやり方
アパート経営で青色申告をするときは、複式簿記で記帳をしなければなりません。複式簿記とは、1回の取引を複数の科目(原因と結果)で記録するという記帳方法です。
これではよくわからない方もいると思いますので、具体例を用いて説明します。現金で消耗品であるボールペンを3,000円分購入したとき、まず「ボールペンという消耗品代を使った」という原因と「現金3,000円を使った」という結果に分けます。
これを原因と結果を踏まえて、記帳すると以下のようになります。
借方 | 貸方 |
消耗品代 3,000円 | 現金 3,000円 |
ここで登場した「借方」と「貸方」は複式簿記で必要になる概念で、支払ったら貸方(右側)、受け取ったら借方(左側)と覚えておきましょう。
今回の場合、現金3,000円を支払ったため、貸方に「現金 3,000円」と記入し、ボールペンを3,000円分受けとったため、借方に「消耗品代 3,000円」と記入します。このように、青色申告では、発生した取引を漏れなく仕訳し、記帳していく必要があります。
個人事業開始等申告書
個人事業を開始した際には「個人事業税の事業開始等申告書」を都道府県税事務所に提出することになっています。
地方自治体によって「個人事業税の事業開始等申告書」の名称や手続きは異なります。概ね1か月以内には提出するようにしましょう。
事業的規模のアパート経営に課される個人事業税
アパート経営を個人事業主として開業すると、所得税とは別に個人事業税という地方税を納める必要があります。
個人事業税は、アパート経営の貸付け規模や賃料収入によって判断されます。基本的に、10室以上の事業的規模でアパート経営をしていると、第1業種の不動産貸付業とされ、5%の税率になります。
- 個人事業税=(所得金額-事業主控除290万円)×5%
また、個人事業税は所得税のような申告の必要はなく、所得税を確定申告すれば税務者に納付書が送られてきます。その納付書に記載された金額を納付します。
アパート経営を始めるなら最初の情報収集が重要です。日本最大級の土地活用プラン比較サイトイエウール土地活用なら、土地所在地の入力だけでアパート経営のプランを取り寄せることができます。
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エリア | 広島県 |
土地面積(㎡) | 800 |
延べ床面積(㎡) | 421.46 |
工法 | 木造在来 |
建築費用(円) | 5,000万 |
アパート経営の個人事業主と法人の違い
本章では、アパート経営を法人化するメリットやデメリットを解説していきます。
法人化するメリット
アパート経営を法人化するメリットは、以下の3つとなります。
- 相続時に遺産分割しやすくなる
- 赤字の繰越期間が個人事業主よりも長い
- 計上できる経費を増やしやすい
相続時に遺産分割しやすくなる
アパートや土地を相続しようとしても、現金や有価証券に比べて分割しづらく、遺産分割でトラブルが発生してしまうことも多いです。
しかし、アパート経営を法人化することで、遺産分割が簡単になります。法人化すると、相続対象はアパートや土地ではなく、その会社の株式となります。株式を相続するときは1株単位で、分割することができるので、遺産分割が単純になり、トラブルを減らすことができます。
また、アパート経営を法人化しておくことで、法人口座や法人との賃貸借契約となるため、争族発生後の煩雑な手続きを省くことができます。
赤字の繰越し期間が個人事業主より長い
個人の場合、赤字を3年間繰り越すことができますが、法人の場合、10年間繰り越すことができます。
特にアパート経営では、初年度の減価償却による会計上の赤字が発生します。利益が多く出た年度に赤字をぶつけて相殺することで、納税額を減らすこともできるため、法人のほうが柔軟な会計戦略を描くことができます。
計上できる費用を増やしやすい
アパートを個人で所有している場合、個人の支出とアパート経営に関する支出は明確に分けなければなりません。そのため、個人事業主としてアパート経営を行うと、経費とすることができる範囲は自然と狭くなってしまいます。
しかし、法人化することで、経費化する領収書管理などの手間は増えますが、経費にできる費用の自由度を高めることができます。もちろん、個人事業主と同様に私用で使っている家の家賃や交際費は経費として計上できないことには注意しましょう。
法人化するデメリット
アパート経営を法人化するデメリットは、以下の3つとなります。
- 法人化には費用がかかる
- 税務調査が入りやすくなる
法人化には費用がかかる
個人事業主から法人化するためには、登録免許税や定款認証手数料、印紙代、印鑑代がかかります。また、会社としてアパート経営を運営していくと運営費用もかかっていきます。
会社は、お金の出入りを複式帳簿で記帳しなければならないため、税理士にすることも多く、その報酬も支払わなければなりません。そのため、法人化して節税可能な所得で運営費用や手続きの費用を支払えなければ、個人事業主としてアパート経営を始めましょう。
税務調査が入りやすくなる
アパート経営を法人化している場合、税務調査が入る確率が高くなります。
税務調査とは毎年行われる確定申告に対し、申告内容が正しいかどうかを税務署が調査することです。個人よりも法人の方がお金の出入りが多くいため、税務調査が入りやすくなっています。
しっかりと確定申告を行い、健全な運営を行っていれば、税務調査が入ったとしても特に問題はありませんので、あまり恐れることはないでしょう。
インボイス制度がアパート経営の個人事業主に与える影響
2023年10月からインボイス制度が正式に開始されました。
インボイス制度がアパート経営の個人事業主に影響を与えるかどうかは、賃料が課税対象かどうか、さらには借主が事業者かどうかで異なります。
ここではアパート経営の形態ごとでどのような影響があるのかを説明します。
テナントの賃貸がある
インボイス制度が始まると、事業者(アパート経営においては借主)は、消費税の仕入税額控除を受けるのにオーナーが発行する適格請求書(インボイス)が必要になります。
よって、借主が事業者の場合は適格請求書の発行を求められる場合があります。
店舗や事務所などのテナントを賃貸する場合、借主が事業者であることが多いため適格請求書の発行が求められると予想されます。
適格請求書を発行するには課税事業者になって適格請求書発行事業者に登録する必要があります。
課税事業者となれば、借主が仕入税額控除を受けられるようになるため、物件の競争力は相対的に高まると考えられます。
一方で、適格請求書発行事業者の登録を行わない場合は仕入税額控除が受けられないため借主の負担が増えます。そうなればテナントの撤退や賃料減額が要求される可能性があります。
住居スペースのみ賃貸している
テナントの賃料は課税対象ですが、住居用の家賃等、礼金、敷金、共益費は非課税です。
よって、住居スペースのみに限定して賃貸している場合、借主から適格請求書の発行を求められる事はありません。そのため、特に課税事業者になり適格請求書発行事業者になる必要はないでしょう。
駐車場の賃貸がある
駐車場の賃料は課税対象になります。駐車場の借主が事業者でない場合、適格請求書の発行は求められません。
ですが、駐車場を事業用として借りている場合には適格請求書の発行が求められるため、オーナーは課税事業者になって適格請求書発行事業者に登録する必要があります。
アパート経営において、住居の用途に限定して賃貸する場合、インボイス制度による影響はありません。
ですが、住居用途以外、テナントの賃貸や駐車場の賃貸を同時に行う場合は適格請求書を求められる場合があります。
アパート経営は個人事業主として開業する
アパート経営は、所得をなどを考慮して個人事業主として開業するべきです。個人事業主として開業すれば、青色申告をしなかったとしても、個人事業税の控除を受けることができ、所得税や住民税、個人事業税の節税になります。
また、年間の総所得が1,000万円を超えているのであれば、法人化した方がもっと節税することができます。
アパート経営を個人事業主として開業するか、法人化するかは、事業計画の段階で決めることをおすすめします。しかし、事業計画の中で、アパート経営後の所得を計算することは難しいため、アパート経営を始めるのであれば、複数企業から一括で資料請求をすることができる土地活用比較サイトを利用して、収支プランの相談を行いましょう。
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是非、イエウール土地活用を利用して、アパート経営をスタートさせましょう。