不動産を売却する際には、売却して得られた利益額に応じて税金がかかります。扱う金額が大きいことから、かかる税金も多額になります。そのため、利用できる控除についてしっかりと理解し、節税対策を行うことが重要です。
この記事では、不動産売却にかかる税金の中でも、特に金額が大きい「譲渡所得税」を安く抑えるための制度である「3000万円の特別控除」についてご紹介します。控除の利用条件や手続き方法、必要書類についてもご説明していきたいと思います。
「まずは家を売る基礎知識を知りたい」という方は、こちらの記事をご覧ください。
「3000万円の特別控除」とは
「3000万円の特別控除」とは、簡単にお伝えすると、不動産を売却した際に得られる利益(譲渡所得)に対し、3000万円までは課税対象から除外するという制度になります。
例えば、3000万円でマイホームを購入し、数年後3500万円で売却に成功した場合、500万円の利益が発生しますが、「3000万円の特別控除」を適用すると、最大3000万円まで税金が控除されます。
ということは、【 利益である(500万円)から控除の3000万円を引く 】と結果がマイナスになり、譲渡所得税が0円(= 税金がかからない)ということになります。
なお、他に譲渡所得税が発生したときに適用できる特例は2種類あり、「10年超所有軽減税率の特例」と「特定居住用財産の買換え特例」になります。
「譲渡所得」とは、不動産などの資産を売却して得た利益のことを指します。 「譲渡所得税」とは、譲渡所得にかかる税金のことです。
譲渡所得(売却益)=売却金額 -(取得費+ 譲渡費用)
譲渡所得税の税率は、保有期間が5年以下なのか以上なのかによって異なります。
30.63%の所得税と9%の住民税で、合計39.63%の譲渡所得税がかかる
15.315%の所得税と5%の住民税で、合計20.315%の譲渡所得税がかかる
「3000万円の特別控除」適用時の具体的な計算方法
「3000万円の特別控除」を適用する場合、上記の計算式は正しくは以下のようになります。課税譲渡所得 [利益]= 譲渡価格 - (取得費+譲渡費用)– 3000万円
< 譲渡所得税 の求め方 >
譲渡所得税 = 課税譲渡所得 × 税率
それでは、例として以下のケースだった場合の譲渡所得税を計算してみましょう。
- 取得費が1000万円
- 譲渡費用が200万円
- 居住用財産を10年以内
- 売却費用が5000万円
- 課税譲渡所得
=5000万円 – (1000万円 + 200万円)- 3000万円
= 800万円 - 譲渡所得税
=800万円 × 20.315%
= 162.52万円
ちなみに、3000万円特別控除を適用しない場合には、課税譲渡所得が3,800万円となり、譲渡所得税は約610万円となり、約450万円の差が出ます。「3000万円の特別控除」の効果がいかに大きいかがわかりますね。
「3000万円の特別控除」制度を適用しない場合の税金
それでは、「3000万円の特別控除」制度を適用しない場合、どれくらい税金がかかるのでしょうか。譲渡所得税の仕組みも併せて解説します。
「課税譲渡所得」とは、売却価格から購入価格を差し引いたもので、3000万円で購入したマイホームを3500万円で売却した際の課税譲渡所得は500万円になります(3500万円 - 3000万円 = 500万円)。
先述した通り「課税譲渡所得」に税率をかけ合わせたものが「譲渡所得税」に該当しますが、税率は所有期間によって異なります。この章ではより詳しく説明します。
項目 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下の場合 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超えの場合 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
(※)平成25年から平成49年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%がそれぞれ加算されています。
参考: 国税庁HP No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁 より
先程の3000万円で購入したマイホームの例で言うと、5年以下の場合として、
【500万円 × 39.63% = 198.15万円】の譲渡所得税がかかることになります。中々に大きな金額になりますね。
実際に「3000万円特別控除」を適用したら税金がいくらになるかシミュレーション
不動産売却した際には譲渡所得税以外にも税金や手数料など多くの費用がかかります。どのくらいの費用がかかるかシミュレーションして手取り金額がいくらになるか把握しておきましょう。
必要項目を選択して「かかる費用・税金を見る」を押すと、ご自身の場合にかかる金額や項目の内訳が一覧で表示されます。
費用・税金名 | 金額 | 内容 |
---|
控除名 | 内容 |
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10年超所有軽減税率の特例と合わせて更にお得に!
もし、あなたの不動産が10年よりも長く住まわれた物件の場合、更に税控除を受けることが可能です。先ほどご紹介した「10年超所有軽減税率の特例」を理解する必要があります。
例えば、「10年超所有軽減税率」の特例が適用されると、課税譲渡所得が6000万円までの部分は税率は14.21%に軽減されます。次の章でご紹介する計算式に当てはめると、下記のようになります。
- 5000万円 – (1000万円 + 200万円)- 3000万円 = 800万円
- 800万円 × 14.21% = 112.68万円
5年超から10年以内の物件と比較して、およそ48万円の減額をすることができました。併用することができる制度については、しっかりと確認してどちらも利用するようにしましょう。
「3000万円の特別控除」の利用条件と注意点
「3000万円の特別控除」は、非常に大きな節税効果がある制度ですが、誰でも利用ができる制度なのでしょうか。この章では、制度を利用するための条件や注意点についてご紹介します。「3000万円の特別控除」の要件
「3000万円の特別控除」は、基本的にマイホーム(居住用財産)への適用を前提としています。具体的には、以下のような適用条件があります。- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること
- 家屋を取り壊した場合、譲渡契約までの間に、土地を住居以外に使ってないこと
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
また、反対に以下のような場合については適用しないということが明記されています。
- この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
- 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
- 別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋
適用上の注意点
マイホームが共有名義になっている場合には、控除額が複雑になります。ポイントとしては2点になります。- 3000万控除の適用は共有者全員で3000万円ではなく、共有者一人につき最高3000万円
- 分かりやすい考え方は、「(1)まず、建物の売却益から3000万円を上限に控除する (2)次に、建物の売却益が3000万円以下で控除の枠が余ったら、土地の売却益からも控除」と考える
控除金額の基本パターンは、4つに整理できます。(夫と妻で立場が以下とは逆でしたら、適宜読み替えてお読みください)
名義 | 譲渡益の取り分 | 控除金額の上限 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
建物 | 土地 | 夫 | 妻 | 夫 | 妻 | ||
建物 | 土地 | 建物 | 土地 | ||||
夫婦共有 | 夫婦共有 | 持分 | 持分 | 持分 | 持分 | 3,000万円 | 3,000万円 |
夫 | 妻 | 100% | なし | なし | 100% | 3,000万円 | (3,000万円) – (夫の控除金額) |
夫婦共有 | 夫 | 持分 | 100% | 持分 | なし | 3,000万円 | 3,000万円 |
夫 | 夫婦共有 | 100% | 持分 | なし | 持分 | 3,000万円 | (3,000万円) – (夫の控除金額) |
「3000万円の特別控除」必要書類や手続き
あなたの物件が「3000万円の特別控除」の条件に適合している場合には、必要書類を集めて申請する準備をしましょう。この章では、特例を受けるための必要書類や手続きについてご紹介します。申請にあたって必要な書類を準備する
申請にあたって必要な書類は以下の2つです。- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
- 住民票の写し ※譲渡の日から2ヶ月経過後に譲渡資産所在地の市町村長が発行したもの
実際の「譲渡所得の内訳書」は下の画像のものです。自分自身で書こうと思うと非常に大変なため、税理士に依頼するケースが多いです。 ※参考:「No.3302 マイホームを売ったときの特例 4 適用を受けるための手続」
必要な書類は不動産の種類や状況によって異なります。そこで、必要書類を簡単にチェックしましょう!
必要項目を選択して「必要書類を見る」を押すと、ご自身の場合に必要な書類が一覧で表示されます。
タイミング | 重要度 | 書類 | 内容 | 取得方法 |
---|
確定申告を行おう
譲渡所得税は、給与所得とは分けて計算する必要がある「分離課税」になります。そのため、給与とは別で確定申告をする必要があります確定申告書に措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》の適用を受ける旨を記載し、必要書類を添付して税務署に提出します。
確定申告は、不動産を売却した翌年の2月15日〜3月15日の間に確定申告を行う必要があります。
「相続」した空き家と「3000万円特別控除」の関係
相続した空き家を売却する場合、3000万円特別控除を受ける事はできるのでしょうか。様々な条件が関係するため、順番にみていきましょう。相続した時に関係する特例とは
「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」というものが、国税庁により定められています。制度の概要としては、「相続した不動産が、ある条件に当てはまる時に最高で3000万円までの控除を受ける事ができる」というものです。これまでに解説してきた「3000万円特別控除」は、あなたが自宅として使っていたものに関して使えるものです。相続した場合には適用されないため、この「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」について考える必要があります。
この制度で対象となる家は「被相続人居住用家屋」です。簡単に言うと例えばAさん(父)が亡くなってBさん(息子)が財産を引き継ぐ場合、Aさん(父)が住むために使っていた不動産の事です。逆に、住むためではない不動産としては、別荘であったり投資用のマンションなどが当てはまります。これらは居住用には該当しません。
では続いて、相続した不動産が条件にあてはまるか、特別控除を受ける条件にあてはまるかをみていきましょう。
対象の不動産となる条件は全部で3つ
「被相続人居住用家屋」として対象となるには、次の3つの条件すべてを満している必要があります。それぞれ当てはまるかどうか確認していきます。条件1:「昭和56年5月31日以前に建築された」
つまり、建築された日付によって対象となるかどうかか変わります。「昭和56年5月31日」よりも後に建てられた不動産に関しては対象になりません。条件2:「区分所有建物登記がされている建物ではない」
不動産登記をした際に、「区分所有」として登録されていない場合のことです。不動産登記内容に関しては、法務局で確認をすることができます。条件3:「相続の開始直前で被相続人以外に居住をしていた人がいない」
つまり、相続がはじまる直前の時点で、その家には亡くなった人が1人で住んでいなければなりません。これは、住んでいた人が亡くなったら空き家になる事が条件だと言っています。なぜこの条件があるかというと、そもそもこの特例は、日本における空き家の数を減らそうという方針があるからです。政府としては、「空き家になるなら助けるが、ならないなら税金を納めてください」と言いたいのではないでしょうか。制度を受けるための条件
対象の不動産かどうかはわかりましたでしょうか。ここからは、相続が制度の対象となるかを判断していきましょう。この条件はおおきく4つあります。条件1:「相続の時からおよそ3年以内に譲渡すること」
具体的には、相続の開始があった日から計算して、3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることです。例えば2019年4月1日に相続があった場合、3年後は2022年4月1日なので、2022年12月31日までに譲渡する場合に適用されます。条件2:「2023年12月31日までに譲渡すること」
条件1に加え、「令和5年12月31日」までに譲渡することも条件に含まれています。条件3:「売却代金が1億円以下である」
譲渡の際の対価として、1億円を超える場合は適用されません。2回以上に分けて売却をした場合も、通算で計算がされてしまいます。条件4:「一定の耐震基準を満たすか、更地にすること」
耐震基準を満たすためにはリフォームが必要です。リフォームする事が難しければ、更地にする必要があります。いずれにせよ、耐震基準を満たしていない物件では適用されません。リフォームをする場合も更地にする解体をする場合も、費用は発生します。不動産会社と相談しながら、お得な方法を選択しましょう。これらの他にも、あなたの状況によって適用される場合とされない場合があるため、詳しく知りたい方は専門家に相談してみましょう。不動産の売却を扱っている不動産会社であれば、専門的でありながらも気軽に相談ができそうですね。