相続財産である土地を、分筆して相続することを検討している人もいるかと思います。
この分筆に関して、メリットやデメリット、注意点についてなどを説明しているため、しっかりと理解して検討するようにしましょう。
- 分筆とは一つの土地を複数に分けることです。土地のことを「一筆、二筆」という単位を用いて数えるためこのように言います。分筆のための登記を分筆登記と言います。
土地を分筆して相続するメリット
土地を分筆して相続することには以下のメリットがあります。
- 遺産の分割がしやすい
- 節税できるケースがある
- 異なる権利関係を登記できる
- 異なる地目を登記できる
メリット①遺産の分割がしやすい
複数の相続人がいる場合、一筆の土地では全ての相続人が取得することはできません。とはいえ共有状態にしたところで問題の先送りにしかならず、将来的にトラブルは避けられません。
そこで分筆をすることにより複数の土地を作ることができるため、それぞれの相続人が分筆された土地を取得できて遺産分割がスムーズに行えます。
メリット②節税できるケースがある
分筆することにより、その土地の評価額が下がり税額が安くなる場合があります。分筆により節税が可能なケースは以下の通りです。
- 細い敷地で道路に接する「旗竿地」を作った場合
- 角地を分筆して「角地」と「普通の土地」に分けた場合
- 「広大地」として認められた場合
土地の評価額が下がれば、固定資産税や相続税が安くなります。
メリット③異なる権利関係を登記できる
分筆をすることで、土地の一部を売却・活用することができます。これは、「土地として相続して家を建てたい。」という相続人と「土地を売却して現金に換えたい。」という相続人が存在した場合に有効になります。
原則として一つの土地を複数の処分方法で分けることはできませんが、分筆によりそれが可能になります。それぞれの相続人が希望通りに土地を利用できるため、トラブルなく相続が進められるでしょう。
「今持っている不動産を現金化したい」という方は、売却という形で手放すという選択肢もあります。一括査定サイト「イエウール」を使えば、無料で最大6社から査定を受けられるので高く売ってくれそうな会社が分かります。
メリット④異なる地目を登記できる
土地の登記には地目という項目があり、一筆の土地が複数の地目で分けられることはありません。
地目とは「宅地」「山林」「田」「畑」などの土地の用途による区分のことで、分筆することによって同じ土地の中で地目を変更することができます。
例えば、畑の一部に住宅を建築する場合、住宅を建築する部分の土地だけを宅地に変更し、それ例外を畑のままにするといったことが可能です。
土地を分筆して相続するデメリット
土地を分筆して相続することには以下のデメリットがあります。
- 地形が悪くなる
- 土地の条件に差が生まれる
- 固定資産税が上がるケースがある
- 手間と費用がかかる
デメリット①地形が悪くなる
分筆することによって土地が不整形になったり、接道部分が狭くなり土地の使い勝手が悪くなったりすることがあります。
また、住宅が建っている土地を分筆する場合は、建築時よりも土地面積が狭くなるので、建ぺい率の問題などから建物の建築や増改築が困難になるケースがあります。
デメリット②土地の条件に差が生まれる
土地を分筆して複数の相続人で分ける場合、土地の条件を全て同じにすることは難しいため、条件の良い土地と悪い土地ができてしまいます。
そうなると、当然悪い土地の方を取得したいと考える人はいないため、相続人同士で揉める原因になることがあります。
デメリット③固定資産税が上がるケースがある
土地は建物が建っていることにより固定資産税の減税措置を受けますが、建物の建っていない土地には節税効果がなく高額な税金がかかります。
そのため、それまで建物が建っていた土地を分筆して建物のない部分の土地ができると、その土地の固定資産税が上がるなります。
デメリット④手間と費用がかかる
分筆は、測量・境界標設置・確定図の作成・登記申請などの作業の手間がかかる上、土地家屋調査士への依頼費もかかります。そして、合計でどれほどの費用がかかるかに関しては一概には言えません。
分筆にかかる費用は各種手続きの有無や現況などで変わり、10万円以内で済んだり100万円以上したりなど様々です。
土地を分筆して相続したほうが良いケース
土地を分筆して相続することをおすすめするケースについて紹介します。
- 土地以外の財産が乏しい場合
- 共有の土地を単独所有したい場合
- 担保にされる土地を分けたい場合
土地以外の財産が乏しい場合
相続財産が平等に分けられるものでないとトラブルに陥りやすいのが現実です。土地以外に財産がない場合、その土地を均等に分けることができなければもめ事は避けられません。
そのような場合、相続人の人数に応じて分筆することにより、もめることなく土地の相続を行えます。さらに言えば、被相続人が存命のうちに土地の分筆をしておくと効果的です。
共有の土地を単独所有したい場合
一筆の土地を複数の相続人で共有している場合、分筆をすることによりそれぞれ単独で土地を所有することができます。
不動産を売却するときや土地の上に建物を建てるときなどは、共有者全員の同意が必要になります。そのため、共有者同士で意見が対立して売却や建築ができないといったことがあります。
分筆によりそれぞれ単独所有とすることで、トラブルを回避することができるのです。
担保にされる土地を分けたい場合
住宅ローンを組んで土地の上に住宅を建てた場合、抵当権が設定されます。抵当権とは、住宅ローンの返済が長期間滞った場合に、金融機関が担保となっている土地や建物を差し押さえられる権利のことです。
広大な土地の上に住宅を建てたとすると、土地のすべてが担保となります。そして場合万一返済が滞った際、金融機関が抵当権を行使すると土地を丸ごと手放さなければなりません。
分筆により住宅が建っている土地とその他を分けることにより、抵当権が全体に及ばなくなり、手放す土地を減らすことができます。
土地の分筆は相続登記の前に行おう
分筆登記は相続登記(相続による不動産の名義変更)をする前に行うようにしましょう。遺産分割協議で、分筆後の土地をそれぞれが取得すると決めることにより、分筆前の土地の相続登記を共有名義でしなくて良くなります。
つまり、分筆登記の完了時点で、それぞれが取得する分の分筆後の不動産をそのまま相続登記することが可能です。
分筆登記は被相続人名義のまま行える
相続登記を行う前に分筆登記をするということは、分筆登記をする時点では土地は被相続人の名義です。
これに関して、「被相続人名義で分筆登記の申請が可能なのか」といった疑問が生まれるかもしれませんが、分筆登記は相続人が被相続人に代わって申請をすることができます。
ただし、相続人の内の一人が単独で行えるわけではなく、相続人全員で行う必要があるため注意しましょう。
相続登記の前に分筆登記をしたほうが良い理由
先に相続人全員の共有名義で相続登記を行い、その後に分筆登記をする場合、分筆後の土地全てが共有となってしまいます。その場合、単有状態にするためには、相続人間で共有物分割や贈与、交換などをする必要があります。
そのため、分筆することが確定しているのであれば、相続登記をする前に分筆登記をすることをお勧めします。
分筆登記を相続登記の前と後でする場合の手続きの違い
分筆登記を先に行うか相続登記を先に行うかによって、少し手続きに違いが生まれます。
分筆登記を相続登記より前に行った場合
遺産分割協議を行う前に相続人の間で話し合い、被相続人名義のまま分筆登記の申請を行います。その後遺産分割協議を行い、それぞれが取得する分筆後の土地の相続登記の申請をそのまますることができます。
また、分筆登記は全ての不動産の分割が整わなくとも、当該土地の遺産の分割さえ整えば行うことができます。例えば、Aという土地とBという土地があり、Aの分割については整っているもののBの土地については整っていない場合、Aの分筆については相続人全員の同意があれば行うことができます。
分筆登記を相続登記より後に行った場合
分筆登記をする前に相続登記を行った場合、余計な手続きや税金が増えてしまいます。
例えば、親名義の土地1筆の上に長女と次女が建物を建てていて、親が亡くなったことにより長女と次女で遺産分割協議を行うとします。土地を各2分の1で相続登記の申請をして、さらにその土地を長女と次女で分筆したいといった状況の場合、以下のような手順を踏むことになります。
- 土地を分筆登記する
- 長女と次女が各2分の1で共有する土地が2筆生まれる
- それぞれの持ち分である2分の1を交換登記する
- 土地の分割が完了する
既に長女と次女に名義変更をしてしまっているため、土地を分筆登記したとしても各2分の1で共有する土地が2筆出来上がるだけになります。最初に相続登記をしてしまったら、いきなり分けたい土地ごとに単有名義にすることはできません。
こういったケースでは、共有で持ち合っている土地の持ち分を交換登記することにより単有状態にすることができます。この交換登記に簡しても登録免許税や、専門家に依頼するのであれば報酬が発生してしまいます。
以上のことから、相続した土地を相続人間で分筆したいのであれば、必ず分筆後に相続登記を行うようにしましょう。
土地を分筆して相続するときの注意点
土地を分筆して相続する際は、様々な注意点があります。後悔しないようにしっかりと確認しておきましょう。
分筆登記は相続登記の前にしよう
分筆登記は相続登記をする前に行うことをおすすめします。なぜなら、一度相続人全員の共有名義で相続登記をしたあとに分筆登記をする場合、分筆後の土地全てが共有となり、その後単独所有するにはコストと時間がかかってしまうからです。
故人である被相続人名義のまま分筆登記の申請をすることが可能であり、遺産分割協議を「分筆後の土地をそれぞれ取得する」という内容にすることにより、分筆前の土地の相続登記を共有名義でする必要がなくなります。
そのため分筆登記の完了後、それぞれが取得する分筆後の土地を直接相続登記することができます。
境界確定測量が必要
境界確定測量とは隣地や道路との境界線を測量して明確に分けることです。
分筆登記をする際は相続人全員で遺産分割協議書を作成しますが、「誰が土地のどの部分を引き継ぐのか」というのを具体的にするために測量図面の添付が必要になります。そして、この測量図面は境界確定測量が完了した後の図面です。
登記簿や登記事項証明書の面積は場所によっては実際とずれていることがあり、境界確定測量が完了していない測量図面を添付して遺産協議書を作成した場合、協議書を作成し直さなければならない可能性があります。
境界確定測量は、土地家屋調査士などの専門家に依頼することをおすすめします。
分筆できない土地がある
全ての土地を分筆できるわけではありません。以下のように分筆できない土地もあるため覚えておきましょう。
- ①境界が確定されていない土地
- ②面積が0.01㎡未満になる土地
- ③条例で禁止されている土地
①は前述したとおりです。②に関して、土地を細かくしすぎると管理や把握が難しくなり土地活用も難しくなるため、土地面積が0.01㎡未満になる場合の分筆が禁止されています。
③に関しては、地域によって景観保持などの理由により条例で一定区域の分筆が禁止されている土地があります。
不合理分割にならないように気を付けよう
不合理分割とは、土地の分け方が著しく不合理であるものであり、法的に認められないケースが多いため気を付けましょう。なぜなら、不整形地などの極端な形で分割してしまえば、減額補正を多く適用させたり評価額を意図的に下げたりすることが可能となってしまうからです。
他には、無道路地が生まれる分割や1つの土地の接道が2メートル未満になる分割などが不合理分割に該当します。
分筆後の土地活用や土地価格について考えておく
土地を取得したいがために分筆したものの、建物の建築や改築ができない使い勝手の悪い土地ができてしまったり、土地の価格が下落して売却が難しくなったりなどのケースに陥ることもあります。
土地を得ても、活用も売却もできないのでは意味がないため、分筆前に分筆後の利用についてよく考えておくようにしましょう。
相続税の申告期限に気を付ける
境界確定測量だけでも最低3ヶ月はかかるため、分筆登記の完了には長い期間がかかることが多々あります。相続税の申告期限は相続開始後から10ヶ月以内と決まっているため、余裕をもって対応をする必要があります。
そのため、可能なら相続が発生する前に、生前対策として土地の境界確定測量を行っておくのが良いでしょう。
土地の分筆の流れ
分筆登記をする際の流れは以下の通りです。
- 土地家屋調査士に相談・依頼
- 法務局や役所で調査・資料収集
- 現地調査・現地立会
- 測量・資料と照合
- 分筆案の作成
- 境界標の設置
- 分筆登記の申請
まずは土地家屋調査士に土地の分筆について相談・依頼をし、法務局や役所にて公図や確定測量図、地積測量図などの資料の収集や登記事項証明書の確認などの調査をしてもらいます。
その後土地家屋調査士が現地調査を行い、隣地所有者の立会のもと境界の確認を行います。境界が明らかでない場合は土地家屋調査士が境界確定測量を行い、隣地所有者と「境界確認書」を作成して土地の境界を明確にします。
土地家屋調査士が測量結果に基づいて分筆案を作成・分筆方法の決定をしたら、土地に境界票を打ち込みます。そして登記申請のための書類を作成して法務局へ提出します。
分筆をするなら余裕をもって対応しよう
境界確定測量だけでも最低3ヶ月はかかるため、分筆をするなら余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
境界確定測量には土地の価値を高める効果もあるため、できるなら相続が発生する前に済ませておくのがおすすめです。
記事のおさらい