一戸建ては名義人でないと売却の権利を持ちません。そのため、名義人でない場合や共有名義の場合は、名義変更をして名義を一本化することで売却がスムーズになります。
今回は、名義状況に応じてどのような対応ができるのか、名義変更はどのように行えばよいのかなど、詳しく説明します。
「まずは家を売る基礎知識を知りたい」という方は、こちらの記事をご覧ください。
親名義の戸建売却の場合
親子関係があっても勝手に売却はできない
結論から言うと、親子関係であっても親名義の不動産を子どもが勝手に売却することはできません。不動産業者や所有権移転登記を行う司法書士は、不動産取引において、所有者本人の意思確認を必ず行っています。とはいえ高齢化が進む日本では、寝たきりで外出できない親に代わって子どもが不動産の売却を行うといったケースもあるでしょう。そういった事情がある人は、親の代理人となるための「委任状」が必要となります。
代理人による売買は買い手側からすると、なりすまし等による詐欺の可能性も考えられます。そのため親子関係の証明が必要になります。
なお、親が認知症などで判断能力を失っている場合、成年後見人の申し立てにより代理人による売却が可能になります。4親等以内の親族が代理人として申し立てできます。ただし、成年後見人制度による不動産売却代金は、不動産名義人本人のために使われるものです。
売却した不動産のお金をもらったら贈与になる
では、親が生きているうちに自分で所有不動産を売却して、その売却代金を子どもに与えるとどうなるか? 当然これは贈与にあたり、贈与税を収める必要が出てきます。贈与税について
贈与税とは受贈者(もらう人、このケースでは子ども)が収める税金となります。贈与者(あげる人、このケースでは親)が納税する必要はありません。贈与税は相続税法によって規定されており、 基礎控除額である110万円を差し引いた後、以下の計算で贈与税を求められます(※一般税率の場合)。計算式にすると次のとおりです。
- 贈与税額 = (1年間の贈与額 - 基礎控除110万円) × 税率 - 控除額
早見表ではこうなります。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与にならない親の不動産の売却方法(売却後贈与または贈与後に売却)
ここで、「じゃあ、親の不動産をタダ同然の価格で譲ってもらったら、贈与税が発生しないのでは」と考えた方がいるかもしれませんが、残念ながらそのような抜け道はありません。たしかに、贈与税には年間110万円の非課税枠もありますが、著しく相場とかけ離れた低い価格で不動産取引が行われれば、『みなし贈与』に該当し、買い手(受贈者)に贈与税が発生します。当然、税務署も親族間の不動産売買には特に目を光らせていると考えるべきでしょう。
補足しておくと、贈与税が発生するのは、あくまでも個人間の売買で、売主、買い手双方が個人の場合となります。とはいえ親族間、関係会社間の不動産取引も厳しくチェックされているのが実態です。
逆に言うと、適正価格において親が不動産売買を行い、戸建を売却して現金化するぶんには贈与税は発生しません。その後、不動産の売却代金を年間110万円ずつ子や孫に生前贈与している分には問題ありません。
家の売却を少しでも検討しているのであれば、「自分の家がいくらで売却出来そうか」を把握しておきましょう。
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共有名義の戸建売却の場合
自分の持ち分だけを買い取ってくれる人はまずいない
次に、共有名義の不動産を売却する場合です。共有名義で不動産を所有するケースとしては、共働き夫婦であれば双方が住宅ローン控除を受けるため夫婦の共有名義で不動産を購入することが考えられます。あるいは、相続で不動産を複数の相続人が引き継いだケースも共有名義となります。このような共有名義の不動産において、最大のデメリットになるのがそのままの状態では売却が難しい点です。たとえば離婚に伴い夫婦共有名義の不動産を売却処分するケースで、ご主人の持ち分だけを欲しいという奇特な買い手はまずいないと考えていいでしょう。
また、相続したケースで不動産をそのままにしておくと、いずれ相続した人(子)も死亡し共有者がどんどん細分化される問題もあります。近年では、相続物件を放置していたため疎遠な親戚に連絡を取ることもできず、意思決定もままならず荒廃した空き家となるのは社会問題にもなっています。
自分の持ち分を他の共有者に売るか、全部まとめて売るしかない
持分とは所有権の一部を所持している状態です。誤解されがちですが、不動産を面積で分けているのではなく、権利を分けているのであり、あくまで不動産は共有者持分権者全員の共有物となります。そもそも不動産は物理的に分割することが難しい財産であり、共有名義の不動産を売却するのであれば、自分の持ち分を他の共有者に買い取ってもらったり、共有持分権者の合意を得て売却するのが一つの手といえます。
他の共有者に現金で自分の持ち分を買い取ってもらう
たとえば、評価額3000万円の戸建を3人兄弟で相続した場合、長男が他の二人の持ち分をそれぞれ1000万円づつ支払うことで買い取り、共有名義を解消して単独名義で所有するという方法があります。ほかには、自分の持分を第三者に売るという選択肢もあります。自分の持ち分なので単独の判断で処分できるのがメリットといえますが、当然市場価値は低くなるため、よほどの事情がない限り他の共有者に買ってもらったほうが無難です。
まとめて誰かに売る場合
複数の相続人や夫婦共有の場合。全員の承認を得て売却、売却額を振り分ける。(全員分のサインや身分証・住民票など書類)共有名義の物件を名義人全員の承諾を得たうえで、第三者に売却するという方法もあります。売却後に持分割合に応じて代金を分配します。
ちなみに1人でも売却に反対する人がいれば不動産の売却は出来ません。
余談ですがそのような場合、一括査定の結果を説得材料として使える場合もあります。
売却にあたって、共有持分権者全員が契約や決済に立ち会う必要があります。その場合、印鑑証明や住民票といった必要書類も全員分準備することになります。単独名義の不動産売却に比べて手間や負担が人数に応じて増えるのが共有名義物件のデメリットです。
委任状を使い共有名義者の代わりで売却
原則、共有名義の不動産を売るには共有持分権者全員が集まって契約や決済をしなくてはなりません。しかし、なかには名義人が遠方に住んでいる、高齢者で寝たきりに、といったケースもあることでしょう。
その場合、名義人の誰かが代表者として他の人からの委任状を獲得して売買するケースがあります。
委任状とは、委任者(共有名義者)が受任者(代理として不動産を売る代表者)へ、代理権を委任する書類のことです。
委任状に明記された範囲内において、本人に代わって売却手続きが可能になるため、たとえば代表者1名へ、ほかの共有名義人全員が全権委任する委任状を用意できれば、負担はだいぶ軽減されます。
委任状のフォーマットは特に決まってはいませんが、物件所在地や売買に関する諸条件、自署、住所など、トラブル回避のために抑えるべきポイントがいくつかあります。
詳細については司法書士や不動産業者にアドバイスを求めることをおすすめします。多くの場合、雛形を持っているので自分でイチから作成するより手間がかかりません。
なお、委任状や必要書類などすべてを完璧に揃えていても、委任者の売却意思の確認と、本人確認が必要となります。そうしないと本人の知らないところで委任状を作成して、勝手に不動産を売却してしまうなど、制度の悪用を考える人がいるためです。
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共有名義の戸建売却の注意点・・・「持ち分割合」について理解しよう
共有名義の戸建売却の注意点として、「持ち分割合」について解説します。たとえば4000万円の戸建を、夫婦がお互いに2000万円づつお金を出して買ったとします。この場合、資金の負担割合に応じて共有持分が決まるので、夫50%:妻50%で「共有登記」をすることになります。
では、夫3000万円:妻1000万円の出資で、共有登記では50%:50%の割合とした場合はどうでしょうか。このケースでは旦那さんから奥さんへ1000万円の贈与があったものとみなされます。
次に、売却で事前準備すべき必要書類を紹介します。
権利証
不動産の所有者であることを証明する重要な書類です。
登記済証とも呼ばれます。
なお、平成17年に法改正があり、従来の登記済権利証は「登記識別情報」に変わり、数字とアルファベットによる文字列が不動産と紐付けられています。
もし、権利証を紛失してしまうと、他の方法で不動産の所有者であることを証明する必要があります。
その場合、司法書士に相談されることをおすすめします。
土地測量図及び境界確認書
土地の測量を行い、隣地との境界を確定したことを書面で残したものです。隣地との境界紛争を予防することができ、買い手からすると安心感があります。
身分証明書
運転免許証、マイナンバーカードなど。写真付きの身分証明書を用意できず、健康保険証などで対応する場合、2点提示することが求められます。
印鑑証明書
3ヶ月以内に発行したもの。
住民票印鑑(実印)
土地と建物で名義が違う場合
別々で売ることも可能だが現実的ではない
次に共有名義ではなく、土地と建物で名義が異なる不動産について考えます。たとえば親から土地や資金を援助してもらって、子どもがマイホームを建てた場合など、土地と建物の名義が別々となる場合があります。
余談ですが借地権の物件も土地と建物で名義が異なる不動産だと言えるでしょう。
こうした土地と建物で名義が異なる不動産は、それぞれを個別に売却することができます。
つまり、土地の所有者は建物の所有者の合意なく土地を売却することが可能であり、逆も同様に可能です。
しかし、市場で売れるといっても、上に建物が建っていて人が住んでいる土地の需要は極めて限られます。
家探しをしている人のニーズにまったく合致しないため、相場より低い価格で取引されることになります。
名義を買い取り売却
そのため、土地と建物の名義が異なる不動産は、どちらかが名義を買い取り、単独の完全所有権の物件として売却したほうが、より高値での売却が期待できます。相手の承認を得て売却
買い取るための資金が用意できない場合、相手の承認を得て一緒のタイミングで土地・建物を売却するという方法もあります。土地、建物双方の持ち主がそれぞれ売却代金を受け取ります。
また、名義人と連絡が取れない場合は家庭裁判所に「不在者財産管理人選任[MOユ4] 」を申し立てる方法もあります。
自分の持ち分だけ売却
繰り返しですが、共有持分の不動産とは異なり、土地と建物の名義が異なる不動産は、土地のみ建物のみの所有権を売却することが可能です。ですが、よほどの好立地でもない限りその需要は限定的であり、思うような売却は実現しないでしょう。土地や建物のみの売却はあくまでも最後の手段と考えるべきです。
名義の一本化で売却はスムーズ!名義変更の流れと費用
個人でも可能だが、司法書士への依頼が確実
前述したように、共有名義あるいは土地建物の名義が異なる不動産というのは、どうしても売却時にデメリットがついてまわります。そのため、名義を一本化してから売却するのがセオリーといえます。手順としては
- 必要書類の収集
- 法務局への申請、審査
- 完了
もし、名義の一本化を検討するのであれば、専門家である司法書士に相談するのが確実です。
名義変更にかかる費用
では、実際に司法書士に名義変更を依頼すると、具体的にどのような費用がかかるのでしょうか。費用は大きく「実費」と「報酬」に別れます。実費としては、「登録免許税」があります。
不動産名義変更を法務局に申請する際は、書類に収入印を貼ることで納税をします。
納税の金額は、不動産評価額を基準とし、手続きの種類によって税率が異なります。たとえば、相続の場合0.4%、贈与の場合は2%と、離婚の場合は2%となります。
固定資産評価額 | 相続の場合の登録免許税 | 贈与の場合の登録免許税 | 離婚の場合の登録免許税 |
---|---|---|---|
1,000万円 | 4万円 | 20万円 | 20万円 |
2,000万円 | 8万円 | 40万円 | 40万円 |
3,000万円 | 12万円 | 60万円 | 60万円 |
5,000万円 | 20万円 | 100万円 | 100万円 |
8,000万円 | 32万円 | 160万円 | 160万円 |
1億円 | 40万円 | 200万円 | 200万円 |
このほか、登記事項証明書の取得費用(600円)、法務局への交通費なども実費請求されます。
一方、司法書士へ支払う報酬は、金額は場合によりますが一般的に5万〜10万円くらいが相場ではないでしょうか。
共有名義でも一括査定サービスでラクラク査定
戸建て売却前提であれば、司法書士への依頼の前に不動産会社へ相談
もし、共有名義の不動産(戸建て)を売却する予定であれば、まずは不動産会社へ相談してみることをおすすめします。「どの不動産業者に相談すればよいかわからない」という方は、ぜひ一括査定サービスの利用を検討してみてください。共有の所有者がいる不動産でも売却金額の査定はひとりの意思だけで可能
「共有名義の不動産なのに、査定を自分一人で行って大丈夫なのか?」と疑問を持つ方もいるかも知れませんが、査定を行うだけであれば、ほかの共有名義人の同意は必要ありません。一括査定を利用したことで、具体的な売却価格がわかれば、ほかの共有名義人が売却に前向きになることもあるので、上手に説得材料として利用したいものです。売却後は確定申告・納税も忘れずに
譲渡所得が発生する場合、譲渡所得税を払わなければ延滞税や加算税が課せられる
不動産を売却したのであれば、譲渡所得が発生します。譲渡所得金額は以下の計算で求められます。- 譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額(一定の場合)= 課税譲渡所得金額
不動産の譲渡所得にかかる税金は、「分離課税」となり給与所得などの他の所得とは区分して計算します。
不動産の所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」となり、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、税率が異なります。
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
期限までに確定申告書を提出しないと、納める税金以外に無申告加算税を課されてしまうのです。無申告加算税では、納めた税金の額に応じて15%から20%が上乗せされます。
また、期日となる3月15日までにしかるべき税金を払い込みしないケースでは、延滞税が発生するので注意が必要です。
では、売却で譲渡損失が発生した場合は他の所得と損益通算することが出来ます[MOユ6] 。
つまり、損したときも確定申告をしておくと損失分の所得が低くなり、所得税を還付してもらえます。所得が安くなれば、その分、住民税も安くなります。
共有名義の不動産を売却した結果、儲かっても損しても確定申告は忘れずしっかりしておきましょう。