熟年離婚の件数が年々増えている、という事実をご存知でしょうか?
平成27年度に国土交通省が発表した人口動態統計によると、一緒に住んでいた期間が「20年以上」の夫婦の離婚件数については、1985年が20,434件だったのに対し、30年後の2015年は38,641件に上昇しているそうです。 つまり30年間で熟年離婚の件数が約2倍にまで増加していることになります。
今回の記事では、そんな熟年離婚をする際に双方が納得する形で財産分与を行うために「そもそもどのように財産分与は行うのか」「どんな財産をどのように分けるのか」などを解説していきます。
財産分与の際に不当に手続きが進んでしまわないように、じっくりと解説していきます。
熟年離婚の財産分与額はどのくらい?
結婚後間もない離婚とは違い、結婚から数十年経っている熟年離婚においては財産分与額も多くなりがちです。その分「できるだけ財産を渡したくない/もらいたい、けど実際はどのくらいの金額を財産分与するの?」と気になっている方も少なくないと思います。
熟年離婚の実態としては財産分与額はどのくらいになるのでしょうか?第1章では熟年離婚の財産分与額の相場について解説していきます。
婚姻期間が長ければ長いほど高額に
以下のグラフは平成30年度の司法統計から編集部で独自に作成した財産分与額のグラフとなっていますが、読み取れるように結婚間もない1~5年では財産分与額100万円以下のケースが半数以上となっていますが、25年以上となると100万円以下の財産分与は10%弱に、そして2000万円以上の財産分与が20%ほどを占めていることがわかります。
理由としては、熟年離婚となると共有資産額が増えることからそれと比例して財産分与額も増えていることが考えられます。また、日本では年功序列で給与も増えていくことから財産分与額も同じように増えていくものだと思われます。
財産分与の支払い割合は?
また、熟年離婚での財産分与では夫婦のどちらからの支払いが行われるのが主なのでしょうか。
以下のグラフも平成30年度の司法統計から編集部で独自に作成したグラフとなりますが、支払額が増えるに従って夫から妻へ支払いが行われる割合が増加していることがわかります。財産分与額が2000万円をこえるケースでは95%以上が夫から妻へ支払われています。
女性の社会進出が進んでいる今なお、やはり夫名義の不動産などの資産が多いことや年収が多いことが原因と考えられます。ただし、財産分与額は個別の事情によっても異なります。もちろん専業主夫として夫が家事を担当していた家などでは財産分与の支払いが逆転する可能性もあるので、あくまでも相場であることを認識しましょう。
妻が専業主婦の時の財産分与額は?
熟年離婚を検討している人の中には、時代背景的に奥様が専業主婦として家計を支え、旦那様が一家の大黒柱として給与を家に納めてきた方もいらっしゃると思います。
奥様からすると「家計を支えてきたんだから折半にするべき」と考えられるでしょうし、旦那様からすると「自分が稼いだ金なんだから折半はさすがにおかしい」と思うのも不思議ではありませんが、実際のところはどうでしょうか。
結論から申し上げますと、日本の法律では性格の不一致など明確にどちらか一方に責任がある離婚ではない限り、分割割合は2分の1が原則です。例え、旦那様の給料がどんなに高くとも折半で財産分与を進めていくことを覚えておきましょう。
理由としては、上に述べたように「婚姻期間中に築かれた財産は妻が夫を支えることによって実現可能になった財産である」と考えることができるためです。専業主婦であっても引け目を感じる必要はありませんし、旦那様側からすると仮に奥様が専業主婦で直接的に資産を築いていなくとも割合は2分の1です。
さらに、専業主婦の場合は扶養的財産分与を受けることができる可能性もあります。扶養的財産分与については第4章で詳しく解説しています。
熟年離婚では退職金をどう財産分与する?
熟年離婚でよく争点となるのが退職金の分割についてです。そもそも退職金は財産分与の対象となるのか、また対象となるならどんな場合かについて検討していきましょう。
退職金は財産分与の対象になる?
まず初めに、退職金はそもそも賃金の後払い的な要素として解釈することもできるため、婚姻期間中に形成された退職金は財産分与の対象になります。
ただし、退職予定日までまだ期間が開いている場合や、退職するまでに会社が倒産する可能性がある場合などでは、そもそも退職金が支払われない可能性もあるため、すべてのケースにおいて退職金が財産分与の対象となるわけではありません。
というのも、いくら給料の後払い的な要素があるからと言って、将来的に必ず受け取れるとは限らないので、退職金を受け取っていない段階で離婚した時に、「どんな場合であれ退職金を共有財産とする」ということには疑問が残るからです。
ではいったいどのような場合で退職金を共有財産とすることができるのでしょうか?
財産分与の対象となる場合
財産分与の対象となるケースでは①退職金がすでに支払われている場合②将来的に支給されることがほぼ確実な場合が考えられます。
すでに退職金が支払われている場合は、実質的な婚姻期間がどのくらいであったのか、そして退職金の支給にかかる勤続年数がどれだけであったのかによって「配偶者が退職金の形成にどれだけ貢献したか」が変わります。財産分与の比率はこの貢献具合によって変わってきます。
また、将来的に支給されることがほぼ確実な場合は、財産分与の対象となる場合が一般的です。若年離婚でいつ退職金を受け取るかわからない場合は、裁判所も退職金の分割を認めない場合がほとんどですが、特に熟年離婚で退職目前の場合は財産分与の対象となると考えておきましょう。
退職金の分割方法
退職前の離婚財産分与においては、「今退職したらどのくらいの退職金が受け取れるのか」を算出して、そこから婚姻関係に入るまでの就業期間を差し引いた額を対象とするという考え方が一般的です。
ただし、「今退職したらいくら退職金がもらえるのか?」「退職の何年前なら将来的に受け取るのが確実と言えるのか?」など少々判断が難しい点でもあるので、判例でも財産分与の対象となるかは判断の分かれ目です。
退職金の分割方法でもめた場合は弁護士への相談などをお勧めします。
熟年離婚では年金をどう財産分与する?
離婚時の財産分与でしばしば争点となる2つ目の財産に、厚生年金の分割ができるかという点です。
年金は財産分与の対象になる?
結論から言うと、国民年金は対象とはなりませんが、第二号被保険者が支払う厚生年金は分割の対象となります。
そもそも20~60歳の国民に支払い義務がある国民年金の加入者の中で、厚生年金を支払うのは会社員や公務員で、給与天引きで厚生年金を支払っています。そのため、収入が高ければ高いほど将来的に受け取る厚生年金額は高くなるため、夫婦間に収入格差がある場合はもちろん将来的に受け取る年金額に開きが出てきます。
また、配偶者が専業主婦(夫)である場合、第二号保険者の扶養に入る第三号被保険者となるため、離婚した場合将来的に厚生年金は受け取れません。
お互いが夫婦であれば、たとえ厚生年金の受給額に差があっても問題ありませんが、離婚した場合その分将来的な厚生年金に差が出てきます。専業主婦(夫)として配偶者を支えた結果、厚生年金を受け取れないとなると不公平感がありますよね。
したがって、厚生年金に限っては財産分与の対象とすることができるのです。
ここで、熟年離婚した場合に年金という財産をどのように分割するかが問題となるのです。
分割方法には2種類ある
年金の分割方法には2種類あります。
1つは合意分割と言われるもので、夫婦間が話し合って保険料の分割割合を決めるか、裁判所で分割割合を決定してもらう方法で、上限は2分の1と定められています。
2つ目の方法は、3号分割と言われる方法で、夫婦の一方が第3号被保険者である場合に適用される年金分割の制度です。平成16年に導入された制度で、配偶者が第2号保険者で婚姻期間中に厚生年金を支払っていた期間があれば、その期間の保険料は相手の合意がなくとも自動的に2分の1を第3号被保険者が支払った保険料とみなすものです。
ただし、3号分割を適用できるのは、2008年4月1日以降の婚姻期間に相当する部分のみとなっています。2008年3月31日以前の婚姻期間に厚生年金の支払いがあった場合は、その部分に関しては合意分割をしなくてはなりません。
熟年離婚で財産分与をする4つの方法
熟年離婚をする際の理由の一つとしては「性格の不一致」が一般的ですが、他にも「パートナーが不貞行為を働いた」「パートナーからの身体的/経済的DVがあった」などの相手側に原因がある離婚も少なくありません。
そんな場合に「割合が5:5になるのっておかしくない?」など財産分与の方法に疑問を持つ人も多いかと思います。そこで、第4章ではそもそも熟年離婚をする際にどんな財産分与の方法・パターンがあるのかについて解説していきます。
清算的財産分与
熟年離婚に限らず離婚財産分与をする際の最も一般的な財産分与の方法が、清算的財産分与です。
そもそも清算的財産とは、結婚期間中に夫婦が協力して築いた預貯金や不動産などの財産のことで、具体的には家や土地・車・預貯金・有価証券・生命保険・各種保険・貴金属・絵画・骨董品などが含まれます。
結婚生活で築き上げてきた財産が清算的財産となるため、逆に言えば独身時代に貯めていた定期預金や、婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産は財産分与の対象となりません(民法762条1項)。
また、夫婦間の共有財産となると専業主婦(夫)の方で「夫が働いて得た預貯金は財産分与の対象にならないんじゃないか?」と不安になられる方もいらっしゃるかと思いますが、どちらかが主婦(夫)であっても基本的には割合は2分の1となります。
清算的財産分与は、「離婚原因が何であれ、あくまで二人の財産は二人で分けましょう」という考え方のため、仮に一方に明確な離婚原因があったとしても、どちらからでも清算的財産分与の請求を行うことはできます。扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚をしたら夫婦の片方の生活が困窮してしまうなどの事由がある場合に、その生活を補助するという目的のもと財産を分与する方法です。当てはまるケースとしては、離婚時に夫婦の片方が病気であることや専業主婦(夫)であることなどが代表的な事例です。「離婚した後のことは知らない」という方ももしかするといらっしゃるかとも思いますが、仮に妻が専業主婦であった場合などでは「妻が家事や育児などに専念していたから、夫が社会的なスキルを獲得するチャンスを得ていた」という考え方ができるため、一方の所得能力が向上したことの対価としてもう一方に扶養的財産分与を行うという側面もあります。
一般的には、離婚後も経済的に立場の弱い配偶者に対して一定額を定期的に支払うという方法がとられています。
慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、配偶者の不貞行為やDVなどの有責行為によって離婚に至った場合の、慰謝料という意味合いのある財産分与の方法です。一般的な慰謝料と違う点は、金銭以外にも請求することができる点で、例えば持ち家を持っていた場合は所有権を請求することができるという点です。夫の不倫で離婚を決意した場合や、DVを受けていた場合などに慰謝料を現金で受け取りつつ、慰謝料的財産分与で持ち家の所有権を要求するなどのケースが当てはまるでしょう。
過去の婚姻費用の清算としての財産分与
「過去の婚姻費用」と言うと少し難しく聞こえますが、要するに配偶者が経済力があるのにもかからわず生活費を一方に渡していなかったり、別居期間中の生活費を負担しなかったなどの理由がある場合に、その未払い分の返済的な意味合いでの財産分与です。
当てはまるケースとしては冒頭でも紹介した、経済的DVを受けていた場合でしょう。
夫婦は離婚するまでは、同居別居にかかわらず婚姻費用を分担しなくてはなりません。過去に婚姻費用の未払いがあった場合は、たとえ数カ月であっても離婚の際に清算しなくてはなりません。
熟年離婚で財産分与をする際は何をどう分割する?
熟年離婚の場合、夫の退職金や厚生年金以外にも財産分与の対象となるものは数多くあります。
第5章では、熟年離婚で考えられる財産とその分割方法について紹介していきます。持ち家や有価証券などの共有財産
まず第一に財産分与の対象とされるのは、どんな財産であるかにかかわらず婚姻中に夫婦の協力によって形成された共有財産です。
あくまでも代表的なものですが、家や土地・車・預貯金・有価証券・生命保険・各種保険・貴金属・絵画・骨董品などがあります。その他にも婚姻期間中に形成されたものは共有財産です。
また、名義が夫婦の片方の名義になっているものであっても財産分与の対象となることに注意しましょう。
ただし、財産分与の対象となる共有財産は、原則「別居時」を基準に確定されるため、離婚前であっても別居後に取得された財産は共有財産の対象とはならないことに注意しましょう。
へそくりや子供名義の預貯金
婚姻期間中に隠していた預貯金であるいわゆる”へそくり”や子供のために貯金していた子供名義の貯金は財産分与の対象となるのでしょうか。
まず、へそくりについても基本的には、婚姻期間中に築かれた財産であるため、清算的財産分与の対象となることに注意しましょう。
また、子供名義の貯金についても、夫婦の共有財産から貯金していたものになるため共有財産とみなされ、財産分与の対象となります。
近年は通帳が必要ないネットバンキングなどにへそくりがあるケースがありますが、不正アクセスしようとすると罪に問われる可能性もあるため、熟年での離婚が決まったら互いの共有財産の開示を第三者を通じて行いましょう。
財産分与は離婚成立から2年で時効になることに注意
最後に、財産分与の権利は離婚が成立してから2年で時効を迎えると定められています。
そのため、いわゆるへそくりなどの隠し口座からお金が出てきたとしても財産分与を求めることはできません。
逆に言えば、2年以内であれば一度財産分与をしていても、隠し口座を共有財産として清算的財産分与を求めることができます。
熟年離婚をする際に不動産はどう財産分与する?
定年後に住宅ローンの残債が残っているか?
財産の中でも不動産は高額資産に分類されます。そのため離婚による財産分与でトラブルの原因になるケースが多いのも不動産による問題です。不動産と一口にいっても実は種類は様々で「居住用不動産」「事業用不動産」「投資用不動産」に分類されます。その中でも、一般家庭で保有している不動産といえば居住用不動産、いわゆるマイホームではないでしょうか。
熟年離婚を検討する際、このマイホームの住宅ローンが完済済みであれば特段問題はありませんが、もしも住宅ローンが残ったまま離婚をする場合は、返済やその後の権利についての取り決めをあらかじめしておかないと大きなトラブルになる可能性があるので注意が必要です。
最悪夫婦どちらも自己破産せざるを得ない状況に
住宅ローンを組む際、夫婦が連帯債務者、あるいは夫婦どちらかが契約者になってどちらかが連帯保証人になるケースが一般的です。そして住宅ローンが残っている状態で離婚をすると、夫婦ともに返済をしなくてはならない債務が残ります。例えば、夫の名義で住宅ローンを組み妻が連帯保証人になっている状態で離婚したとします。
当然離婚後も住宅ローンは夫が払い続けることになりますが、何らかの理由で夫が住宅ローンの支払いが困難になり支払いが滞ってしまうと、金融機関は連帯保証人の妻に請求することになります。
連帯保証人には、契約者に連帯して支払いを保証する義務がありますから、妻も支払いを免れません。妻に支払い能力があれば問題ありませんが、夫婦どちらも支払いができなくなり自己破産という最悪の結末をむかえてしまうかもしれません。
オーバーローンとアンダーローン
オーバーローン
オーバーローンとは、マイホームの不動産価値がローン残債額に満たない状況のことをいいます。
この場合に不動産を売却したとしても残債が残り債務は完済されません。そのためその残債の支払い方法や負担割合について夫婦で話し合う必要があります。
オーバーローンの場合は、夫婦のどちらか一方が住み続けてローンの支払いを続けていくのが一般的です。
アンダーローン
アンダーローンとは、マイホームの不動産価値が住宅ローン残債額を上回っている状況のことです。つまり、不動産を売却できた金額がローンの残債額よりも高くプラスになる状態のことです。この場合、マイホームを売却するとローンの完済を終えた上でさらに利益が出ますので、出た利益を夫婦で分ければ解決です。
- 住宅ローンが残っている状態で離婚すると夫婦ともに返済に苦しむ可能性がある
- 最悪の場合は自己破産をむかえるしかない結末もありえる
離婚の財産分与の家について気になる方は「離婚で家を財産分与するには?財産分与の種類や流れを解説」も参考になります。
まとめ
熟年離婚での財産分与は現在の住宅ローンの残債やその理由によって分配方法が大きく変わります。そのため、財産分与をする際はできるだけ自分たちだけで話し合うのではなく弁護士も交えて相談するのがポイントです。
また、熟年離婚後の住まい探しには現役時代とは違ったマンションを選ぶときのコツがあります。特に、今後の生活や収入面を踏まえた上で最適な価格帯のマンションを選ぶことは重要なポイントです。
住宅購入のためには登記費用や司法書士費用、また手付金などの購入にかかる諸費用が別途現金でかかってくるほか、住宅ローン控除などの専門的な知識をベースに資金計画を立てないと損をする可能性があります。
そのため、住宅ローンを組む際は住宅購入のプロに相談しながら資金計画を立てることが必要不可欠です。住宅ローン控除やすまい給付金など、知らなきゃ損をする控除制度についての情報収集としても使えるでしょう。
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記事のおさらい