行政書士と宅建士、どちらを選ぶべきか?不動産業界での資格選びガイド

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不動産業界でのキャリア構築や独立を目指す方々にとって、行政書士と宅建士の資格は非常に魅力的です。しかし、どちらの資格が自分の目標に適しているのか、迷う方も多いでしょう。本記事では、両資格の違いや活かし方、取得の難易度などを比較し、最適な選択をサポートします。

行政書士と宅建士の違いとは

 不動産業界で活躍するためには、行政書士と宅建士の資格が重要な役割を果たします。

それぞれの資格が担う業務や役割には明確な違いがあり、理解しておくことが重要です。

行政書士ができる不動産関連業務とは

行政書士は、主に官公署に提出する書類の作成や手続きを代行する専門家です。 不動産業界においては、以下のような業務を担当します。

許認可申請の代理:  不動産業を営むためには、宅地建物取引業の免許が必要です。  行政書士は、これらの許認可申請書類を作成し、代理で提出することができます。

農地転用の手続き:  農地を宅地や商業地に転用する際には、行政書士が農地転用の届出を作成し、自治体の農業委員会に許可を取る手続きを行います。

契約書の作成およびチェック:  不動産取引においては、契約書の作成や内容のチェックが重要です。 行政書士は、契約書の作成や法的なアドバイスを提供することができます。

これらの業務を通じて、行政書士は不動産業界における法的な手続きをサポートし、業務の円滑な進行を支援します。

宅建士が担う不動産取引の役割とは 

宅建士(宅地建物取引士)は、不動産取引の専門家として、以下のような業務を担います。

重要事項の説明:  不動産の売買や賃貸契約において、物件の権利関係や法的な制限事項など、重要な情報を買主や借主に説明する義務があります。

重要事項説明書への記名:  重要事項を記載した書面(35  条書面)に、宅建士自らが記名押印することが求められます。

契約書への記名:  契約内容を記した書面(37  条書面)にも、宅建士が記名押印する必要があります。

これらの業務は、宅建士の独占業務とされており、資格を持たない者が行うことはできません。 宅建士は、不動産取引の安全性と信頼性を確保するために、重要な役割を果たしています。

行政書士資格と宅建士資格の取得難易度の比較

不動産業界でのキャリアを考える際、行政書士と宅建士の資格取得は重要な選択肢となります。

それぞれの資格の取得難易度や試験の特徴を理解することで、適切なキャリアプランを立てることができます。

行政書士試験の概要と合格率

 行政書士試験は、法律に関する幅広い知識を問う国家試験です。試験は年に 1 回、11 月に実施され、受験資格に制限はありません。

2024 年度の試験では、受験者数 47,785 人に対し、合格者数は 6,165 人、合格率は 12.90%でした。

合格基準は、300 点満点中 180 点以上(60%以上)であり、法令科目と一般知識科目の両方で一定の得点が求められます。

特に一般知識科目での足切り(40%未満で不合格)もあるため、バランスの取れた学習が必要です。

宅建士試験の概要と合格率 

宅建士試験は、不動産取引に関する専門知識を問う国家試験です。試験は年に 1 回、10 月に実施され、受験資格に制限はありません。

2024 年度の試験では、受験者数 241,436 人に対し、合格者数は 44,992 人、合格率は 18.6%でした。

合格基準は、50 問中 37 問以上の正解が必要であり、毎年の難易度や問題の傾向により合格点が調整されることがあります。 また、登録講習修了者には 5 問免除の制度があり、合格率は 21.9%と高めです。

不動産業界での活かし方の違い

 不動産実務に必要な宅建士のポジション

 宅地建物取引士(宅建士)は、不動産取引における専門家として、以下のような業務を担当します。

重要事項の説明: 不動産取引において、物件の権利関係や法的制限、取引条件などの重要事項を買主に対して説明します。

契約書への記名押印: 不動産売買契約書や賃貸借契約書への記名押印を行い、契約の成立を証明します。

これらの業務は宅建士の独占業務であり、資格を有する者のみが行うことができます。 宅建士は、不動産取引の安全性と信頼性を確保するために重要な役割を果たしています。

行政書士が関与できる不動産手続きとは

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や手続きを代行する専門家であり、不動産分野においても重要な役割を担っています。  具体的には、不動産取引に関連する契約書の作成や、相続に伴う遺産分割協議書の作成、農地転用許可申請などの行政手続きを行うことが可能です。

また、不動産登記簿謄本の取得や、登記事項証明書の請求など、法務局に関する手続きの一部も代行できます。 これらの業務を通じて、行政書士は不動産取引における法的手続きをサポートし、スムーズな取引を実現します。

ただし、登記申請自体は司法書士の独占業務であり、行政書士が代行することはできません。また、争いのある案件については弁護士の業務範囲となるため、行政書士が関与することはできません。

行政書士資格のメリットと限界

許認可・法務書類に強い

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や手続きを代行する専門家として、以下のような業務に強みを持っています:

許認可申請の代行:  建設業許可、飲食店営業許可、風俗営業許可など、事業を開始・継続するために必要な各種許認可申請をサポートします。

法務書類の作成: 遺言書、遺産分割協議書、契約書など、権利義務や事実証明に関する書類の作成を行います。

外国人関連手続き: 在留資格の申請や更新、帰化申請など、外国人の法的手続きを支援します。

これらの業務を通じて、行政書士は個人や企業がスムーズに法的手続きを進める手助けをします。

媒介行為はできないという制限

一方で、行政書士には以下のような業務上の制限があります。

不動産取引の媒介行為: 宅地建物取引士(宅建士)の独占業務である不動産の売買や賃貸の仲介、重要事項の説明、契約書への記名押印などは行えません。

登記申請業務: 不動産登記や商業登記の申請代理は司法書士の独占業務であり、行政書士は関与できません。

訴訟代理業務: 裁判所での訴訟代理や法律相談は弁護士の独占業務であり、行政書士は対応できません。

これらの制限により、行政書士が対応できる業務範囲には限界があります。

宅建士資格のメリットと限界

 不動産取引の独占業務を担える

 宅地建物取引士(宅建士)は、不動産取引における専門家として、以下の独占業務を担います

重要事項の説明: 不動産の売買や賃貸借契約に際し、物件の権利関係や法的制限、取引条件などの重要事項を契約前に説明します。

重要事項説明書への記名押印:   上記の説明内容を記載した書面に記名押印し、法的な証明を行います。

契約書への記名押印: 売買契約書や賃貸借契約書に記名押印し、契約の成立を証明します。

これらの業務は宅建士の独占業務であり、無資格者が行うことは法律で禁止されています。宅建士は、不動産取引の安全性と信頼性を確保するために重要な役割を果たしています。

また、宅建業者は、事務所ごとに従業者 5 人に 1 人以上の割合で専任の宅建士を配置することが義務付けられており、宅建士の需要は高いと言えます。

許認可手続きには関われない

一方で、宅建士の業務範囲には以下のような制限があります。

行政手続きの代行: 建設業許可や農地転用許可などの行政手続きの代行は、行政書士の業務範囲であり、宅建士は関与できません。

法務書類の作成: 遺言書や遺産分割協議書などの法務書類の作成は、行政書士や司法書士の業務範囲であり、宅建士は対応できません。

登記申請業務: 不動産登記や商業登記の申請代理は司法書士の独占業務であり、宅建士は関与できません。

これらの制限により、宅建士が対応できる業務範囲には限界があります。

行政書士と宅建士、どちらを選ぶべきか

不動産会社の経営を目指すなら

不動産会社の経営を目指す場合、宅地建物取引士(宅建士)の資格が不可欠です。

宅建業法では、事務所ごとに従業者 5 人に 1 人以上の割合で専任の宅建士を配置することが義務付けられており、宅建士は不動産取引における重要事項の説明や契約書への記名押印など、独占業務を担います。 そのため、宅建士の資格を有することは、不動産会社の設立・運営において必須条件となります。

一方、行政書士は、建設業許可や農地転用許可などの行政手続きを代行する専門家であり、不動産業界においても重要な役割を果たします。  しかし、宅建士のような独占業務はなく、事務所における配置義務もないため、経営者としての必須資格ではありません。

したがって、不動産会社の経営を目指すのであれば、まずは宅建士の資格取得を優先すべきです。 その上で、行政手続きに関する知識や業務範囲を広げたい場合には、行政書士の資格取得を検討すると良いでしょう。

副業や書類業務中心なら 

副業や書類作成業務を中心に活動したい場合、行政書士の資格が適しています。行政書士は、官公署に提出する書類の作成や手続きを代行する専門家であり、建設業許可、飲食店営業許可、風俗営業許可など、事業を開始・継続するために必要な各種許認可申請をサポートします。また、遺言書、遺産分割協議書、契約書などの法務書類の作成も行います。

これらの業務は、個人事業主として独立開業することも可能であり、自宅での業務や副業としても取り組みやすい分野です。 特に、法務書類の作成や行政手続きの代行に興味がある方には、行政書士の資格が適しています。

一方、宅建士は、不動産取引における重要事項の説明や契約書への記名押印など、現場での業務が中心となります。 そのため、副業や書類作成業務を中心に活動したい場合には、行政書士の資格取得を検討すると良いでしょう。

ダブルライセンスの可能性と活用法

業務拡大やサービス品質の向上に繋がる

 行政書士と宅建士のダブルライセンスは、不動産業界において業務の幅を広げ、サービスの質を向上させる強力な組み合わせです。

例えば、相続に伴う不動産の売却手続きでは、行政書士として遺産分割協議書の作成や相続人の調査を行い、宅建士として不動産の売買契約や重要事項の説明を担当することで、ワンストップでのサービス提供が可能となります。

また、農地転用や開発許可などの行政手続きにおいても、行政書士として許認可申請を行い、宅建士として土地の取引や契約業務を担当することで、顧客のニーズに幅広く対応できます。

このように、ダブルライセンスを活用することで、業務の範囲が広がり、顧客満足度の向上や新たなビジネスチャンスの獲得に繋がります。

資格の組み合わせによる相互補完効果

行政書士と宅建士の資格は、それぞれの業務範囲を補完し合う関係にあります。

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や許認可申請、法務書類の作成などを専門とし、宅建士は、不動産取引における重要事項の説明や契約書への記名押印などの独占業務を担います。

この二つの資格を併せ持つことで、不動産取引に関する法的手続きから実務的な契約業務まで、一貫して対応することが可能となります。

さらに、ダブルライセンスを持つことで、他の士業や不動産業者との連携がスムーズになり、業務の効率化や新たな顧客の獲得にも繋がります。

このように、行政書士と宅建士のダブルライセンスは、相互補完的な効果を発揮し、不動産業界での活躍の幅を広げる大きな武器となります。

まとめ

 不動産業界でのキャリア形成や独立開業、副業を検討する際、行政書士と宅地建物取引士(宅建士)のどちらの資格を選ぶべきかは、個々の目標や志向によって異なります。

宅建士:不動産取引の実務に不可欠な資格

宅建士は、不動産取引における重要事項の説明や契約書への記名押印など、法律で定められた独占業務を担います。 不動産会社の設立・運営には、事務所ごとに一定数の宅建士を配置することが義務付けられており、宅建士の資格は業界での必須条件となっています。

また、宅建士の資格は、金融機関や建設会社など、不動産に関連する幅広い業界での就職・転職にも有利に働きます。 不動産取引の現場で即戦力として活躍したい方や、不動産会社の経営を目指す方には、宅建士の資格取得が最適です。

行政書士:法務・許認可手続きの専門家

行政書士は、建設業許可や農地転用許可など、官公署に提出する書類の作成や手続きを代行する専門家です。 不動産業界においても、開発許可申請や建築確認申請など、法務・許認可手続きに関与する機会が多くあります。

行政書士の資格は、独立開業や副業としても取り組みやすく、書類作成業務を中心に活動したい方に適しています。 また、他の士業との連携や、法務コンサルタントとしてのキャリアパスも広がります。

ダブルライセンス:業務範囲の拡大と差別化

行政書士と宅建士のダブルライセンスを取得することで、不動産取引から許認可申請まで一貫して対応できるようになり、業務の幅が広がります。 例えば、相続に伴う不動産の売却手続きでは、行政書士として遺産分割協議書の作成や相続人の調査を行い、宅建士として不動産の売買契約や重要事項の説明を担当することで、ワンストップでのサービス提供が可能となります。

ダブルライセンスは、顧客へのサービス向上や新たなビジネスチャンスの創出に繋がり、他の士業や不動産業者との差別化にも有効です。 ただし、両資格の取得には相応の学習時間と費用が必要であり、計画的な学習と継続的な研鑽が求められます。

自身のキャリアプランに合わせた資格選択を

最終的には、自身のキャリアプランや興味・関心に合わせて、最適な資格を選択することが重要です。 不動産取引の現場で活躍したい方は宅建士の資格取得を、法務・許認可手続きに関与したい方は行政書士の資格取得を、それぞれ検討すると良いでしょう。

また、将来的に独立開業や業務の幅を広げたいと考えている方は、ダブルライセンスの取得を視野に入れることで、より多様なニーズに対応できる専門家としての地位を築くことができます。