不動産売買仲介業者の繁忙期はいつ?基礎知識と背景

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繁忙期と閑散期の違いとは

不動産業界では、年間を通して問い合わせ件数や契約件数に波があります。この波が最も⼤きくなる時期が「繁忙期」、逆に動きが鈍くなる時期が「閑散期」と呼ばれます。⼀般的に、繁忙期は 1 ⽉から 3 ⽉が中⼼です。特に 2 ⽉から 3 ⽉上旬にかけては、内⾒や申込が集中し、契約が⼀気に成⽴するケースが多く⾒られます。⼀⽅、5 ⽉の⼤型連休明けや 7 ⽉から 8 ⽉のお盆、12 ⽉の年末などは引越し需要が少なくなり、業界全体が落ち着く傾向にあります。このため、繁忙期の対応次第で 1 年の売上や評価が⼤きく左右されることも少なくありません。

なぜこの時期が忙しくなるのか

繁忙期に⼈の動きが集中する背景には、⽣活環境の変化が関係しています。進学や就職、転勤などが多くなるこの時期は、住まいを探すタイミングとして最も多く選ばれていま す。主な理由は以下の通りです。

・ 新社会⼈や⼤学⽣の新⽣活準備が 1 ⽉から 3 ⽉に集中する

・企業の⼈事異動や転勤が 2 ⽉から 4 ⽉に多く⾏われる

・ 家族の引越しや住み替えが 2 ⽉から 3 ⽉に活発になる

また、多くの企業が 3 ⽉を決算⽉としているため、法⼈契約や事務所移転の需要も⾼まります。こうした個⼈と法⼈のニーズが重なることにより、不動産業界全体が⼀気に忙しくなるのです。

繁忙期の売上は年間の何割を占めるのか

よく「繁忙期だけで年間売上の 5 割から 6 割を占める」と⾔われますが、これはあながち誇張ではありません。特に賃貸仲介業では、繁忙期である 3 ヶ⽉間の契約件数が年間売上の⼤半を構成することもあります。

実際に、都内で営業しているある不動産会社では、1 ⽉から 3 ⽉の間に年間の 57 パーセントの売上を記録したという事例があります。また、不動産ポータルサイトのアクセス数もこの時期が最⼤となり、問い合わせ数のピークと⼀致しているのが⼀般的です。

このように、繁忙期にどれだけ契約を積み上げられるかが、1 年間の成果を左右する最も重要なポイントといえるでしょう。

繁忙期の失敗事例と成功事例

実際の営業現場では、繁忙期の対応ひとつで結果が⼤きく変わります。以下は、都内の仲介営業担当者 Aさんの実例です。

Aさんは、2022 年の繁忙期において 1 ⽇あたりの問い合わせが急増したにもかかわらず、対応が追いつかず返信が 1 ⽇以上遅れてしまう事態が続出しました。その結果、他社に流れてしまう⾒込み客が多数発⽣し、前年よりも 15 パーセント契約数が落ち込む結果となりました。

翌年 2023 年は、♙ さんは社内体制を⾒直し、以下の 3 点を徹底しました。

・内⾒予約や問い合わせには即時対応

・LINE によるテンプレートメッセージ送信で⼿間を削減

・社内でエリアごとの担当を分担して対応を効率化

その結果、繁忙期の成約件数は前年⽐で 120 パーセントとなり、特に単⾝者向け物件では内⾒から契約まで 1 ⽇で完了するケースも出るなど、⼤きな成果を上げました。

このように、繁忙期は準備と対応⼒が明暗を分けます。事前にどれだけ仕込みができているか、社内体制が整っているかによって、繁忙期をチャンスにできるかどうかが決まるのです。

売買仲介市場の繁忙期はいつ?

賃貸ほど明確ではないものの、不動産売買市場にも「繁忙期」は存在します。主に以下のタイミングが売買の動きが活発になる時期です。

・年度末の 2 ⽉から 3 ⽉

・夏前の 5 ⽉から 6 ⽉

・年末の 11 ⽉から 12 ⽉

このタイミングには、転勤や住み替え、相続による売却など、様々な事情で「今のうちに動いておきたい」と考える層が増えます。さらに、⾦融機関のローン審査や税制優遇の締め切りといった実務的な理由も関係しています。

例えば、住宅ローン減税の対象期間や贈与税の⾮課税制度などは、年度末までの契約や引渡しが要件となっているケースが多く、駆け込みの需要が発⽣しやすくなっています。

売買繁忙期を乗り切るための営業戦略

売買仲介業務では、1 件あたりの成約⾦額が⾼いため、契約 1 本の価値が⾮常に⼤きくなります。繁忙期を活かすには、⾒込み客のフォローや物件管理の精度がカギとなります。

  1. 査定依頼には即対応 売却査定の依頼があれば、原則その⽇のうちに訪問または詳細な連絡を⾏い、信頼を得ることが重要です。スピード感のある対応は、その後の専任媒介契約獲得にもつながります。
  2. 買主への提案は「タイミング」と「⽐較情報」が命 買主は物件情報を毎⽇チェックしています。ライバルに埋もれないためには、価格変更や新規物件の情報を即座に案内し、「この物件は今が買い時」と納得できる⽐較資料を提⽰することが有効です。
  3. ローン審査と契約プロセスの事前設計 ローンの仮審査が通っていない買主に対しては、提携⾦融機関との連携を活⽤してスピーディに進める段取りを整えておくと、成約確度が⾼まります。契約から引渡しまでのスケジュール管理も、この時期はとくに重要で す。
  4. オープンハウスと Web 集客の連動 ⼟⽇にオープンハウスを開催する際は、事前に Webサイトや SNS で案内を出し、来場者数を最⼤化させるようにしましょう。特に繁忙期は、⽐較検討される回数も増えるため、現地案内の演出や雰囲気づくりも成果に直結します。

売買の繁忙期は、賃貸と異なり契約単価が⾼いため、短期間で成果を出せる⼤きなチャンスです。⼀⽅で、失敗すれば損失も⼤きいため、丁寧かつスピーディな対応が必要になります。

事前にローン対応のスキームを固め、物件ごとの提案内容を整理しておくことで、商談を有利に進めやすくなります。

繁忙期に失敗しないための現場対応と管理体制

問い合わせ対応の質とスピードが成否を分ける

繁忙期は、問い合わせ件数が通常の 2 倍から 3 倍に増加するため、対応が追いつかなくなるケースも多く⾒られます。 ここで重要なのが、「どれだけ早く、かつ丁寧に対応できるか」です。

問い合わせへの初回対応が 24 時間以上遅れた場合、顧客が他社に流れてしまう可能性が⾮常に⾼くなります。 実際、初回返信が 5 分以内の場合、成約率が 3 倍以上に跳ね上がるという調査結果もあります。

問い合わせ対応で意識すべきポイントは以下の通りです。

・ メール返信はテンプレート化し、即送信できる体制を作る

・ 電話が取れない場合は、留守電の内容をすぐに社内で共有し、折り返し対応を徹底する

・LINE 公式アカウントや SMS を活⽤して、スピーディに顧客とつながる⼿段を持つ

「質」と「スピード」の両⽴が求められるこの時期、どちらか⼀⽅でも⽋けると機会損失につながります。

スタッフとスケジュールの分担で効率化

繁忙期は業務量が急増するため、1 ⼈の営業スタッフがすべてを抱え込むのは現実的ではありません。 そのため、社内での役割分担とスケジュールの⾒える化が⾮常に重要になります。

以下は、効果的な分担例です。

・ 顧客対応班と物件管理班を分ける

・ 電話やメール対応を事務スタッフに任せ、営業は案内に専念する

・内⾒予約を Google カレンダーや予約システムで社内共有する

また、管理職やリーダーが毎朝の短いミーティングで全体の進⾏状況を確認することで、業務の偏りを早期に修正できます。無理のないシフト設計と、スタッフ間の連携こそが、繁忙期を乗り切るチームの強さを⽣み出します。

反響が殺到する中で優良顧客を⾒極めるコツ

問い合わせが増えると、それに⽐例して「本気度の低い⾒込み客」も増加します。 すべての顧客に均等な時間をかけると、本当に成約につながる案件を取り逃がしてしまうリスクがあります。優先すべき顧客を⾒極めるために有効なのが、事前のヒアリングとスコアリングの導⼊です。

以下のようなチェックポイントを設けると、判断がしやすくなります。

・ 希望の⼊居・購⼊時期が明確であるか

・ 資⾦計画がすでに固まっているか(ローン仮審査済みか)

・ 物件エリアや条件が具体的に絞られているか

これらに当てはまる顧客は「即案内」「優先対応」のリストに⼊れるべきです。逆に、条件があいまいで検討時期も未定という場合は、追客を中⼼に据えて時間配分を調整しましょう。

また、CRM(顧客管理システム)を活⽤することで、対応履歴の⾒える化やフォロー漏れの防⽌にもつながります。繁忙期は、ただ闇雲に案件をこなすのではなく、効率的に対応するための「仕組みづくり」が重要です。

・ 問い合わせにはスピード感を持って対応

・ 業務を分担してスタッフの負担を分散

・ 優先すべき顧客を⾒極めてリソースを集中

この 3 つを軸に現場を整備することで、混乱を最⼩限に抑え、成約数を最⼤限に引き上げることが可能になります。

不動産繁忙期を味⽅につけるための年間戦略

繁忙期を「勝負の場」として最⼤化する

不動産業において、繁忙期は単なる忙しい時期ではありません。 売上・反響・顧客数すべてが集中し、年間の成果の 5 割以上をここで決めると⾔っても過⾔ではない、まさに“勝負の季節”です。この時期を成果につなげるために必要なのは、「ただ案件をこなす」のではなく、「成果を⽣むための事前準備」と「現場での最適な動き⽅」です。

・ 顧客対応のスピードを最速にする

・ スタッフの役割を明確にし、無駄な動きを減らす

・ 優良顧客を⾒極め、成約率の⾼い相⼿に集中する

これらを実⾏できる会社とそうでない会社では、同じ数の問い合わせを受けても結果に圧倒的な差が出ます。

繁忙期だけに頼らない安定経営の視点

確かに繁忙期は⼤きな売上チャンスですが、それだけに頼る経営ではリスクも⼤きくなります。 業績が季節に左右されすぎると、年間を通じた経営の安定性が損なわれるからで す。

だからこそ、繁忙期を活かしつつも、それ以外の時期の動き⽅が⼤切です。

・ 閑散期は改善と仕込みのチャンスと捉える

・ 賃貸管理やオーナー提案など、ストック型の収益を確保する

・ SNS 発信や Web 広告などの資産型マーケティングに取り組む

こうした施策を組み合わせることで、繁忙期に依存しない体質をつくることができます。

年間で「攻めと守り」を設計する

不動産業は季節性が強い業界だからこそ、年間の動きを戦略的に設計することが重要です。

・ 繁忙期は短期集中で攻める

・ 閑散期は振り返りと改善、チーム強化の時期とする

・ 年間を通じた集客と収益のバランスを意識する

このような年間サイクルを意識した動きができる会社ほど、⻑期的に安定した成⻑と信頼を築いていくことができます。