建物の解体の際、アスベストが含まれている、または含まれている可能性がある場合、アスベストの処分費用はいくらになるかが気になる人は多いでしょう。
アスベストは安価で、耐火性・断熱性・防音性・絶縁性などに優れていることから、1955年から1975年にかけて様々な建物に使われてきました。しかし、アスベストが健康障害を起こす恐れがあるとわかり、2006年から全面的に禁止されました。
そのアスベストに関して本記事では、処分の費用相場や処分の流れ、補助金制度について解説しています。
- アスベスト処分の費用相場を知りたい
- アスベスト処分で使える補助金制度を知りたい
▼家の解体費用の基礎知識はこちらの記事でも解説しています
アスベスト処分費の相場
アスベストは発じん性の高さでレベル別に分類されていて、それぞれ1㎡あたりの処分費の相場は、レベル1が1万5,000円~8万5,000円、レベル2が1万円~6万円、レベル3が3,000円ほどです。レベル1が最も発じん性が高く作業を慎重に進める必要があるため、一番費用が高くなります。
▼アスベスト処分費用の相場
アスベストのレベル | 費用の目安 |
レベル1 | 1万5,000円~8万5,000円 |
レベル2 | 1万円~6万円 |
レベル3 | 3,000円 |
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国土交通省が公表した目安
アスベストの処分費の相場に関して、国土交通省が2007年1月から2007年12月における施工実績データに基づいた目安を公開しています。
それは以下の通りです。※費用には事前調査や仮設工事、廃棄物処理など除去工事に必要な費用を全て含んでいます。
アスベスト処理面積 | 除去費用 |
---|---|
300㎡以下 | 2.0万円/㎡~8.5万円/㎡ |
300㎡~1000㎡ | 1.5万円/㎡~4.5万円/㎡ |
1000㎡以上 | 1.0万円/㎡~3.0万円/㎡ |
出典:国土交通省Q40
上記は国土交通省が公開している目安ですが、実際はアスベストが含まれている場所や発じん性などによって作業の対策レベルが変わるため費用も変化します。
レベル1の処分費用相場
レベル1のアスベスト処分費用の相場は、1㎡あたり万5,000円~8万5,000円です。アスベスト含有吹付け材などがレベル1に分類されていて、最も発じん性が高いため危険性も高くなります。
レベル1のものは耐火用や断熱・吸音を目的として使用されるケースが多いです。主にアスベスト含有吹付け材が使用されているのは以下の場所です。
- 耐火建築物・準耐火建築物の梁や柱、デッキ裏などの耐火被覆用の吹付け材
- 空調機械室、ボイラー室の天井や壁
アスベスト含有吹付け材はそのまま処分をしてしまうと、大量のアスベストが飛散する可能性があります。そのため、アスベスト含有吹付け材の対策として3つの工法があります。
除去工法
除去工法とは、既存のアスベスト含有吹付け材の層を下地から取り除く工法で、リムーバル工法とも呼ばれます。
機材が必要となるので費用が高額となり、下地から取り除いていくことで時間もかかりますが、アスベストを完全に取り除くことができるため最も推奨される工法です。
封じ込め工法
封じ込め工法とは、既存のアスベスト含有吹付け材の層はそのまま残し、薬剤などで層の表層部、または全層を覆ったり固着・固定化したりして、粉じんが飛散しないようにする工法です。エンカプスレーション工法とも呼ばれます。
アスベストが残ってしまうというデメリットがありますが、工期が短く、費用が比較的安く、アスベストの飛散をかなり抑えられるというメリットがあります。
囲い込み工法
囲い込み工法とは、既存のアスベスト含有吹付け材の層はそのまま残し、層が露出しないように板状材料などで完全に覆うことによって、粉じんの飛散を防止したり損傷を防止したりする工法です。カバーリング工法とも呼ばれます。
封じ込め工法と同様に、アスベストが残ってしまうというデメリットがあり、コストを抑え工期を短くすることができます。
レベル2の処分費用相場
レベル2のアスベスト処分費用の相場は、1㎡あたり1万円~6万円です。
アスベスト含有断熱材、保温材、耐火被覆材などがレベル2に分類されていて、レベル1程ではありませんが高い発じん性となっています。レベル2は主に以下のような場所で使用されています。
- ボイラー本体や配管
- 空調ダクトの保温材
- 煙突用断熱材
- 建築物の柱、梁、壁等の耐火被覆材
レベル3の処分費用相場
レベル3のアスベスト処分費用の相場は、1㎡あたり3,000円ほどです。
レベル3は、一般的には板状などの固く成形された建材ですが、板状でなくとも固く形成されていれば該当します。レベル1・2と比べて固く割れにくい建材であり、アスベスト飛散のリスクは低いです。ただし、解体の際に注意しなければいけないことには変わりありません。
レベル3は一般的な木造住宅で使用されていたり、以下のような場所で使用されたりしています。
- スレート屋根
- 建築物の天井・壁などの成形版として
- 床のタイル
- 内壁・外壁の建築用仕上げ塗材
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アスベスト処分開始までの流れ
アスベスト処分の工事が始まるまでにはいくつかの手順があります。
それは以下の通りです。
- 現場の調査
- 施工計画の作成
- アスベスト解体工事の届け出
- 近隣住民への説明
- ライフライン停止の手続き
①現場の調査
建物の解体工事の際、事前にアスベストが含まれるかどうかの調査を行なうことは義務付けられています。アスベスト含有の可能性がある場合、調査は必須となります。
この調査ではアスベストの有無以外にも建物の延床面積や構造などを調べます。そして、ある一定の延床面積を超える建物の調査結果は行政に報告しなければなりません。
②施工計画の作成
現場調査の結果や建物の図面・設計図書から解体の手順・重機の搬入経路などの計画を立てます。そして、アスベスト処分の計画や環境保全の計画も作成します。
作成した施工計画はアスベスト処分の工事の全体の作業の手順となります。
③アスベスト処分工事の届け出
アスベストの処分工事の前にはいくつかの必要な届け出があります。必要な届け出はアスベストのレベルによって異なります。
レベル1
- 工事計画届出書(労働基準監督署長に着工日の14日前までに提出)
- 特定粉じん排出等作業実施届出書(各都道府県知事に着工日の14日前までに提出)
- 事前届出書(都道府県知事に着工日の7日前までに提出)
- 建築物解体等届出書(労働基準監督署長に着工日までに提出)
レベル2
- 工事計画届出書
- 特定粉じん排出等作業実施届出書
- 事前届出書
レベル3
- 事前届出書
④近隣住民への説明
近隣住民へ工事についての説明を行なうことは、トラブルを回避し工事を滞りなく進めるために必要不可欠です。
基本的に業者がアスベストの処分工事の内容や注意点などを説明していくことになりますが、クレームなどの防止のために可能であれば施主も同行することをおすすめします。
⑤ライフライン停止の手続き
ガスや電気、電話などのライフラインの停止手続きをしましょう。手続き後に専門業者によって撤去してもらいます。
ただし、水道に関しては解体工事中に粉塵の飛散を防止したり、掃除をしたりする際に使うことが多いため、停止手続きの前に業者に確認しましょう。
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アスベスト処分の流れ
実際のアスベスト処分の工事の流れは以下の通りです。
- 工事内容の提示
- 足場・養生の設置
- アスベストの除去
- 廃棄物の破棄
- 取り残しなどの有無を確認
①工事内容の提示
アスベスト処分工事をする際は、工事の内容について記された掲示物を周囲の人たちが見える場所に設置する必要があります。
そして、工事関係者以外の立ち入りを禁止するための措置を行なってから作業を開始します。
②足場・養生の設置
まず、足場の組み立てや騒音防止のためのパネル設置したり、アスベスト飛散防止用のシートなどで建物全体を覆ったりします。
近隣住民への迷惑を最小限に抑えるために、慎重に、確実に養生を行います。また、作業員はアスベストのレベルに応じた防塵マスクや防護服を纏います。
③アスベストの除去
建物内部の残存物を撤去してなにもない状態にした後、アスベスト飛散防止のための薬剤を散布します。
そうしたら、天井や壁などの、アスベスト含有建材を撤去していきます。アスベストの撤去は専用の機械や工法を用いて行ないます。
そして、建物内部・本体の解体も行なっていきます。その際も、ほこりなどの飛散防止のために水をまきながら作業することがあります。
④廃棄物の破棄
アスベストの処分・建物の解体で発生した廃材は分別する必要があります。
アスベストにの廃棄に関しては特別管理産業廃棄物として廃棄しなければなりません。そして、廃棄する際もアスベストが周囲へ飛散しないように注意を払って廃棄します。
⑤取り残しなどの有無を確認
作業の完了後に、処分作業に取り残しがないこと、囲い込みや封じ込めの措置が適切にとられているかなどを、石綿作業主任者などに目視で確認してもらいます。
もし後々取り残しが見つかった場合、建物を再び建てるとなった時に再度撤去作業をしなければなりません。そのため、必ず適切な知識を持った人に確認してもらうようにしましょう。
アスベストの調査・処分に対する補助金
アスベストの調査・処分に関して、国(国土交通省)は補助制度を創設しており、補助金制度がある地方公共団体において活用できます。
※補助対象となるアスベストは、吹付けアスベスト・アスベスト含有吹付けロックウールです。補助制度がない地方公共団体もあるため、詳細は地方公共団体に問い合わせて確認しましょう。
分析調査で利用可能な補助金
アスベストの分析調査に関して、吹付けアスベスト・アスベスト含有吹付けロックウールが施工されているおそれのある住宅・建築物について補助金制度が適用されます。
吹付け建材中のアスベストの有無を調べるための、調査に要する費用が補助されます。
国の補助の限度額は原則として、1棟あたり25万円となっています。民間事業者などが実施する場合は地方公共団体を経由します。
出典:厚生労働省
除去工事で利用可能な補助金
アスベストの除去・封じ込め・囲い込みに関して、吹付けアスベスト・アスベスト含有吹付けロックウールが施工されているおそれのある住宅・建築物について補助金制度が適用されます。
対象建築物の所有者などが行なう、吹付けアスベストなどの除去・封じ込め・囲い込みに要する費用が、建築物の解体・除去を行う場合はアスベスト除去に要する費用相当分が対象となります。
これに関しても補助金制度のある地方公共団体を経由しますが、国からの補助金は地方公共団体の補助額の1/2かつ全体の1/3となります。
出典:厚生労働省
アスベストの処分費を安く抑えるコツ
レベルによりますが、アスベストの処分には安くない費用がかかります。そのため、専門業者に依頼する際は少しでも費用を安く抑えたいところだと思います。本章では費用を安く抑えるコツを紹介します。
経験豊富な業者に依頼する
アスベストの処分は危険が伴うため、専門知識や経験が豊富な業者に依頼することをおすすめします。経験が豊富な業者の場合、補助金の申請方法に詳しく、補助金をできるだけ多く受け取る方法を知っている可能性があります。
慣れていない業者に依頼した場合、飛散対策が不十分で近隣に迷惑をかけたり、アスベストの処分費用を高く見積もられたりする可能性があります。
また、解体の際に防護服や防護マスクを使用することがあり、それらを既に持っている業者のほうが安く済むため、そういった点も注意してみましょう。
複数の業者から見積もりを貰う
アスベストの処分費用を安く抑えたいなら、見積もりを複数の業者からもらうことが重要です。複数の見積もりを比べることで相場と比べることができ、自分にとって得になるように依頼することができます。
しかし、業者選びはただ安いところにすれば良いわけではありません。悪質な業者に依頼した場合、適切な処分をしなかったり不法投棄をしたりされる可能性があるため、料金だけでなく対応や実績で判断することも重要です。
また、見積もりを確認する際は、費用の内訳が詳細まで記載されているかどうかを確認しましょう。もし書かれていない場合は、業者に提出を求めてください。
アスベスト使用の有無は築年数で判断できる
所有する建物にアスベストが使用されているかどうかを確実に判断するのは、専門家でないと難しいでしょう。
アスベストは健康被害を及ぼす危険な物質であるため、調査や除去には専門の知識が必要になります。2023年10月以降には、国土交通省が定める専門の講習を修了した者が、建物の事前調査を行なうことが義務付けられます。
しかし、完璧な判断とは行かずとも、アスベストが建物に使用されているかどうかを簡易的に確認することができる目安は存在します。詳しく説明していきます。
アスベスト法改正の歴史
1955年頃から、アスベストはその使い勝手の良さにより建設資材としてのみならず、電気製品・自動車などにも活用されていました。
しかし、アスベストの粉塵を人が吸い込むことにより健康障害を起こす危険性があるとわかってからは、徐々に規制が厳しくなっていき、ついには実質的な禁止令が出されることになりました。
そのアスベストに関する規則・法改正の歴史について説明します。
1975年の法改正
1975年に「特定化学物質等障害予防規則の改正」が施行されたことにより、アスベストの含有率が5%を超える施工が禁止されました。
逆に考えると、1975年以前に建てられた建物には特に制限がなかったということです。そのため、築48年以上の建物にアスベストが含まれている可能性が一番高いということです。
1995年の法改正
1995年に「労働安全衛生法施行令」が改正されたことにより、アスベストの含有量が1%を超える施工が禁止されました。
1975年~1995年の間はアスベストの含有量が5%未満であれば施工が許されていました。つまり築48年~築28年の建物に含まれるアスベストは5%未満ということになります。
2006年の法改正
2006年には「労働安全衛生法の改正施行令の改正」が施行され、アスベストの含有量が0.1%を超えるものの、製造・輸入・使用が禁止されました。これは実質アスベストが禁止されたと同義です。
1995年~2006年の間はアスベストの含有量が1%未満であれば施工が許されていました。つまり築28年~築17年の建物に含まれるアスベストは1%未満ということになります。
アスベストに関する規制は年々厳しくなっていったため、2006年以降に建てられた建物には、法令が守られている限り使用されていません。そのため、築17年未満の建物を解体する際は、アスベストの処分に関して心配しなくて良いでしょう。
築年数と法改正の年を照らし合わせる
これまでの説明により、建物にアスベストが使用されているかどうかは、築年数でおおよそは判断できることが分かったでしょう。対象の建物の築年数を確認して法改正の年を照らし合わせれば、アスベストの有無や含有量の見当を付けることができます。
アスベストの含有量は多い順番に、築48年以上・築48年~築28年・築28年~築17年の建物となります。
また、アスベストの有無を調べる方法として、新築当初の設計図書や、使用材料が記載された資料などがあれば記載されている可能性があるため、確認してみると良いでしょう。
私の家の解体費用はいくら?
アスベスト処分費用の相場はレベルによって変わる
アスベスト処分費用の相場はレベルによって変わります。レベル1から3まであり、レベル1が最も発じん性が高く危険であり、費用も高くなり作業の慎重性が求められます。
アスベストの調査や処分に関しては補助金制度を受けることができますが、条件があるためしっかりと確認しましょう。
アスベストの処分を業者に依頼する場合、複数の業者から見積もりを提出してもらい、金額だけでなく業者の対応や実績なども判断材料にしましょう。
記事のおさらい