遺産分割協議を行う際、以下のような疑問を抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- 現物分割ってどんな方法?
- 現物分割ができないこともある?
- どんなケースが現物分割に向いている?
この記事では、遺産分割方法の1つである現物分割について解説します。
現物分割の概要や現物分割ができるケース・できないケース、メリット・デメリット、向いているケースについて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
不動産の相続について基礎的な知識を知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
不動産をそのまま相続する現物分割とは
ここでは、不動産の分割方法の1つである現物分割について解説します。
現物分割とは
現物分割とは、相続財産である不動産や株式などの性質を変えることなく各相続人に分配する方法です。
たとえば、不動産を長男、自動車を次男、現金を長女のように遺産を分割したり、土地を相続分に応じて分筆することが現物分割になります。
現物分割は、いくつかある遺産分割方法の中でも一番簡単なわかりやすい方法だといえます。
現物分割の典型例
不動産の分割において、現物分割を用いられるパターンはある程度決まっています。
- 土地の現物分割
- 建物を区分所有にして現物分割
土地の現物分割
土地を現物分割する場合、相続分に応じて分筆することで物理的に土地を分割することができます。
分筆した土地を単独で所有できるため、相続した土地を自由に売却・活用することが可能になります。
建物を区分所有にして現物分割
基本的に建物は物理的に分けることができないため、現物分割をすることはできません。
しかし、マンションのような建物を区分所有建物に変更することで現物分割することが可能になります。
ただ、建物を区分所有建物にするためには区分所有の成立要件を満たす必要があります。
また、相続人の全員が区分所有建物とすることを伴う現物分割に同意しなければ、建物を現物分割することができないことに注意しましょう。
現物分割が適さないケース
不動産の分割では、現物分割を用いることが適さないケースもあります。
- 建物など物理的に分けられないケース
- 共有物の価値が著しく減少するケース
建物など物理的に分けられないケース
相続財産が1つの建物しかなく、物理的に分けることができないときには現物分割で遺産分割をすることが難しい場合があります。
また、建物の場合、区分所有建物にして現物分割をすることも可能ですが、そもそも区分所有の成立要件が達成できなければ現物分割は不可能でしょう。
共有物の価値が著しく減少するケース
土地を分筆して現物分割をするときに、分割後の土地が狭く、また道路付けの規制などで建物の建築ができない場合には、価値が著しく減少するために現物分割がは適さない場合があります。
特に、東京23区などの都心部で最低敷地面積といった規制がある場合には、分筆して現物分割は難しいことが考えられます。
明確な基準があるわけではないため、専門家への相談が必須となります。
現物分割で不動産を相続するメリット
ここでは、現物分割で不動産を相続するメリットを解説します。
- 手続きが簡単
- 評価をめぐるトラブルが少ない
手続きが簡単
現物分割によって不動産を相続することで、売買やその代金の分配計算などの手間がかからないため、遺産分割協議後の手続きが簡単になります。
たとえば、不動産を相続したのであれば相続登記(名義変更)を行い、自動車を相続したのであれば自分名義に変更して自動車を引き取るだけで手続きが完了します。
そのため、不動産を売却する換価分割や、評価額に応じて現金の支払いが生じる代償分割に比べて、相続における手続きが少ないことがメリットといえるでしょう。
「今持っている不動産を現金化したい」という方は、売却という形で手放すという選択肢もあります。一括査定サイト「イエウール」を使えば、無料で最大6社から査定を受けられるので高く売ってくれそうな会社が分かります。
評価をめぐるトラブルが少ない
不動産を相続する際には、さまざまな評価の方法があることから、評価額についてトラブルが発生しやすくなります。
たとえば、代償分割では「不動産を相続した人が他の相続人と公平になるよう代償金を払う」ため、不動産を相続した人は評価額を下げたいと考え、代償金を受け取る人はその逆を考えるでしょう。
しかし、現物分割によって遺産を分配する場合、「長男は不動産を相続」「次男は自動車を相続」「長女は現金を相続」と決めるだけで遺産を分割することができます。
そのため、不動産などの評価を厳密に求める必要はなく、評価額についてトラブルが発生する可能性が低くなります。
現物分割で不動産を相続するデメリット
ここでは、現物分割で不動産を相続するデメリットを解説します。
- 不公平な相続になりやすい
- 土地を分筆できない可能性がある
- 分筆すると土地の価値が下がることがある
不公平な相続になりやすい
現物分割では不公平な相続になりやすいデメリットがあります。
たとえば、「不動産の評価額が3,000万円」「現金1,500万円」を現物分割する場合、不動産を相続する人と現金を相続する人では1,500万円の差が生まれてしまいます。
このように、不動産のような分割が難しい遺産を現物分割する際、他の遺産との価値に差があると不公平な相続になってしまいます。
もちろん、相続人の全員がその内容に納得すれば問題ありませんが、争いごとに発展しないように配慮が必要でしょう。
いったん争いになってしまうと、遺産分割調停や訴訟にまで発展することもあることに注意が必要です。
土地を分筆できない可能性がある
現物分割では、土地を法定相続割合に応じて分筆することで公平に土地を相続することができます。
しかし、すべての土地で分筆ができるわけではなく、条例によって分筆を禁止している地域もあります。
分筆にもさまざまなルールがあるため、事前に確認しておく必要があるでしょう。
分筆すると土地の価値が下がることがある
現物分割で土地を分筆するデメリットとして、分筆することにより土地の価値が下がってしまうことがあります。
分筆できる土地であっても、細分化することで用途が限定されてしまったり、道路に面しなくなったりすることで、土地の価値が下がることも少なくありません。
土地の評価額が下がってしまうと、いざ売却しようと思ったときに希望の金額で売れないこともあるため、注意が必要です。
不動産の相続で現物分割が向いているケース
ここでは、不動産の相続で現物分割が向いているケースを解説します。
- 相続人の全員が分割内容に納得しているケース
- さまざまな種類の遺産があるケース
- 預貯金で相続分を調整できるケース
- 特定の相続人に遺産を集中させたいケース
相続人の全員が分割内容に納得しているケース
もし、相続人の全員が遺産の分割内容に納得しているのであれば、現物分割で相続するのが適しています。
たとえば「長い間、両親と一緒に暮らしていたのだから、長男が不動産を相続することに問題はない」「遠方に住んでいて、不動産を相続しても管理できないから他の財産を相続できればいい」というように、相続額が不公平だとしても、相続人全員が分割方法に納得しているのであれば、現物分割で相続する方が適しています。
さまざまな種類の遺産があるケース
複数の不動産や自動車、株式、ゴルフ会員権、現金など、さまざまな種類の遺産がある場合には、ある程度公平に遺産を分けられるため、現物分割が適しています。
もし、以下のような財産を2人の兄弟で相続する場合には、下記のように現物分割をすることで不公平にならずに分割することが出来ます。
- 不動産A(2,000万円)
- 不動産B(3,000万円)
- 株式(700万円)
- 自動車(300万円)
相続人 | 相続する遺産 | 相続する遺産の合計金額 |
---|---|---|
長男 | 不動産B(3,000万円) | 3,000万円 |
次男 | 不動産A(2,000万円)・株式(700万円)・自動車(300万円) | 3,000万円 |
このように、さまざまな種類の遺産があれば、遺産を組み合わせて遺産の合計金額を公平にすることもできるため、現物分割が向いています。
預貯金で相続分を調整できるケース
不動産や自動車などの相続財産の評価額に差があったとしても、預貯金が多くある場合、差額を補填してある程度公平に相続することができるため、現物分割が適しています。
もし、不動産(3,000万円)、自動車(500万円)、現金(2,500万円)の遺産を2人で分割する場合、Aさんが不動産(3,000万円)を、Bさんが自動車と現金(合計3,000万円)を相続すれば遺産の価格が公平になります。
このように、相続財産に多くの預貯金があった場合には、現物分割を検討しても良いといえるでしょう。
不動産を現物分割で相続するのは慎重に
遺産が不動産だけの相続や現金が少ない場合の相続では、公平に遺産を分割できないため、現物分割で相続するには注意が必要でしょう。
遺産分割では、相続人全員が納得する分割内容にする必要があることから、現物分割をはじめ、代償分割、換価分割といった分割方法から都合の良い分け方を採用しましょう。
最悪の場合、遺産分割調停や訴訟にまで発展し、兄弟の関係が崩壊してしまうようなことも少なくないので、慎重に遺産分割協議を進めることが重要です。
相続の手続きや相続税については以下の記事が参考になります。
個人向けに終活サポート・相続手続・障がい者の法的支援、法人向けに企業の法務手続等幅広く取り扱っております。特に相続案件は年間100件以上受任する実績がある。
記事のおさらい