三井住友信託銀行の「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2021年6月公表)によれば、住宅購入者のうち27.0%の方が頭金ゼロで住まいを購入しているというデータがあります。
20代では43.0%、30代で38.1%が頭金ゼロで物件を取得しており、若い世代になるほど頭金なしで住宅ローンを組むことが少なくないことが分かります。
頭金なしで住宅ローンを利用すると、貯金を別の用途に使えるメリットもありますが、返済負担が高まるなどのデメリットも存在します。
今回は頭金なしで住宅ローンを組む「フルローン」について、注意点や返済シミュレーション、返済のコツを解説します。
頭金なしで住宅ローンを組むことは可能?
冒頭でご説明した通り、頭金ゼロで住宅を購入する方が一定数いることから、頭金なしで住宅ローンを組むことは不可能ではありません。
ただし頭金が住宅購入でどのような意味を持つのかは把握しておくと良いでしょう。まずは、頭金に関する基礎知識をご紹介します。
頭金とは
頭金とは、住宅ローンを借り入れて物件を購入する際に、ローンとは別に自己資金から現金で支払う金額です。
たとえば3,000万円の物件の頭金を300万円支払うと、住宅ローンの借入金額は2,700万円となります。
3,000万円の融資を受けるのか、2,700万円の融資を受けるのかによって、毎月の返済額や利息の支払いも変わります。
借入金額をできるだけ減らすことで、長く続くローンの返済負担を軽減できるため、頭金を支払うかどうかは住宅ローンを組む際に検討しましょう。
頭金の平均金額
国土交通省が公表する「令和2年度 住宅市場動向調査報告書」によれば、頭金(自己資金)の平均額と割合について以下のように紹介されています。
物件種類 | 平均購入資金 | 平均自己資金 | 自己資金比率 |
---|---|---|---|
分譲戸建住宅 | 3826万円 | 971万円 | 25.40% |
分譲マンション | 4639万円 | 1589万円 | 34.40% |
中古戸建住宅 | 2894万円 | 1140万円 | 39.40% |
中古マンション | 2263万円 | 976万円 | 43.20% |
目安ではありますが、物件価格の15%〜45%程度が頭金の平均額となります。ただし貯金を全額頭金として入れてしまうと、のちの生活費や教育資金、老後資金に影響する可能性があります。
そのため頭金は、無理のない範囲で調整しましょう。
頭金なしでも諸費用が発生
物件を購入する際には、頭金以外にも必要となる初期費用があります。税金や手数料、保険料などの「諸費用」と呼ばれるもので、具体的には以下の項目があります。
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登録免許税
- 住宅ローンの融資手数料
- 住宅ローンの保証料
- 火災保険・地震保険料
- 不動産取得税
物件購入に必要な諸費用は、物件価格に対して、[/underline]中古物件で6%〜13%新築物件で3%〜7%が目安[/underline]とされます。
中でも住宅ローンの融資手数料・保証料は借入金額に応じて決まることも多く、頭金を入れて借入金額を抑えることで、諸費用を節約できるケースもあります。
諸費用は「諸費用ローン」として融資を受けて支払うことも可能ですが、頭金なしで諸費用の借入も上乗せした住宅ローンは返済負担が大きくなるため、慎重な検討が必要です。
頭金なしで住宅ローンを組むことをおすすめできない理由
基本的には頭金なしで住宅ローンを組むことはおすすめできません。
頭金なしで住宅ローンを組む場合、毎月の利息額・返済額が増えてしまいます。単純に元金を返済期間で割った金額が大きくなるということでもありますし、利息額は元金によって決まるためその分毎月の利息額も大きくなってしまいます。
また、頭金をどうしても貯められない場合は、そもそも支払い能力にも問題がある可能性が高いです。無理をして住宅ローンを組んでしまうことのないよう、自分にあったプランで計画を立てるようにしましょう。
頭金なしで住宅ローンを組むメリット
頭金なしで住宅ローンを組むメリットには、次の4つが挙げられます。
- 良い物件を逃さず購入できる
- 貯金を生活費・教育資金に回せる
- 定年前に完済するプランを立てやすい
- 住宅ローン控除を活用しやすい
それぞれ解説します。
良い物件を逃さず購入できる
頭金なしで住宅ローンを組む場合、物件購入をすぐにできることから、理想の物件を買い逃す可能性が低くなるメリットがあります。
現金を貯める期間が不要なため、希望する住まいの内覧後、すぐに買付証明書の作成に進むことも可能になります。
貯金を生活費・教育資金に回せる
頭金に回す予定だった資金をそのまま貯金しておくことで、生活費や子どもの教育費に回せるようになります。
中古物件を購入後のリフォーム資金に充てることなども可能で、余裕を持った資金計画を立てられるのがメリットです。
定年前に完済するプランを立てやすい
一般的に利用される35年ローンの場合、65歳の定年以前に完済するためには、30歳以下で住宅ローンを組む必要があります。
十分な頭金が貯まる前に住宅ローンを組むことで、若い時期に返済を開始し、完済時期を早めることが可能になります。
返済期間が長いほど毎月の返済額も抑えられるため、無理のない返済プランを立てやすくなるメリットもあります。
住宅ローン控除を活用しやすい
住宅ローン控除は、年末時点でのローン残高の0.7%が所得税から控除され、申告すると控除額が現金で還付される制度です。
2022年度以降、段階的に縮小が予定されていますが、物件によっては5,000万円までのローン残高が対象となります。
そのため頭金を抑えて借入金額を増やす頃により、受けられる住宅ローン控除を増やせるメリットもあります。
頭金なしで住宅ローンを組むデメリット
頭金なしで住宅ローンを組む際には、頭金を支払う場合に比べて、以下のようなデメリット・注意点が存在します。
- 返済負担率・金利が増大する
- 変動金利では金利上昇リスクが大きい
- 住宅ローンの審査が厳格化
- 多額のローンは売却後も残る可能性が高い
それぞれ詳しく解説します。
返済負担率・金利が増大する
「返済負担率」は、年収に対するローンの返済額の割合です。理想的な返済負担率は、手取りの年収の20%〜25%程度とされており、たとえば手取り年収500万円の方が年間100万円の住宅ローンを支払う場合、返済負担率は20%となります。
返済負担率が手取りの30%を越えてしまうと生活費を圧迫する可能性があるため、物件価格や金利、借入期間などを調整して返済負担率を下げる工夫が必要となるでしょう。
変動金利では金利上昇リスクが大きい
頭金なしで、住宅ローンの借入額が大きくなると、変動金利のローンを選んだ場合は金利上昇のリスクが大きくなります。
たとえば、ローンの借入金額を3,000万円、返済期間を35年として返済額をシミュレーションしてみましょう。この条件で0.5%の金利だと、毎月の返済額は7.79万円、金利が1.0%に上昇した場合は8.47万円(差額0.68万円)が返済額となります。
一方で借入金額が5,000万円の場合、0.5%の金利時では12.98万円、それが1.0%に上昇すると14.11万円(差額1.13万円)の返済額となります。
このように、金利上昇リスクは借入金額が大きいほど、返済負担の増加につながることに注意が必要です。
住宅ローンの審査が厳格化
住宅ローンの審査を行う金融機関は、契約者の返済能力を最も重視しています。
そのため、頭金なしのフルローンだと、返済額・返済期間に耐えられないと判断されてしまうこともあります。
前述した返済負担率は、住宅ローンの審査においても重視されます。年収に対して借入額の割合が高額になると、契約者の返済能力を超えると判断されて融資が下りないケースもあります。
多額のローンは売却後も残る可能性が高い
住宅ローンが支払えなくなった場合や、転勤・離婚、住み替えなどがあった場合に、マイホームを手放す可能性も考えられます。
しかしローンが高額の場合、マイホームを売却しても住宅ローンを完済できず、借金が残ってしまう可能性もあります。
このような「担保割れ」の状態では、残債を自己資金で支払うことになるため、少しでもリスクを抑えるためには、やはり頭金を用意して借入金を減らす方が賢明でしょう。
頭金なしの住宅ローンを無理なく返済するコツ
最後に、頭金なしで住宅ローンを組んだ場合に、無理なく返済できるプランの作成方法について、以下の3つのポイントを解説します。
- 借入可能額ではなく返済可能額でローンを組む
- 積極的に繰り上げ返済を行う
- 固定金利を検討する
借入可能額ではなく返済可能額でローンを組む
住宅ローンの借入額を決める際には、「借りられる金額」ではなく「返済できる金額」をもとにしましょう。
住宅ローンを借りて購入したマイホームに住み始めた後も、固定資産税や都市計画税、マンションの修繕積立金・管理費、戸建てのメンテナンス費用など、ローンの返済のほかに必要となる住居費は多数存在します。
そのため借入可能金額の上限で物件価格を決めるのではなく、返済負担率を考慮した返済可能額の範囲内で、返済計画に余裕のある物件を選びましょう。
積極的に繰り上げ返済を行う
頭金なしで組んだ住宅ローンは、余裕のある時期に繰り上げ返済を行うことで、金利の支払いを抑えたり完済時期を前倒ししたりすることが可能です。
繰り上げ返済の返済額は、金利を除いた元金の返済のみに充てられるため、積極的に利用することで将来の返済負担を軽減できます。
ただし、繰り上げ返済は1回ごとに手数料が発生したり、100万円以上などの返済額の下限が設定されていたりする場合もあるため、まとまった金額ができた段階で繰り上げ返済を実施するとよいでしょう。
固定金利を検討する
頭金なしで借入額が多い場合、住宅ローンの金利タイプは固定金利または固定期間選択型の金利が良いでしょう。
固定金利は返済期間中の金利が一定のため、返済プランが立てやすいメリットがあります。固定期間選択型は、3年・5年・10年などの一定期間は固定金利で、その後は変動金利に変更可能なタイプで、固定金利と変動金利の折衷型です。
一般に、固定金利型よりも変動金利型の方が低金利ですが、変動金利型は前述のように、金利上昇のリスクを大きく受けるデメリットもあります。
低金利水準の間は、固定金利でも十分に低い金利のため、安全な返済プランのためには固定金利を検討すると良いでしょう。
頭金なしの住宅ローンに関するよくある質問
ここからは、頭金なしの住宅ローンに関するよくある質問についてご紹介します。
- 「頭金なし」と「5年後の頭金あり」の違いは?
- 頭金を貯めるのと繰上返済どちらが有利?
- フルローンを組めない場合はどうする?
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
「頭金なし」と「5年後の頭金あり」の違いは?
今すぐ頭金が用意できない場合、頭金なしで今すぐ購入するか、5年程度で頭金をしっかり貯めてから購入するのとではどちらが良いのか悩む人もいるでしょう。
毎月の返済額は「5年後頭金あり」のほうが安くなり、ローンの返済総額と利息総額も少なくすることができます。
一方で、頭金を作るための5年間は別の家で暮らす必要があるため、その期間中にかかる家賃も考慮する必要があります。
実際にどちらが総合的にコストを抑えられるかは、ローンの返済額だけでなく頭金を貯める期間の家賃も考慮して計算するようにしてみてください。
頭金を貯めるのと繰上返済どちらが有利?
頭金を貯めるか繰上返済を行うかで悩んでいる人もいるかもしれません。
住宅ローンの繰上返済とは、毎月の返済とは別に、まとまった資金を使ってローンの元金の一部を返済することで、正確には「一部繰上返済」を指します。
繰上返済をするよりも、頭金を貯めてからローンを組んだ方が総合的に支払う利子が少なく済むメリットはありますが、上記の通り貯蓄期間中に住む家の家賃も考慮すると、タイミングの問題が大きいといえるでしょう。
フルローンを組めない場合はどうする?
上記で述べたとおり、頭金なしでフルローンを組むこともできますが、頭金があった方が返済額を抑えられるメリットがあります。
どうしても自分で頭金の用意が難しい場合、たとえば両親から資金援助を受ける方法も選択肢のひとつです。住宅購入のための資金贈与には「住宅取得資金贈与の非課税制度」が設けられており、条件に当てはまれば一定の贈与税が非課税となります。
非課税制度についてはこちらの記事もご覧ください。
親子間の贈与税|かかるケースや使える非課税制度
頭金なしの住宅ローンはメリット・デメリットを踏まえて慎重に
頭金なしで住宅ローンを組むことには、購入時期を前倒しして貯金を別の用途に使えるなどのメリットがあります。一方で返済負担率が高まり、ローンの審査が厳しくなるほか、売却した際にも残債が発生しやすいデメリットもあります。
頭金の有無によって毎月の返済額や金利の支払い、総返済額も変動するため、貯金額とのバランスを考慮しながら頭金の有無を決めると良いでしょう。
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