賃貸経営で差別化を図るなら、ZEH住宅やマンションで経営をすることがおすすめです。ZEH住宅には通常の住宅にはないメリットが多数あり、競合物件との差別化を図りやすいです。
ただし、ZEH住宅にはデメリットもあるため、どのような点が問題になるのかも知っておく必要があります。ZEH住宅についての理解を詳細まで深めて、賃貸経営に役立てましょう。
ZEHとは?ZEH-Mとは?
ZEH(ゼッチ)は「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称です。ZEHは最新の設備システムを導入しており、創エネと省エネを実現することができます。ZEHは省エネをしながら再生可能エネルギーによって創エネし、年間の一次エネルギーの消費量を0にすることを目指しています。
ZEHの特徴
ZEHの特徴の1つは「省エネ」です。経済産業省資源エネルギー庁によると、日本の家庭のエネルギー消費において、約30%を占めているのが冷暖だそうです。ZEHはこの冷暖房のエネルギー消費を抑え、エネルギーを節約することができます。
ZEHは、夏に熱を侵入させない「日射遮蔽効果」と、冬に熱を逃さない「断熱効果」をもっています。そのため、夏は室外の熱気が侵入せず涼しく、また冬は室内の温かい空気が逃げないため暖かく過ごすことができるのです。温度差によるヒートショックを防ぎやすいのも魅力でしょう。
また、断熱性能の高いZEHは室温が安定しており、過度に湿気がたまらない環境になっています。そのため、、ダニやカビなどの発生を防げる点も魅力です。
もう1つの特徴は「創エネ」です。ZEHは太陽光発電などの再生可能エネルギーを自家発電することで創エネを実現します。創ったエネルギーが消費エネルギーを上回り、エネルギーの消費量がゼロとなるのがZEHなのです。
ZEHの需要
経済産業省が2021年に実施した一般消費者向けアンケートの結果では、「関心がある省エネ・節電サービス」という項目で、「住宅リフォームのアドバイス」を選んだ3人世帯は12.8%でした。このことから、住宅リフォームも省エネの項目として捉えられており、世間の関心があることがわかります。
また、近年の戦争によるエネルギー価格の高騰や、地球温暖化をはじめとする環境問題などから、省エネに関する意識は高まっているようです。
ZEH-Mとは
戸建てをZEHと呼ぶのに対して、アパートやマンションはZEH-M(ゼッチ・マンション)と言います。補助金などの制度ではZEH-Mと記載されます。
強化外皮基準と一次エネルギー消費量などの基準、つまりどれだけ省エネかを基準に以下の4つに分類されます。
Nearly ZEH-M…創エネで消費量を1/4にする
ZEH-M Ready…創エネで消費量を1/2にする
ZEH-M Oriented…創エネはするが量は問わない
- 強化外皮基準(壁や床などを気密性の高いものにしているか)を満たしている
- 再生可能エネルギーを導入している
- 消費電力の20%以上を省エネしている
活用事例:木造重層アパート「グレイスペア」
ZEHで賃貸経営するメリット
ZEH住宅やマンションを賃貸利用するメリットは、次の通りです。
- 家賃を高く設定できる
- 差別化でき空室リスクを軽減できる
- 電気を売って収入が得られる
- 手放すときは高く売却できる
メリットから、ZEH住宅で賃貸経営を行う魅力を知っていきましょう。
家賃を高く設定できる
資産価値が高く、省エネを実現できるZEH住宅は、家賃を高く設定できる点が魅力です。ZEH住宅では太陽光発電システムが設置されているため、入居者は光熱費を節約でき、その分を家賃に上乗せできます。
また、住宅自体の性能が高いため、物件としての魅力も高く、通常の住宅より家賃を高く設定しても、入居者を集めやすいでしょう。
差別化でき空室リスクを軽減できる
通常の賃貸住宅とは異なる特徴を持つZEH住宅は、競合物件との差別化ができ、空室リスクを軽減できる点が魅力です。日本は少子化が進行しており、人口減少に伴って、賃貸需要も少なくなる見込みです。
そのため、賃貸需要を獲得するには他の物件との差別化が必要であり、省エネで高性能なZEH住宅は差別化を図りやすい点がメリットでしょう。
また、ヒートショックが起きづらいZEH住宅は、高齢者も安心して暮らすことができ、幅広い層をターゲットにして入居者を募集できることも魅力です。
電気を売って収入が得られる
太陽光発電システムで発電した電気は、自宅で利用して光熱費を下げるだけではなく、電力会社に売却して収入を得ることも可能です。売電によって収入が得られるだけではなく、収入分を入居者に還元できます。
入居者への還元があると入居のハードルを下げやすく、空室リスクを回避しやすいことも大きなメリットです。
手放すときは高く売却できる
通常の物件よりも資産価値が高いZEH住宅は、売却時に高額で手放しやすいこともメリットです。もともとの資産価値が高いため、ある程度築年数が経過しても、高値で売れる可能性は高いです。
賃貸経営の出口戦略として将来的に売却を考えているなら、ZEH住宅のほうが好条件かつ、スムーズに売却しやすいでしょう。
賃貸住宅としてZEH住宅を建築する可能性が出てきたら、早い段階で施工会社から建築プランと建築費用の見積もりを取得しましょう。
施工会社に提案される建築プランには建築費用の見積もりだけでなく設計図面や収支計画が含まれています。複数の施工会社の建築プランを比較することで、客観的に利回りを算出することもできますし、自分の土地でどのような賃貸住宅を建てられるかイメージが湧くようになります。
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\建築費は?初期費用は?/
ZEHで賃貸経営するデメリット
ZEH住宅やマンションで賃貸経営をすることには、デメリットもあります。
- 建築費用が高い
- メンテナンス費用が高い
- 売電価格が下落している
- 外装のデザインの制限がかかる
- 太陽光発電の設置で建物に負担がかかる
メリットだけではなくデメリットも正しく理解して、ZEH住宅ならではの特徴を知っていきましょう。
建築費用が高い
通常の住宅と比較すると、ZEH住宅は建築費用が高い点がデメリットです。通常の住宅は60万円から70万円程度が坪単価の目安ですが、ZEH住宅は75万円から85万円程度かかります。
そもそもマンションなどの集合住宅を建築する場合は建築費用は高額になりますが、ZEHだとさらにコストは高くなります。初期費用が高いとローンの借入額も増え、返済負担は大きくなりやすいです。
賃貸経営がうまくいかないと、ローンを滞納してしまう可能性があり、場合によっては資産の差し押さえとなって、物件を手放さなければならない可能性もあります。
メンテナンス費用が高い
メンテナンスの費用が高く、ランニングコストがかかりやすいのもZEH住宅のデメリットです。ZEH住宅は太陽光発電システムを始めとして、さまざまな設備を導入します。
導入されている設備が多いため、定期的なメンテナンスで費用がかかり、通常の住宅よりも維持費は高くなります。太陽光発電システムだけで見ても、定期点検には10万円程度の費用がかかり、ランニングコストは高額です。
購入時の費用が高いだけではなく、賃貸経営を開始してからも費用がかかるため、安定して経営するにはある程度の自己資金を用意しなければなりません。
売電価格が下落している
太陽光発電システムで発電した電気は、電力会社に売却して収入を得られます。しかし、売電価格は年々下落しており、売却してもそれほど大きな利益にはなりません。
将来的にはさらに売電価格は下落する見込みであるため、太陽光発電による収入を期待していると、思いのほか収益が伸びず、ローンの返済などで苦労する可能性があります。
外装のデザインの制限がかかる
ZEH住宅では太陽光発電システムを屋根に設置するため、外装のデザインが制限されます。そのため、やりたいデザインで建築ができず、見た目が悪くなってしまう可能性がある点はデメリットです。
デザイン性が悪いと入居者需要も獲得しづらくなり、見た目の悪さが空室リスクを生む可能性があることは理解しておきましょう。
太陽光発電の設置で建物に負担がかかる
太陽光発電システムを屋根に設置するZEH住宅は、建物に負担がかかることもデメリットです。太陽光発電システムは重量があるため、屋根の劣化は早いです。
劣化が早いと修繕費用がかかりやすいだけではなく、災害時に建物の損傷や倒壊のリスクが高くなってしまうことも、デメリットとして覚えておきましょう。
ZEH賃貸は入居者にもメリットがある!
ZEHで賃貸経営をするメリットについて説明してきましたが、ZEHには入居者にもメリットがあります。ZEH賃貸に住むメリットは以下の通りです。
- 光熱費が抑えられる
- 住み心地が良い
- 災害時でも電気を使える
- 売電収入を得られる可能性がある
ZEH賃貸は断熱性の高い設備によって冷房、暖房にかかる費用を抑えることができるため、一般的な賃貸物件よりも光熱費を抑えることができます。また、断熱性の高い設備は省エネとなるだけでなく、室温を一定に保ちやすいというメリットもあります。
そのため1年を通して快適に暮らすことが可能であり、急な温度差で体調を崩すリスクも減ります。加えて湿気がこもりにくくなる効果もあるので、カビの発生も抑制することができます。
台風や地震などの災害が原因で停電になっても、太陽光発電や蓄電池の活用により停電時にも電気を使用することができる点は非常時に安心できる利点と言えます。
オーナーの意向次第では、入居者が売電収入を得られる可能性がある点も魅力的な部分です。発電した電気は、オーナーがまとめて入居者に電気を売るタイプと、太陽光パネルを各部屋ごとの入居者に割り当てて入居者が自由に扱うタイプの2つがあります。
オーナーが一括で売る場合であれば売電収入はオーナーのものになりますが、入居者が自由に扱うタイプであれば、入居者は発電した電気を売ることも利用することもできます。
ZEH賃貸で利用できる補助金
この章では、ZEH賃貸で利用できる補助金と、補助金を利用することができる背景を解説していきます。
なぜZEHは補助金を利用できるのか
なぜZEHは補助金を利用することができるのでしょうか。それは、エネルギー問題や環境保護の対策の1つとして、政府や自治体が積極的に普及を進めているからです。
具体的には、「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」という目標が国によって掲げられています。
そのための取り組みとして、例えば、令和5年のZEH等支援については、環境省・経済産業省・国土交通省の3省が連携して取り組み、ZEH住宅施工をサポートするための補助金を給付しています。世界的に環境に対しての意識が高まる中で、エネルギー対策の1つとしてZEHは注目されているのです。
ZEH-M(ゼッチマンション)支援事業
賃貸住宅を含む集合住宅を対象とした補助金制度が、ZEH-M(ゼッチマンション)支援事業です。
住宅の階層ごとに「中高層ZEH-M支援事業」「低層ZEH-M促進事業」など、細かく補助金の制度がわかれています。さらに、先ほど紹介したZEH-Mの分類によって、利用できる補助金の金額が変わります。
ZEH-Mの補助金はいくら?
それでは、実際にいくらくらいの補助金を利用することができるのでしょうか。
ZEH-Mの補助金額は以下のとおりです。
住宅の階数 | 補助金の額 |
---|---|
1~5階建て | 50万円×戸数 |
6~20階建て | 経費の1/2以内 |
21階建て~ | 経費の1/3以内 |
また、国からの補助金だけでなく、自治体から補助金が出る場合もあります。
例えば、東京都が推進する「東京ゼロエミ住宅」であれば、新築の集合住宅等に対して水準ごとに一戸あたり20万円~170万円の補助金を出しています。
基本的には地方自治体からの補助金は国庫である国の補助金と併用できません。ただし、一口に自治体といっても様々な種類があるため、補助を併用できる場合もあります。実際にZEHで賃貸経営を行う前には、国や自治体の補助制度を確認することをおすすめします。
ZEH賃貸の経営は投資を回収できるのか
この章では、ZEH賃貸の経営が実際に投資を回収できるのかについて、解説していきます。
ZEH賃貸の建設費
ZEHアパートやマンションを建設するのには、通常のアパートやマンションよりも費用がかかります。建設費は一般的に10%~30%ほど高くなると言われています。
追加でかかる費用は、再生可能エネルギーを生み出すシステムや、設備費用です。太陽光発電システムの設置費用およそ100万円~300万円を含めて、設備費におよそ400万円~600万円ほど追加でかかります。
アパート建設には5,000万円~1億円の費用がかかるので、ZEH仕様の場合は通常より10%以上高くなるといえます。アパートやマンションであれば、設置するソーラーパネルの面積などによりますが、通常より10%~30%高くなると想定しておきましょう。
ZEH賃貸の売電収入
太陽光発電等で得た電気の売上はどうなるのでしょうか。
発電した電気ですが、オーナーがまとめて入居者に電気を売るタイプと、太陽光パネルを各部屋ごとの入居者に割り当てて入居者が自由に扱うタイプの2つがあります。
オーナーが一括で売る場合であれば、売電収入はオーナーのものになります。そのため、発電量に応じて電気代の支払いを住人から受けることになります。余剰があれば電力会社に売ることもできます。入居者が自由に扱うタイプであれば、入居者は発電した電気を売ることも利用することもできます。入居者にメリットとしてアピールできるため、他の賃貸物件との差別化をより図りやすくなるでしょう。
ZEH賃貸は投資を回収できるか
ZEH賃貸は、投資を回収することができるのでしょうか。端的に答えると、できると断言はできません。
紹介した通り、ZEHの建設費用は一般的なアパートやマンションと比べて高くなるため、初期費用が高くなり利回りが低くなってしまいます。
しかし、建設をサポートする補助金の制度を使い、他の賃貸物件と差別化して空室率を低くすれば、期待以上の収入を得ることもできるでしょう。他の物件と差別化するのであれば、ZEH賃貸をおすすめします。
ZEH賃貸の始め方
この章では、ZEH賃貸の始め方をざっくりと説明します。
ZEHデベロッパーに依頼する
ZEHデベロッパーは、ZEHの補助金制度やデータをまとめている環境共創イニシアチブに登録された建設会社です。ZEHを建設するときは、信頼と実績のある建設会社を選ぶことが大切です。
ZEHデベロッパー一覧検索は環境共創イニシアチブのサイトからすることができます。
補助金を申請する
補助金は基本的に、建てる際にZEHデベロッパーが申請します。ただし、補助金を受けるには公募期間に申請し、審査に通らなければなりません。
補助金の申請期間は例年5月ごろ〜6月ごろです。その前にZEHデベロッパーと相談し、審査に通るような建築プランを固めていきましょう。
ZEHのメリットデメリットを理解して、賢く賃貸経営をしよう
環境に配慮した省エネの住宅で、安全性や快適性の高いZEH住宅は、他の物件と差別化をして賃貸経営をしたい人におすすめです。ただし、通常の住宅よりも建築費用は高くなり、ランニングコストも高額になるため、資金に余裕がある人に向いています。
ZEH住宅にはさまざまなメリットがありますが、金銭的なデメリットも多いため、すべての人に適しているわけではありません。自分はZEH住宅に向いているかを確認し、適する場合は他の物件との差別化をするためにも、ZEH住宅で賃貸経営を行いましょう。