土地活用として駐車場経営を行っている方の中には、税金対策を意識している方も多いのではないでしょうか。
駐車場経営の節税対策として、法人化は非常に有効ですが、メリットを享受するには900万円以上の年間所得が必要とされています。
なぜ、900万円が目安となるのでしょうか。駐車場経営を法人化するメリット・デメリットや、法人化のタイミングなどについて、詳しく解説します。
駐車場経営については以下の記事をご覧ください。
駐車場経営の種類
駐車場経営には、月極駐車場とコインパーキングの2つの形式があります。
この2つの形式にはそれぞれに特徴があり、法人化に向いているかどうかにも大きく関わる要素です。
駐車場経営の法人化について考える際に、しっかりと把握しておきましょう。
月極駐車場経営
利用者から毎月定額の駐車場賃料をもらう方式が月極駐車場です。
決まった額が支払われるため、比較的安定した収入を得られることがメリットといえます。また、精算機やゲートなどが必要になるコインパーキングと比べて、初期費用を抑えられることもメリットです。
しかし、利用者が決まらなければ収入が得られず、立地や地形によっては空き状態が続いてしまうといったリスクがあります。
また、月極駐車場には、地主自身が利用者と直接賃貸の契約を交わし、賃料の回収をする自主管理と、利用者募集から駐車場管理までを不動産会社に委託する方法の2種類が一般的です。
コインパーキング経営
保有する土地にコインパーキング施設を設け、利用者から時間単位で利用料をもらう方式の駐車場経営方法がコインパーキングです。
コインパーキングは施設設置費用が掛かってくるため、月極駐車場に比べて初期費用が高くなってしまいますが、立地条件によっては大きな収益を上げられます。
また、初期費用を抑えたい場合は、コインパーキング運営会社に土地を貸すことで収益の一部をもらう、一括借り上げ方式という経営方法も人気です。
一括借り上げ方式を利用すると、機器の導入や工事などに関わる初期費用を全額負担してもらえるケースもあり、0円で駐車場経営を始めることができます。また、管理委託とは異なり、利用者の数にかかわらず一定の賃料を得られることも特徴です。
駐車場経営を法人化するメリット
月極駐車場とコインパーキングの2種類の経営形態が存在する駐車場経営ですが、法人化は土地所有者にとってどのような影響があるのでしょうか?ここからは、駐車場経営を法人化することのメリットを抑えましょう。
税金面での節税効果が期待できる
駐車場経営を事業として行う法人を設立した場合、法人の利益に課税されるのは法人税です。また、ここに法人事業税・地方法人税・法人住民税を加えた実効税率は、おおむね30.62%です。
一方、個人事業として駐車場経営を営む場合には、利益に対して課される税金は個人所得税になります。
個人所得税は以下の通り、累進課税のため利益が高くなれば税率も上がります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
(参照元:No.2260 所得税の税率|国税庁)
個人所得税では、年間所得金額が900万円以上のときは税率33%となり、法人税の実効税率30.62%を越える公算となっています。
よって、駐車場経営による法人化のメリットを税額面で受けるのは、年間所得金額が900万円以上の場合ということです。
この際に注意したいのは、駐車場経営で得た収益は基本的に不動産所得に分類され、総合課税の対象になるため、他の所得と合算される点です。
例えば、会社勤務のサラリーマンが副業として駐車場経営をするような場合は、年間の総所得金額を考慮して法人化のタイミングを検討する必要があります。
相続時の利点が大きい
個人事業として駐車場経営を行った場合、駐車場経営の事業規模や土地の評価額が大きくなると、相続時には多くの税金を徴収されることになります。
そこで、株式会社として駐車場経営法人を設立し、株式を生前に遺族へ分配しておくことで、相続税対策になるのです。
このとき、生前での贈与は贈与税の課税対象になりますが、年間1人あたり110万円までの基礎控除が認められています。そのため、年間110万円以内であれば、非課税で法人株式を遺族に分配することが可能です。
また、駐車場経営においては、相続の対象となる資産が土地であるため、分割しにくいという特徴があり、相続人のあいだでトラブルになるケースも想定できます。しかし、株式にすれば資産を分割しやすくなるので、相続時のトラブル回避に有効な解決策となるでしょう。
経費の範囲が広がる
個人事業として駐車場経営をする場合、家族への給与は事前に税務署への届け出が必要ですが、法人化すれば業務に見合った適正額内の損金を計上することが可能です。家族への所得分散によって、個人所得税額を抑えることができるのです。
また、法人化により損金計上できるものとして、退職金と生命保険料があげられます。個人事業では退職金の損金を計上できないので、法人化の大きなメリットでしょう。
なお、生命保険料は、近年国税庁や金融庁の規制強化により、全額の損金計上は厳しくなっています。しかし、一定額の損金計上が可能な点は、個人事業にはない利点のひとつであることには変わりありません。
活用事例:サイパ西新井宿
エリア | 東京都 |
駐車場経営を法人化するデメリット
ここまで、駐車場経営における個人事業との比較をして、法人化のメリットを説明しました。ここからは、法人化に関わる費用や手間といったデメリットを解説していきます。
法人設立や維持に費用が発生する
駐車場経営に際に検討するべき企業形態として、株式会社と合同会社があげられます。
株式会社の設立は、基本的に司法書士に設立の手続きを依頼します。その際に必要になってくるのが、司法書士の報酬・登録免許税・定款認定の費用などです。相場は約30万円を見込んでおく必要があります。
一方、合同会社では定款認証に係る費用や、登録免許税額が抑えられるため、約10万円で会社設立が可能です。
しかし、合同会社では法人化のメリットであげた、株式分散による相続時の対策が不可能となってしまうため、法人設立後のメリット・デメリットや法人設立の理由、将来の計画などを踏まえて慎重に選択をする必要があります。
また、法人設立後も税務署への書類作成や決算申告のために、顧問税理士を雇う費用がかかります。これらは概算して年間70万円を見越しておくと良いでしょう。
法人設立の初期費用と法人維持のための必要費用を考慮して、法人化のタイミングを検討するべきといえます。
事務作業に時間をとられる
会社を法人として設立すると、毎期ごとに決算を出さなければいけません。
個人事業として駐車場経営している方の中には、白色申告をしている方も多いのではないでしょうか。法人化を行うことで、作業がより複雑化し、事務作業の手間が増えてしまうことがデメリットとしてあげられます。
慣れない複雑な業務を委託しようにも、人件費がかさむため、得策とはいえません。
法人化によるメリットが薄い
駐車場経営は、エリア需要がある大規模の未利用地を所有していれば、大きな収益を上げることが可能です。しかし、駐車場経営を志している多くの方は、比較的小規模な土地や変形地を所有しているのではないでしょうか。
小規模な土地では売上が立ちにくいうえに、駐車場経営はアパートやマンション経営と違い、2階・3階と階層を作っての空間的利用がしにくい土地活用方法のため、利益が薄くなることが考えられます。
また、駐車場の維持管理に係る費用の多くが、あらかじめ決められた項目の範囲内であるため、他の業種と比べても経費として認定される範囲が狭くなってしまうという点が、デメリットとしてあげられます。
法人化によるメリットの多くが、駐車場経営の特徴からすると得策とはならない場合が多くなるでしょう。
\建築費は?初期費用は?/
駐車場経営法人設立の手順
ここまで法人化のメリットとデメリットを説明しました。それでは、実際に駐車場経営を法人化するには、どのような手順が必要なのでしょうか。ここからは法人設立の手順や書類手続きに関して説明します。
法人設立の手続き
法人設立の流れは以下の通りです。
- 株式会社か合同会社かを決める
- 定款の作成
- 銀行口座の開設
- 法務局へ登記
- 個人事業からの転換は廃業届提出
現状の所得金額や事業規模、今後の駐車場事業の展望を考慮して、株式会社か合同会社かを決定します。
先述した通り、合同会社は株式会社に比べ初期費用を抑えられますが、株式の分散による相続時のメリットを享受できないという点を考慮して決定しましょう。
続いて、法人の基本概念をまとめた定款の作成と、法人の銀行口座の作成をします。
定款や銀行口座開設証明と一緒に登記申請書などを作成し、法務局へ法人登記をしてきます。
法人設立は駐車場経営においてあくまで通過点なので、ここで時間をかけることはできません。一連の書類作成や申請の流れが不安な場合は、司法書士に依頼することをおすすめします。
なお、法人登記を申請する際に、これまでに個人事業として駐車場経営を行っていた方は、個人事業の廃業届をしなければならないことを覚えておきましょう。
引継ぎと名義変更を終えると業務開始
個人事業としてすでに駐車場経営を行っていた場合には、各種書類の引継ぎが必要になります。
具体的な名義変更の項目は以下の通りです。
- 事務所
- 通帳
- 光熱費
- ローン
- 保険証
また、駐車場として利用している土地の所有権引継ぎも忘れないようにしましょう。
駐車場の所有権は現在の所有者にしたまま、法人に土地を賃貸借するという形で駐車場経営を行うことも考えられますが、その際も土地の賃貸借登記をしておくことをおすすめします。
理由としては、法人設立者の死亡後に相続の関係で事実関係が曖昧になってしまうと、遺産分割の際に時間がかかってしまうためです。
駐車場経営はビジネスであるという認識を
ここまで、駐車場経営を法人化することのメリット・デメリット、法人化の際の手続きと注意点について解説してきました。
駐車場経営は、アパート・マンション経営やコインランドリー経営などといった他の土地活用方法に比べて、初期費用が抑えられます。
しかし、駐車場経営はビジネスであり、節税対策の手段や余った資産の活用法ではありません。
個人事業として小さく駐車場経営を始めてみる方も、法人化して大規模に駐車場経営を行っていくことを検討されている方も、専門家や経験者の助言を頼りに正しい経営選択を行ってください。
駐車場経営に関してお悩みのある場合、まずは自身で調べて予備知識を理解したうえで、専門家やプロに相談することでより中身のある話し合いができるはずです。
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さらに駐車場経営について知りたい方は以下の記事をご覧ください。