アパートを経営するのであれば、経営についての基本的な知識を少しでも身につけておいたほうがよいのではないかと感じている人もいるでしょう。とくに損益については理解しておかなければ、現状で自分のアパート経営はうまく回っているのかという判断がつけられなくなってしまいます。
アパート経営で重要となるのが損益分岐点の把握です。損益分岐点とは何かわからないという人も多いでしょう。
この記事では損益分岐点の意味からしっかりと解説していきます。そのうえでアパート経営での損益分岐点の捉え方を紹介しますので参考にしてください。
- 損益分岐点とは、損失と利益が同じ金額、つまり利益がゼロになる売り上げ
- または、それ以上を維持し続ける必要のある入居率
- アパート経営は短期では赤字でも長期では黒字の可能性がある
- 損益分岐点を下回らないようにアパート経営を行なうことが重要
- 損益分岐点についての相談はファイナンシャルプランナーや税理士へ
損益分岐点の意味とは
まずは経営における損益分岐点の考え方と意味についてみていきましょう。損益分岐点とは文字通り、損しているのか利益が出ているのかの分かれ目のことです。つまり利益がゼロになる点と考えるとわかりやすいでしょう。
事業で利益を計算する目的は、一定の期間内でどれだけもうけが出ているかを知ることです。利益を計算するには売上高から費用を差し引きます。
たとえば売上高が5,000万円の企業の費用が、3,000万円かかっていれば利益は2,000万円ということになります。経営の大きな目標は、この利益の部分をいかに大きな数字にすることができるかという点です。
アパート経営でも同じことがいえるでしょう。年間の家賃収入が500万円だった場合にランニングコストなどが450万円もかかってしまえば、利益は50万円です。こうなるとあまり利益が出ているとは言いにくい状態となるでしょう。この場合にはいかにランニングコストを下げるかを考えることが必要となってきます。
このように損益分岐点は、利益がゼロになっていないかを判断するための指標でもあるといえるでしょう。
アパート経営の損益分岐点の考え方
アパート経営において損益分岐点を考えて経営を進めることはほかの事業と同様に重要です。ここではアパート経営の損益分岐点の考え方について解説します。
アパート経営の収入と内訳
損益分岐点を考えるうえでは、アパートの収入がどの程度あるのかを把握することが重要となります。単純にトータルの収入を知るのではなく、より具体的に収入の内訳を把握しておくことが必要です。アパートの収入内訳のおおよその実例は次のようになります。
- 家賃
- 共益費
- 礼金
- 駐車場代
- 自動販売機の収入
おおよそこのような収入源があると考えられるでしょう。たとえば8部屋あるアパートで1部屋の家賃が6万円、共益費が5,000円だったと仮定します。この場合の月の家賃と共益費の収入は52万円となります。年間にすると624万円が家賃収入として見込めるということです。
空室があったとしても新たな契約が決まれば礼金が入ってきます。1部屋10万円の礼金だとすれば2部屋契約が決まれば20万円が収入となり、引き続き家賃収入も入ってくることになります。
このようにまずはアパート経営の収入を細かく計算してみることが損益分岐点を考えるうえで必要が工程となります。
アパート経営にかかる費用と内訳
次に考えるのはアパート経営にかかる費用です。つまり支出の部分ということになります。収入と同様に支出についてもしっかりと内訳を把握することが大切です。アパートの支出内訳のおおよその実例は次のようになります。
- 共有部分の光熱費
- 清掃費
- 管理会社への手数料
- 修繕積立金
- 火災保険料
- 地震保険料
- ハウスクリーニング費用
- 仲介手数料
おおよその支出はこのようになります。共有部分の光熱費については月額で5,000~1万円程度が相場です。清掃に関しては自分で行えばさほど費用はかかりませんが、人を雇えば人件費が発生します。管理会社への管理手数料は相場では家賃の7%×部屋数で計算されます。
修繕費用の積立金もそれぞれの経営状況に応じて変動しますが、10~20年に1度の大規模修繕で300万円程度の費用が相場とされていることから逆算して月に2万~3万円程度を積み立てられるとよいでしょう。
保険料はアパートを建築した際にまとめて10年分などを支払ってしまうことも可能です。まとめて支払うと保険料の割引があるケースもあるため事前に確認してみましょう。
ハウスクリーニングは原状回復のための費用です。入居者がどの程度の期間生活していたかやその人の生活スタイルによって修復の度合いが変わるためこの費用も変動しますが、おおよそ5万円程度が相場とされています。
仲介手数料については、入居者を紹介してもらった不動産会社への成功報酬となります。一般的には家賃1カ月分が相場です。
このようにみていくとアパート経営の月の支出の概算は、高めに見積もって10万円程度となるでしょう。保険料はまとめて支払ったと仮定しています。
これにプラスしてイレギュラーで仲介手数料やハウスクリーニング費用が発生すると考えておきましょう。
アパート経営の入居率と損益分岐点
それでは最初に提示した8部屋あるアパートで1部屋の家賃が6万円、共益費が5,000円のアパート経営を想定して実際の空室率と損益分岐点の関係についてみていきましょう。毎月の諸費用10万円にローンの返済額を30万円、この条件で損益分岐点を計算します。
損益分岐点=(10万円+30万円)÷52万円=0.769…
つまり約77%以上の入居率を維持しなければ、このアパートは赤字になるということになります。
アパート経営を始める可能性が出てきたら、複数の企業にプランを提案してもらうのがおすすめです。
なぜなら、アパート経営は建築費の見積もりや賃料設定など経営プランによって収益が1,000万円以上変わることもあるからです。
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アパート経営の損益分岐点は長期的な視点で考える
アパート経営で損益分岐点を考えておくことの重要性は解説しました。ここから注目したいのは損益分岐点をどのように捉えていくかという視点です。アパート経営は長期にわたる経営になることが見込まれる事業になります。そのため損益分岐点についても長期的な視点で考える必要があります。
アパート経営の損益分岐点を長期的な視点で考えることについて具体的に解説します。
短期では赤字でも長期では黒字の可能性
アパート経営をしていると突発的な支出が発生することもあります。急な設備の不具合などで修繕費用が必要になるケースもその一例です。このように突発的に大きな支出が発生した場合には短期的に赤字に転じることがあります。
赤字になったからといってアパート経営が瞬時に傾くということはほとんどありません。これまで積み重ねてきた利益の合計で考えれば黒字になることが多いため、赤字=経営破綻と考えることはないでしょう。
アパートを売却するとトータルの収支がプラス
アパート経営がなんとなく軌道から外れはじめたら売却も視野に入れた経営をしていくことも必要となってきます。場合によってはキャピタルゲイン目的でアパートを購入するというケースもあるでしょう。ただ、長期的にアパート経営をしたいと希望していてもうまくいかないこともあります。
この場合にアパートを売却するとマイナスになるイメージが強いでしょう。アパートの売却額が購入時の価格よりも下がっていればなおさら損をした感覚が残るものです。ただし価格は下がってもまとまったお金が手に入ることに変わりはありません。
さらにこれまでの利益と売却代金を合計すると投資額よりも増えている可能性は十分にあります。そのため目先の金額だけにとらわれずにトータルでの利益を計算してみることも大切です。
ローン完済後なら短期でも赤字リスクは下がる
損益分岐点を計算して赤字になったからといって即経営が立ち行かなくなるということは少ないでしょう。アパート経営では会計上の損益とキャッシュフローは異なることが多いと理解しておくことも必要です。実際に確定申告の書類上では黒字なのに手元には資金がなく仕方なくアパートを売却するというケースもあります。
これは借入金の元本返済が大きく影響しているといえるでしょう。確定申告の場合は収入から経費を差し引いて、さらに減価償却を行って税額を導き出します。ローンの元本返済はこれらにかかる税金を支払って残ったお金から行われます。
もしも税金を支払ったあとの手元に残った現金が元本返済額よりも少なかった場合にはローンの支払いが滞ってしまう可能性が高くなるということです。こうしたキャッシュフローのマイナスが続くことで経営が苦しくなり、売却せざるを得ない状況になるということもあります。
これがローン完済後であれば短期であっても赤字のリスクは下がります。アパート経営がなんとか継続できる状態であればいつかはローンが完済できるため、支出が大きく減少して損益分岐点が改善されると考えることができるでしょう。
損益分岐点を下回らないアパート経営のポイント
最終的には売却することも視野に入れるということを解説しました。しかしながらできるだけ長くアパート経営を続けていけるほうが利益が大きいことは確かです。できるだけ損益分岐点を下回らないようにアパートを経営するためにはどのような点に着目すればよいのでしょうか。
損益分岐点を下回らないアパート経営のポイントについて解説します。
アパートローンの返済比率を下げる
まずはアパートローンの返済比率を下げるということに着目してみましょう。返済比率は家賃収入に対するローンの返済割合のことです。一般的に返済比率は50%を基準に考えるとされています。返済比率が50%を上回るとローン返済が難しくなる可能性が高くなるということです。
さらにキャッシュフローが悪化すれば返済が苦しくなることがほぼ確定となります。返済比率を下げるには借入当初の段階で頭金を入れておくことです。返済比率の悪化が長く続くとローン返済が滞り、経営破綻という結果を招くことも理解しておきましょう。
必要最低限の管理だけ業者へ委託
アパート経営は副業として行う人も多いため管理業務を管理業者に委託するケースも少なくありません。管理業者は基本的に請け負う業務の量で費用が決まります。そのため管理費用を安くするためには依頼する業務を必要最低限に絞り込むということも重要です。
管理会社は全国にいくつも存在しています。そのため契約を結ぶ前に複数の業者から見積もりを取って業務内容や費用を比較してみましょう。必要最低限の業務をできるだけ安く請けてくれる業者をみつけることも損益分岐点を下回る経営をするために必要なポイントです。
空室ができにくいアパートを経営
損益分岐点にも関わることですが、アパート経営の基本中の基本ともいえるのがニーズのあるアパートを経営するということです。ニーズがあるということは競争率が高く空室になりにくい物件ということになります。
具体的には入居者ターゲットをしっかり絞って、募集広告を打ち出すなど募集資料の見直しも重要です。何年も前の広告をずっと使っているようではなかなか空室が埋まらないかもしれません。今のニーズにあったアピールができているかを再チェックしてみましょう。
入居者にとってメリットが大きい物件にするというのもひとつです。たとえば人気の設備が備え付けてあるということもひとつになります。宅配ボックスやWi-Fi環境などは最近のアパートでは必須条件ともいえるでしょう。さらに入居時の負担金が少ないというのも魅力のひとつとなります。
競合物件がどのような条件を出しているのかをリサーチすることも重要です。ファミリー向けのアパートであればアパートだけでなく戸建ての賃貸物件も競合となるためリサーチしてみましょう。いかに空室の期間を少なくするかを考えることで損益分岐点を下回る経営をすることができるでしょう。
将来は複数棟のアパート経営
損益分岐点を下回る経営をするためには長期的かつ具体的なプランを立てることも必要です。将来的に複数棟のアパート経営を行うことを検討してみるというのもひとつの方法になります。複数棟のアパートを経営することで空室や災害のリスクが分散されます。
さらに経営が順調にいけば資金に余裕が生まれやすくなるため可能性があるのであれば複数棟の経営も検討してみましょう。
家賃滞納は早期に解消
損益分岐点を下回る原因のひとつが家賃の滞納です。家賃を滞納されると収入が減るだけでなく、入居者と交渉するためにさまざまな手続きを踏むための費用がかかってきます。さらにはいつまでも滞納状態で居座られると新規の入居者を獲得する機会を逃してしまうことにもなるでしょう。
できるだけ早いタイミングで強制退去の実行までこぎ着けられるようにスムーズな手続きを行うことが大切です。さらには契約の段階で家賃滞納の要因となりそうな点を排除しておくことも問題解決のためには必要となります。
家賃を自動引き落としにしたりクレジットカード払いにしたり保証人をつけたりすることでできるだけ自動で家賃を回収できるシステムを採用しておくことも経営者としてとっておきたい対策です。
アパート経営を始めようか考えたとき、どのようにアパートを設計すればいいのか見当がつかないのではないでしょうか。
例えば2階建てにするか3階建てにするか、間取りの設計をどうするかについては土地の条件やアパート経営の目的によって変わります。
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アパート経営の継続のためにやるべきこと
できるだけ長くアパート経営を続けていくためにやっておきたいことが2点あります。継続さえできればローンを完済でき、その後のキャッシュフローが徐々に改善することにも期待が持てるでしょう。そのためにもアパート経営を継続するためにやっておきたいことを具体的に理解しておきましょう。
アパート経営の運転資金の確保
アパート経営では毎月まとまった家賃収入が入るためなんとかなるだろうと自転車操業をしてしまうケースも少なくありません。このようなことをしていると急な出費が発生した場合に対応できないなどの問題が発生することになります。
収入がトータルでプラスになっていたとしても、ローンの返済や管理費などが支払えなくなると経営を続けることはできません。アパート経営を長く継続するためには、毎月の家賃収入からしっかりと運転資金を蓄えておく癖をつけておくことが大切です。
赤字になっても確定申告を提出
アパート経営では確定申告は必須です。とはいえ利益が20万円以下になった場合には確定申告の義務はありません。もしも経営が赤字になってしまった場合、大半の人が申告をしない可能性があります。ただ、赤字でも確定申告をすることで損益通算を利用することができるため、節税対策のためにも赤字でも確定申告は行いましょう。
損益通算とはアパート経営以外に給与所得などがある人が利用できるものです。アパート経営で生じた赤字を給与所得にぶつけることで課税所得を少なく申告することができます。こうすれば必要以上に支払った税金を取り戻すことも可能です。
アパート経営の損益分岐点で気になる疑問
損益分岐点という言葉だけを聞くとなんだか難しいイメージを持つ人も少なくないでしょう。言葉の雰囲気だけでハードルが高く感じてしまう場合には自分だけで考えずに専門家などに相談しながら経営を進めていくというのも成功のコツです。
ここでは協力者とともにアパート経営をしていくためにポイントとなる部分について解説します。アパート経営の損益分岐点でよくある疑問でもあるため参考にしてください。
損益分岐点の相談は誰にしたらよいか
損益分岐点について自分だけで判断することが難しい場合、誰に相談することがよいとされているのでしょうか。
資金計画の段階であればファイナンシャルプランナーがおすすめです。アパート経営のことだけでなくライフプランも絡めた長期的な資金計画を立てておくことで安定したアパート経営を継続することができるでしょう。
損益分岐点がすでに下回った状態であるならば金融機関に相談するのもひとつです。損益分岐点を改善するために融資を受けて経営を立て直すことを考えましょう。金融機関で今後の資金繰りについてしっかりと相談して早めに損益分岐点を改善することでアパート経営を継続していくことができます。
確定申告などのタイミングで損益分岐点について相談したいなら税理士がおすすめです。税金を計算するうえでも損益分岐点は重要な要素となります。すでに赤字になっている場合などでも損益通算を利用するなどの知恵をもらうことができるでしょう。
このように損益分岐点ひとつとっても相談先は複数にわたります。今、自分にとって1番の問題はなにかをしっかりと明確にしたうえで相談先を決めることも大切です。
サブリースなら損益分岐点を下回らないか
損益分岐点を下回らない経営をするためには空室リスクや家賃滞納問題をなるべく抱えない、抱えても早期に解決するということが求められます。そのためにサブリースを利用することを検討するケースもあるでしょう。
サブリースであれば空室リスクや家賃滞納問題を抱えることがないため損益分岐点を下回ることはないように思えます。ただし、サブリースにもリスクがあることは理解しておきたいポイントです。
契約当初はアパートも新しく入居者も比較的集まりやすい状況であるため問題なく経営が進むでしょう。ただ月日が経過すると入居者も新しいアパートに目移りしたり、周辺環境の変化やライフスタイルの変化でアパートへのニーズ自体が変化したりすることも考えられます。
こうなると契約更新のタイミングでサブリースを請け負っている企業から家賃の値下げ交渉を受けることがあります。多少の値下げには応じられたとしても年々家賃を値下げされてしまうと、ローンの支払いに影響が出ることもあるでしょう。
家賃保証を依頼している以上、要求をむげに断ることもできないという問題もありローンの支払いとサブリース業者との板挟みで苦労する、というリスクがあることは理解しておいたほうがよいでしょう。
つまりサブリースであっても損益分岐点を下回る可能性はあると考えておいたほうがよいということです。
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アパート経営の継続は損益分岐点で判断する
アパート経営は長く継続したほうが得です。そのためにも損益分岐点は常に意識しておくことが大切です。損益分岐点を下回ってしまうと赤字となり経営が苦しくなることになります。
短期的な赤字であればすぐに回復できる見込みがあるでしょう。ただ赤字が長期化すると最悪の場合には経営が悪化してアパートを売却しなければならない事態になることもあります。
アパートの経営がなんとなく不振になってきたなと感じたら、まずは損益分岐点を計算してみましょう。そこから改善の見込みがあるのかどうかを専門家などの意見を参考にしながら考えてみることをおすすめします。
アパート経営を行ううえで専門家とのつながりは重要です。とくに初心者の場合にはわからないことが多いため正しい情報を的確かつ迅速に手に入れることができる環境を整えておくことは重要になります。
そのためにもまずは信頼できる不動産会社とのつながりをつくることも必要です。信頼できる不動産会社を通じてさまざまな専門家を紹介してもらうこともできるからです。
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