アパート経営の相続について考える機会のなかで、相続税の負担が話題になることもあるでしょう。
相続税は累進課税制度をとっているため、相続する財産価格によっては相続税の負担が重くなります。
そこで、本記事では以下のようなテーマについて詳しく解説しています。
- アパート経営は生前贈与すると相続税を節税できる
- 生前贈与時と相続時の相続税シミュレーション
- 生前贈与以外でアパート経営の相続税を減らす方法 etd…
大切な資産であるアパート経営をスムーズに引き継ぐ際の参考となれば幸いです。
アパート経営を個人事業主として始めたい方には、以下の記事もおすすめです。
アパート経営は生前贈与すると相続税を節税できる
アパート経営は資産価値も高い傾向にあるため、相続税の負担が重くなる可能性もあります。
しかし、生前贈与すれば相続税を抑えることができるかもしれません。
本章では、アパート経営を生前贈与することについて詳しく解説します。
生前贈与で相続税の負担を減らせる
アパート経営は、相続ではなく生前贈与することで相続税の負担を減らせる可能性があります。
生前贈与で相続税が節税できるのは、贈与税の課税方法に「暦年課税」と「相続時精算課税」があるからです。
どちらの課税方法を用いるかは自由に決めることができますが、一度取り決めたら後で変更できないので注意しましょう。
この「暦年課税」と「相続時精算課税」について、それぞれ詳しく解説します。
暦年課税
暦年課税とは、1年間の贈与額が110万円以上の場合に贈与税がかかるというものです。
税率は、所得税と同じく累進課税となっています。
ただし、20歳以上の人が直系尊属から贈与を受ける場合は特例贈与となり、一般贈与に比べて低い税率です。
贈与額(基礎控除後) | 特例贈与(特例税率) | 控除額 | 一般贈与(一般税率) | 控除額 |
---|---|---|---|---|
200万円以下 | 10% | なし | 10% | なし |
400万円以下 | 15% | 10万円 | 25% | 25万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 50% | 250万円 |
このように、特例贈与の税率は一般税率に比べて10%低い場合もあります。
参考:[国税庁]:[No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)]
相続時精算課税
相続時精算課税とは、2,500万円以上の場合に贈与税がかかるというものです。超えた部分については、20%の贈与税がかかります。
また、このとき納めた贈与税は相続税額を納める際に相殺します。
たとえば、4,000万円の価値のあるアパートを相続時精算課税で贈与するときの贈与税は300万円です。そして、相続税を計算するときは、相続税額から300万円を引いて計算します。
アパート経営を相続する場合、2,500万円の控除と相続税額と相殺できる相続時生産課税の方が暦年課税よりも節税効果が高いケースが多いでしょう。
生前贈与のメリット
アパート経営を生前贈与するメリットは、以下のように様々なメリットがあります。
- 相続税を節税できる
- 家賃収入を得ることができる
- 親の所得税を減らせる
生前贈与をすれば相続税の節税効果があるということは先述の通りです。
節税効果の他にも、生前贈与を行えば新しい収益源として家賃収入を得ることができます。
また、家賃収入を子に移せば、親の所得税を減らすことにもつながるでしょう。
このように、アパート経営を生前贈与することは所得分散の効果もあります。
生前贈与のデメリット
アパート経営を生前贈与することには、以下のようなデメリットもあります。
- 不動産取得税がかかる
- 登録免許税の税率が2%になる
- 相続人間で不満が出る可能性が高い
アパート経営を生前贈与で取得すると、不動産取得税がかかってしまいます。相続で取得する場合に不動産取得税はかかりません。
また、登録免許税の税率は固定資産税評価額の2%となります。相続の場合は0.4%です。
さらに、生前贈与の場合は一人に贈与することになるので、相続人が複数いる場合は不満が出る可能性が高いでしょう。
贈与では相続と違い相続人全員の同意が必要ありませんが、後々トラブルになることも考えられるので注意が必要です。
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生前贈与時と相続時の相続税シミュレーション
本章では、以下の条件をもとに生前贈与をしたときと相続をしたときの相続税負担額をシミュレーションします。
- アパートの価値:5000万円
- 他の相続財産額:2900万円
なお、相続人は一人、生前贈与の計算においては相続時精算課税を用いることとします。
生前贈与した場合
上記の条件でアパート経営を生前贈与した場合、贈与税は以下のようになります。
- 贈与税=(5,000万円-2,500万円)20%=300万円
2,500万円というのは、相続時精算課税の基礎控除です。つまり、このケースで生前贈与を行ったときの贈与税は300万円となります。
続いて、相続税を計算します。相続税には、3,000万円+600万円×法定相続人の数で求める控除額があります。
例えば、相続人が子供一人なら控除額は3,600万円です。
今回のケースでは、相続税の課税額は以下のように計算します。
- 相続税評価額=5,000万円+2,900万円-3,600万円-300万円=4,000万円
続いて、税率と税率ごとの控除から相続税額を計算します。取得金額が5,000万円以下の場合税率は20%、控除額は200万円です。これを踏まえると、計算式は下記のようになります。
- 相続税=4,000万円×20%-200万円=600万円
つまり、相続税は600万円ということになります。
相続した場合
アパート経営をそのまま相続した場合、 生前贈与による贈与税控除を使うことができません。
そのため、相続税を計算するときは以下のようになります。
- 相続税=4,300万円×20%-200万円=660万円
今回のケースでは、生前贈与で相続時精算課税を用いたほうが60万円ほど相続税を節税できるということになります。
生前贈与以外でアパート経営の相続税を減らす方法
アパート経営は、法人化することで相続税を含め所得税を節税することもできます。
本章では、アパート経営の法人化の基礎知識とそのメリットについて詳しく解説します。
アパート経営の法人化とは
アパート経営は、規模によっては法人化をしたほうが節税効果が高まる場合があります。
法人化の目安は、個人の所得が1,000万円以上となる場合です。
アパート経営の法人化によって、大家は設立した法人から給与をもらうというかたちになります。また、家族を役員とすることができるので、所得を分散させることも可能です。
法人化のメリット
アパート経営を法人化するメリットには、以下のようなものがあります。
- 所得税の節税になる
- 役員報酬を経費にできる
- 遺産分割しやすくなる
- 赤字の繰越期間が10年に伸びる など
アパート経営を法人化すると、法人税が適用となります。そのため、個人の所得が1,000万円超えの場合は法人化することで所得税を8%減すことが可能です。
また、相続税においては、法人登記から3年経過すると株価の評価額を下げることができます。
他にも、家族を役員として報酬を支払った分を経費にできる、赤字の繰り越し期間が3年から10年と大幅に延長させることなどがメリットです。
アパート経営を相続する場合にやること
親からアパートを相続したら、最初に確認しなければならないのがローンの残債です。そして、アパート経営を続けるかを検討し、続けるのならアパートの所有者を決めましょう。アパートの所有者が決まったら、名義変更を行い、直ちに賃借人(入居者)に賃貸人の変更を通知しましょう。
ローンがあるか確認
親が相続税の対策のためにアパートを経営していて、そのアパートを相続した時、はじめに確認しなければならないのがローンの残債です。相続したアパートの経営を続けるかどうかを判断するときに、ローンの残債があれば、収支バランスを見極めるためにも、その金額を把握しておくことが必要です。また、ローンが残っているかどうかで、遺産分割協議での相続人を決める時にも影響します。
また、アパートの経営を相続することになれば、そのローンも相続することになります。したがって、ローンが残っているかどうかは、アパート経営を続けるかを判断するときに大きく影響します。
遺産分割協議で所有者を決める
相続人が複数いる場合、現金だと遺産を分割することは簡単です。しかし、アパートなどの不動産は、きれいに分割することができないため、遺産分割協議でもめることが多くなります。よって、前もって遺言書の有無や、他の遺産を確認しておき、スムーズに所有者を決められるようにしましょう。
所有者を決める際には、兄弟などで共有名義にすることはおすすめできません。なぜなら、複数人で共有名義にすることで、アパートの修繕や売却の際に、すべての名義人から同意を得て押印が必要になり、時間や手間がかかるためです。
また、相続人が決まった際には、すぐにローンの残債のある銀行へ連絡を入れましょう。連絡を入れなければ、ローンも分割して相続することになります。
被相続人から相続人に名義変更する
相続人が決まったら、アパートの名義人を被相続人から相続人に変更する相続登記を行いましょう。新たな相続が相続登記前に発生すると、トラブルの元になるので、名義変更は早めに行うようにします。
例えば、相続人が増えるなどのトラブルが起こることもあります。その後、不動産を売却しようとしても、売却する際に、全員分の実印が必要になるので、手続きに時間がかかり売却のタイミングを逃しかねません。また、相続登記を行わずに所有者が被相続人のままだと、売却や賃貸として貸し出すこともできないため、注意が必要です。
賃借人に連絡する
アパートの名義人が変わった時には、すぐに賃借人に連絡を入れましょう。被相続人が亡くなると、銀行の口座は凍結されます。口座が凍結されることにより、家賃の振り込みなどもできなくなるので、早めに連絡したほうが良いでしょう。
また、大家と賃借人の間にも信頼関係が大切です。大家が変わったことを知らせないと、何か問題が起こった時に、連絡することができなくなるかもしれません。そのようなことが起これば、信頼関係も崩れてしまうでしょう。
アパート経営を続けるか検討する
アパートを相続はしたけれど、経営などは経験がないため、不安を感じている人もいるでしょう。アパート経営にはリスクはつきもので、入居者がいなければもちろん収入は減ります。また、住民間のトラブルが起きれば、それにも対応しなければなりません。
空き室もなく、立地条件の良いアパートなら、経営を続けることも良いかもしれません。しかし、老朽化が進んだアパートや、空き家が目立つアパートであれば、経営に不安を感じることもあるでしょう。そのようなリスクやローンの残債なども考えて、今後アパート経営を続けていくかどうかを検討すると良いでしょう。
アパート経営を相続する際は税金に気をつけよう
アパート経営は、相続する財産のなかでも価値の大きいものであるケースが多いです。
そのため、大きな相続税の負担がかかる可能性もあります。
アパート経営を生前贈与することは、相続税を減らすことの1つにもなりますので、必要に応じて検討するとよいでしょう。
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