自宅兼賃貸住宅の賃貸併用住宅を経営するなら、なにが経費にできるのかを知っておくことが大切です。経費を正しく計上することで、税務上の利益を縮小し、課税される税金を抑えられます。
どこまでの範囲が経費として認められるのかを知っていないと、申告漏れで損をしたり、経費にならないものを申告して追徴課税となったりすることもあるため注意が必要です。経費についての理解を正しく深め、損なく賃貸併用住宅の経営を行いましょう。
まずは賃貸併用住宅を経営することがどのようなことなのか知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
賃貸併用住宅の経費の計上漏れは損失
賃貸併用住宅の経営をするにあたって、経費の計上は節税するための重要なポイントです。経費を正しく計上できないと、税金が高くなって損失が生まれる場合があります。税金面で損をしないためにも、計上漏れのないように経費を計算しましょう。
経費の額で確定申告の納税額が変わる
賃貸併用住宅で年間20万円以上の家賃収入を得ているなら、翌年に確定申告をしなければなりません。家賃収入は不動産所得とみなされ、確定申告をして所得を確定することで税金を納めます。不動産所得の計算式は、次の通りです。
- 総収入金額-必要経費=不動産所得
その1年で得た家賃収入から必要経費を差し引くことで、不動産所得が算出できます。つまり、必要経費の計上漏れがあると、不動産所得が多くなるため、課税対象額が増えて税金が高くなると考えましょう。不動産所得金額ごとの税率の違い(所得税)は、次の通りです。
課税金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
経費を正しく計上していないと、課税金額が上がり、数パーセント税率が上昇することもあるため、計上漏れがあると損失が発生しやすくなります。?
経費は賃貸部分の割合だけ認められる
賃貸併用住宅の場合、確定申告で経費として認められるのは賃貸部分の割合分のみです。例えば賃貸併用住宅のコストとして1,000万円がかかっていたとしても、経費となるのは賃貸部分にかかった金額のみであることは理解しておきましょう。
仮に賃貸部分が50%で1,000万円のコストがあるなら、経費として計上できるのは500万円となります。自宅部分にかかった費用は不動産所得の経費には使えないため、間違えて計上しないように注意が必要です。
税金の払い過ぎは訂正しないと返ってこない
もし確定申告で経費の計算ミスがあって税金を通常より多く支払ったとしても、自身で訂正申告をしなければ超過して支払った分の税金は返ってきません。ミスがあっても自動で返還されるわけではないため、必ず訂正申告が必要です。
また、計算ミスで納税額が不足していた場合は、足りない分を追加で納付する必要があります。追加納税をしていないと、支払っていない分に追徴課税を課せられてしまい、通常よりも税金が高くなってしまうため注意が必要です。
賃貸併用住宅で経費になる10の支出
賃貸併用住宅の経営で経費として計上できる支出は、次の通りです。
- ローン返済額の利息部分
- 賃貸併用住宅の取得や維持にかかる税金
- 賃貸併用住宅にかけている保険料
- 賃貸経営のための管理費
- 賃貸併用住宅を維持するための修繕費
- 入居者を募集するための広告費
- 不動産会社や管理会社との接待交通費
- ライフラインとして水道光熱費・通信料
- 賃貸経営をするための消耗品の購入費
- 経年劣化による価値の減少で減価償却費
これら10種類の支出を正しく計上することで、不動産所得を引き下げて節税ができます。
ローン返済額の利息部分
ローンを組んで賃貸併用住宅を建築している場合は、返済している利息部分が経費として計上できます。元本部分は経費としては認められないため、あくまで利息部分のみが経費となることは覚えておきましょう。
金利や借入額によって利息がいくらかかるかは異なりますが、少しでも節税するために利息の支払い額は年間分で計算してまとめておくことが大切です。
賃貸併用住宅の取得や維持にかかる税金
賃貸併用住宅を取得するにあたって支払った税金や、維持にかかる税金も経費として計上できます。取得や維持にかかる税金としては、次のものがあげられます。
税金の種類 | 税金が発生する理由 |
不動産取得税 | 不動産取得の際に発生 |
相続税 | 相続の際に発生 |
登録免許税 | 登記手続きなどでかかる費用 |
固定資産税 | 不動産の所有で発生 |
また、エリアによっては固定資産税だけではなく、都市計画税がかかることもあります。都市計画税も経費として計上できるため、納付している場合は確定申告時に経費として計算しておきましょう。
賃貸併用住宅の建築費については、以下の記事をご覧ください。
賃貸併用住宅にかけている保険料
賃貸併用住宅に保険をかけている場合は、支払った保険料も経費にできます。保険の種類はさまざまであり、火災保険や地震保険、施設賠償責任保険などがあげられます。
賃貸併用住宅にかける保険は、1年単位の短期のものだけではなく、5年や10年など長期のものもありますが、これらも経費の対象です。5年や10年など、長期間分をまとめて支払っているなら、支払った保険料を期間で割り、1年分の費用を計算して経費計上できます。
賃貸経営のための管理費
賃貸経営をするために支払っている管理費も、経費として申告できます。管理にかかる費用としては、建物の清掃や設備の点検、入居者への対応などでかかるものがあげられます。
賃貸経営に必要な管理費はすべて経費として計上できるため、管理会社に管理を委託している場合は、その委託料も経費にできると考えましょう。
賃貸併用住宅を維持するための修繕費
建物の維持費や修繕費も、経費として申告が可能です。室内や室外の破損、汚れに対する補修や定期的な大規模修繕などにかかった費用は、すべて経費として申告しましょう。また、入居者が退去した際に発生する原状回復費用も、経費として計算できます。
入居者を募集するための広告費
入居者を募集するためには、広告を打ち出したり、宣伝をしたりする必要があります。この際にかかった宣伝広告費も、経費として計上できます。広告やチラシを自分で作成する場合は、そのときにかかった費用だけではなく、ポスティングにかけた費用も経費として計上可能です。
また、不動産会社に入居者の募集を依頼した場合は、宣伝広告にかけた費用が経費となります。不動産会社に依頼すると、入居時に仲介手数料を支払いますが、これも経費に含まれると考えましょう。
不動産会社や管理会社との接待交通費
賃貸経営をするには、不動産会社や管理会社と打ち合わせをすることも多いです。打ち合わせの際にかかった現地までの交通費や、飲食店を利用した場合の費用などは、接待交通費として経費計上ができます。
また、中古物件の下見で交通費が発生した場合も、別途交通費として計上ができるため、領収書はなくさずに保管しておきましょう。
ライフラインとして水道光熱費・通信料
水道光熱費や通信料も、一部経費として計上できます。水道光熱費は共用部分にかかったものだけが経費となるため、自宅部分で支払っている費用は経費にはなりません。
また、通信費にはさまざまな種類がありますが、あくまでも賃貸経営でかかった費用だけが経費となります。
- プロバイダ利用料
- 電話料金
- FAX代金
- 郵便料金
私用のものは経費には含まれず、賃貸経営のために使用したものだけが経費となります。
賃貸経営をするための消耗品の購入費
賃貸経営をするために必要な消耗品の購入費も、経費として申告が可能です。例えば入居者募集のチラシを作成するために購入した用紙代や文房具代、プリンターやそのインク代、パソコンなども消耗品費となります。
ただし、パソコンなど高額なものは、10万円以内のものが消耗品費として計上できることは覚えておきましょう。
経年劣化による価値の減少で減価償却費
建物は経年劣化によって価値が減少するため、その価値減少分を減価償却費として計上できます。例えば賃貸併用住宅を1,000万円で購入したとしても、1年で使い切るわけではないため、購入費をそのまま1年分の経費として計上できるわけではありません。
建物は数年かけて少しずつ使用されるものと考えるため、価値減少分を毎年少しずつ経費にします。減価償却費は購入費用と建物構造によって異なり、構造別の耐用年数をもとに計算します。例えば木造なら22年、木骨モルタル造なら20年、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造なら47年が構造別の耐用年数です。
減価償却費は建物の取得費を耐用年数で割って、1年分の減価償却費を計算します。例えば3,000万円で購入した家なら、木造だと年間約136万円、木骨モルタル造だと150万円、鉄骨鉄筋コンクリート造などだと約63万円が減価償却費となります。
賃貸併用住宅の経費で損をしない3つのコツ
賃貸併用住宅の経費計上で損をしないために、覚えておきたいコツがあります。
- 経費かどうか不明な支出は専門家に相談
- 経費にならないものを把握
- 法人化して賃貸経営
3つのコツを把握して、失敗なく賃貸経営を行いましょう。
経費計上以外でも、賃貸併用住宅における失敗や後悔についてみておくと、転ばぬ先の杖となるでしょう。
経費かどうか不明な支出は専門家に相談
賃貸経営をしていて、経費にできるかどうかわからない支出が出てきた場合は、無理に自己判断せずに専門家に相談しましょう。税務署や税理士、市区町村の役場などで経費にできる支出かは、相談して教えてもらえます。無料で相談できる場合もあるため、不明な支出が出た場合は、積極的に活用するとよいでしょう。
経費にならないものを把握
賢く節税をするには、なにが経費になるのかだけではなく、経費にならない支出がどれかも把握しておくことが大切です。経費にならないものを計上すると、収入の過少申告とみなされて通常よりも高い税率が課せられるペナルティを受けてしまいます。経費にならない支出は次の通りです。
- 私生活に使用するための日用品費
- 交通違反の罰則金
- 家族との旅行費用
- 接待には関係ない二次会の費用
- プライベートでかかった飲食代
どこまでを経費としてよいか判断できない場合は、専門家に相談して正しく仕分けをすることが大切です。
法人化して賃貸経営
より高い節税効果を期待するなら、法人化して賃貸経営をすることも1つの方法です。法人化することで、次のものも経費として計上できるようになります。
- 自宅部分を社宅とした場合の社宅家賃
- 出張の日当
- 社員に支払う退職金
- 生命保険
経費として計上できる範囲が増える分、不動産所得を抑えて節税がしやすくなります。
賃貸併用住宅で経費対策以外で利益を確保する方法
賃貸併用住宅の経営を成功させるには、経費の対策をするだけではなく利益の確保も考えることが大切です。
- 賃貸の需要がある立地に建てる
- 賃貸併用住宅の実績がある会社に建ててもらう
- 住宅ローン控除を受けられる賃貸併用にする
利益が増えるほど収入も増大するため、利益確保の方法も覚えておきましょう。
賃貸の需要がある立地に建てる
利益を確保するには空室をなくすことが大切であるため、賃貸併用住宅は賃貸需要のある立地に建てることが重要です。自身が住みたいと思う理想の立地でも、賃貸向けとは限りません。そのため、自身の理想をかなえつつ、賃貸需要がある立地を選ぶ必要があります。
また、エリアによって単身者が多いか、ファミリーが多いかは異なります。建築する際にはそのエリアでどのターゲット層が多いのかも、事前に調査しておくことが大切です。
単身者が多いならアクセスがよく、通勤や通学に便利な駅から近い立地が好まれます。ファミリー層が多いなら、周辺にスーパーや病院などの生活施設が豊富であり、公園や学校に近い立地が需要を獲得しやすいです。
賃貸併用住宅の実績がある会社に建ててもらう
賃貸併用住宅は通常の賃貸住宅とは異なり、つくりが特殊です。そのため、建築を依頼する会社は賃貸併用住宅の建設に実績があるかを確認しておきましょう。
実績がない会社だと、ノウハウがないためニーズを満たした設計ができない可能性があります。建築の依頼先は複数社で比較し、もっともよいプランを提案した会社に依頼することがおすすめです。
住宅ローン控除を受けられる賃貸併用にする
節税をするには、住宅ローン控除が受けられる賃貸併用住宅を建築することもおすすめです。住宅ローン控除とは、毎年末の住宅ローン残高の1%を所得税控除として受けられる制度であり、上限を40万~50万円として10年間控除が受けられます。
賃貸併用住宅でも住宅ローン控除は適用されますが、受けるには条件を満たさなければなりません。
- 住宅ローン控除を受ける年度分の合計所得が3,000万円以下
- 新築または取得した日から6カ月以内に入居し12月31日まで引き続き居住している
- ローンの返済期間が10年以上
- 住宅の床面積が50平方メートル以上かつ、その2分の1以上が自己居住用
賃貸併用住宅で気をつけなければならないのが、住宅の床面積が50平方メートル以上あり、その2分の1以上が自宅部分となっていることです。
そのため、床面積の条件を満たしていても、賃貸部分が50%超の場合は控除の対象とならないため注意しましょう。
賃貸併用住宅は経費をすべて把握して正確に確定申告
賃貸併用住宅の経営をするなら、経費を正しく把握して、正確に確定申告をすることが大切です。経費の計上漏れがあると、税金が高くなって損失が発生します。
また、経費にならないものを計上してしまうと、追徴課税などペナルティが発生する点にも注意しなければなりません。なにが経費になるかを正しく理解し、漏れなく必要経費を計上して確定申告をすることで、節税効果の高い賃貸併用住宅の経営を目指しましょう。