節税対策として賃貸併用住宅はおすすめであり、特に相続税の負担を引き下げやすいです。不動産は相続税の対象となりますが、通常の自宅と賃貸併用住宅では、課税される税額が異なります。
相続税対策として賃貸併用住宅の建築を考えているなら、税金についての理解を深めておくことが大切です。相続税の基本や節税できる理由を把握し、賃貸併用住宅の税金面での魅力を知っていきましょう。
まずは賃貸併用住宅を経営することがどのようなことなのか知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
不動産にかかる相続税の基本
節税対策を考えるには、不動産にかかる相続税とはどのようなものなのか、基本を知っておくことが大切です。相続税の課税対象となる不動産の種類や税額の計算方法など、知っておくべき知識はさまざまあります。基本を押さえることで、不動産の相続税についての理解を深めやすくなります。
相続税の課税対象になる不動産とは
相続税の課税対象となる不動産は、次の通りです。
- 土地
- 家屋
- 農地
- 山林
住宅や土地だけではなく、農地や山林などを所有している場合は、それらも相続税の課税対象となります。また、不動産だからといって、すべてのものが課税対象になるわけではありません。国や地方公共団体などに寄付をした不動産や墓地などは、課税対象外です。
不動産にかかる相続税の計算方法
相続税には基礎控除があり、相続する遺産の総額から基礎控除を差し引き、残った分に税率をかけて税額を計算します。基礎控除の計算式は、次の通りです。
- 3,000万円+600 万円×法定相続人の数
例えば法定相続人が1人なら3,600万円が、2人なら4,200万円が基礎控除の金額となります。法定相続人の数が多いほど、基礎控除額が上がるため、相続税の負担は少なくなります。
相続税の税率と控除額一覧
相続税にはさまざまな控除があり、基礎控除以外に適用できるものは次の通りです。
控除の種類 | 内容 |
基礎控除 | 3,000万円+600 万円×法定相続人の数=控除額 |
贈与税額控除 | 相続より3年前の生前贈与で支払った贈与税額が控除される |
配偶者控除 | 最大1億6,000万円または法定相続分のどちらか大きいほうの金額を控除 |
未成年控除 | 満20歳になるまでの年数×10万円=控除額 |
障がい者控除 |
|
小規模宅地等の特例 | 相続する宅地の330平方メートルまでの部分の評価額を80%減額 |
各種適用できる控除額を差し引き、残った課税対象の遺産総額に対して税率をかけます。税率は課税対象の遺産総額の金額によって変動します。
課税される遺産総額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超~ | 55% | 7,200万円 |
相続する遺産が多いほど、税率も高くなり、相続税も高額になりやすいことは覚えておきましょう。
賃貸併用住宅が相続税でお得な3つの理由
賃貸併用住宅を建てることで、相続税対策となる理由は次の3つがあげられます。
- 現金より不動産の評価額が低い
- 小規模宅地等の特例で評価額が最大で8割減額
- 将来は相続税がかからない現金が増える
税金面でなぜ得をするのか、その理由を知っていきましょう。
現金より不動産の評価額が低い
不動産は相続時に時価ではなく、相続税評価額で計算します。不動産の評価額は時価の8割程度であり、現金で相続するよりも2割ほど低くなります。
現金は相続する金額がそのまま評価額となるため、相続税は高いです。例えば同じ1,000万円の価値でも、現金なら1,000万円が相続資産となりますが、不動産なら時価の8割でおよそ800万円が相続資産と判断されるため、その差額分相続税で得をします。
小規模宅地等の特例で評価額が最大で8割減額
賃貸併用住宅では、条件を満たすことで小規模宅地等の特例を適用でき、相続税評価額が最大8割減額されます。適用するには、次の条件を満たさなければなりません。
- 相続前から被相続人と生活をともにしていた居住用の宅地であること
- 相続前から被相続人とともに事業用として利用していた事業用地であること
- 相続開始から相続税の申告期間まで相続した宅地を継続して利用すること
上記の条件を満たすことで、330平方メートルまでの土地の評価額が8割減額されるため、大幅に相続税を引き下げられます。
将来は相続税がかからない現金が増える
賃貸併用住宅は相続後も賃貸経営が可能であり、継続して家賃収入を得られます。賃貸物件から得られる家賃収入、つまり現金については相続税は非課税であるため、通常の家を相続するよりも収益性がある分、お得でしょう。
ただし、家賃収入に対しては所得税がかかるため、相続後も経営を続けるなら、利益に応じて所得税や住民税は支払わなければなりません。
相続税以外で賃貸併用住宅を建てるメリット
賃貸併用住宅を建築するメリットは、相続税の対策になるだけではありません。他にもさまざまな税金面でのメリットがあります。
- 条件を満たした戸数分だけ固定資産税の軽減
- 賃貸物件の建設に住宅ローンを適用可能
- 住宅ローン控除で節税もできる
相続税以外のメリットも知り、賃貸併用住宅ならではの税金面での魅力を深掘りしていきましょう。
条件を満たした戸数分だけ固定資産税の軽減
固定資産税には軽減措置があり、土地の上に建物があると、土地にかかる固定資産税が最大6分の1になります。固定資産税の軽減措置は、1戸あたり200平方メートルまでの土地だと固定資産税が6分の1に、それを超える部分だと3分の1に減額されます。
賃貸併用住宅の場合は、複数の部屋があるため、「部屋数×200平方メートル」までの部分の固定資産税が6分の1になるため、同じ敷地面積で住宅を建てるよりも節税効果は高いです。
例えば5戸の賃貸併用住宅なら、合計1,000平方メートルまでの部分が6分の1の軽減措置を受けられるため、広い土地を持っている人は固定資産税の負担を大幅に減らせます。
賃貸物件の建設に住宅ローンを適用可能
賃貸併用住宅では、自宅部分が全体の2分の1以上で、かつ返済期間が10年以上の場合だと住宅ローンを利用できます。通常賃貸物件の建築では住宅ローンは利用できず、不動産投資ローンやアパートローンを利用することになります。
賃貸併用住宅は一定の条件を満たすことで住宅ローンを適用可能な点はメリットです。住宅ローンは不動産投資ローンなどよりも金利が低く、同じ金額を借りても利息が少ないため、返済総額を減らすことができます。
また、事業用のローンだと、年収や勤め先などの個人の属性だけではなく、賃貸経営の経験の有無や物件の収益性などが審査基準になるため、審査が厳しくなることも多いです。
住宅ローンは主に個人の属性や預貯金などで判断されるため、審査も通りやすく、事業用のローンより利用しやすいこともメリットでしょう。
住宅ローン控除で節税もできる
住宅ローンを組んだ場合は、住宅ローン控除で節税ができることも大きなメリットです。住宅ローン控除は、毎年末の住宅ローン残高の最大1%を、所得から控除できる制度です。適用期間が10年と長く、長期にわたって節税できる点が魅力でしょう。
住宅ローン控除を適用するには、次の条件を満たす必要があります。
- 建物の2分の1以上が自宅
- 控除を受ける年の年収が3,000万円以下
- ローンの返済期間が10年以上の契約
賃貸併用住宅では、自宅部分が全体の2分の1以上あるかが大きなポイントとなるため、住宅ローン控除を適用したいなら、賃貸部分の割合を減らすことが大切です。
相続税対策で賃貸併用住宅を建てる5つのデメリット
賃貸併用住宅の建築は相続税対策として有効ですが、デメリットがあることは忘れてはいけません。
- 戸建てや分譲マンションよりローンの滞納リスク
- 自身の理想だけで立地を選べない
- 管理会社を入れても直接クレーム対応が必要
- 入居者が新しい土地活用の障害
- 中古の賃貸併用住宅の需要は低い
メリットだけではなくデメリットも正しく理解して、賃貸併用住宅の建築が自分に合っているかを考えてみましょう。
戸建てや分譲マンションよりローンの滞納リスク
居住用の戸建てや分譲マンションを購入するよりも、賃貸併用住宅はローンを滞納するリスクが高いです。通常の住宅だと、年収の割合や貯金額などを考慮して融資額を決めるため、無理のない返済計画を立てやすいです。
賃貸併用住宅では、年収や貯金だけではなく、賃貸物件から得られる家賃収入も考慮して、融資額を決めます。そのため、想定通りに入居者が確保できず、空室が続いて家賃収入がなくなると、ローンの返済が苦しくなりやすいです。
空室リスクは賃貸経営をしている以上続くものであり、常にローン滞納のリスクがつきまとうことは理解しておきましょう。
自身の理想だけで立地を選べない
入居者を確保するには賃貸需要のあるエリアを選ぶ必要があり、自分が住みたいと思う理想の立地を選べない場合があります。自分が快適に住める立地でも、賃貸需要がなかったり、入居者が快適に暮らせない環境だったりすると、家賃収入を見込みづらくなります。
そのため、賃貸経営を成功させるには、賃貸需要の有無を調査し、利益を得られる立地でかつ自身の納得できる場所を探すことが大切です。
自分の希望だけで立地を決めてしまうと、賃貸経営に失敗して損失が出てしまうリスクがあるため、立地選びは慎重に行わなければなりません。
管理会社を入れても直接クレーム対応が必要
住宅管理を管理会社に依頼していても、入居者から直接クレームを言われ、その対応をしなければならないこともあります。賃貸併用住宅は入居者とオーナーの距離が近く、すぐそばに住んでいるために直接クレームを言いにくる人もいるでしょう。
クレーム対応は入居者を逃さないための重要なものであり、トラブルが発生したなら相談に乗り、後日管理会社に連絡して対処してもらうことが大切です。
入居者が新しい土地活用の障害
将来的に別の活用方法に転用を考えたときに、入居者が障害となってしまうこともあります。例えば建物が老朽化して資産価値が低下し、賃貸需要が減ってきたとします。このときオーナーが解体して更地にしてから別の土地活用を考えていたとしても、入居者がいるなら追い出すことはできません。
基本的には入居者が自身の意思で退去するのを待ってから、別の方法への転用となるため、入居者が居続ける限り、いつまでも次の土地活用ができないこともあります。
将来的に別の方法に転用を考えているなら、契約時に普通借家契約ではなく、定期借家契約を結んでおくことがおすすめです。普通借家契約は契約期間を1年以上とし、入居者の意思によって更新が可能です。
しかし、定期借家契約は契約期間を自由に定めることができ、満了時に契約の更新はありません。そのため、期間を決めて賃貸経営をできるため、将来的な転用を考えているなら、定期借家契約で入居者を募集するとよいでしょう。
中古の賃貸併用住宅の需要は低い
建物の劣化で賃貸需要が減少してきたとしても、中古の賃貸併用住宅は売却が難しいです。賃貸併用住宅は自宅と賃貸両方の性質を持ち合わせているため、ニーズが限定的になります。
例えば不動産投資をしたい人にとっては、賃貸併用住宅は自宅部分が収益性低下の原因となり、避けられやすいです。また、マイホームが欲しい人は賃貸部分が不要となるため、売却に時間がかかったり、売却そのものができなかったりするリスクがあることは覚えておきましょう。
「今持っている不動産を現金化したい」という方は、売却という形で手放すという選択肢もあります。一括査定サイト「イエウール」を使えば、無料で最大6社から査定を受けられるので高く売ってくれそうな会社が分かります。
賃貸併用住宅で税金対策をするときの注意点
税金の負担を抑えるには税金対策をすることが重要ですが、節税を考える際には注意したいポイントがいくつかあります。
- 確定申告は正確にしないと罰則
- 賃貸併用住宅の初期費用で多額の税金
- 賃貸経営が赤字でも損をしないため確定申告
節税時の注意点を理解し、失敗なく税金対策を行いましょう。
確定申告は正確にしないと罰則
年間20万円以上の家賃収入があるなら、確定申告は必須です。確定申告は収入や経費を正確に計上する必要があり、間違えて過少申告すると延滞税や無申告加算税、場合によっては重加算税などのペナルティがあります。
罰則を受けると、通常よりも高い税率で税金を納付しなければなりません。また、計算間違いで多く払いすぎた場合でも、自身で修正申告しなければ還付はされないため、この点にも注意が必要です。
賃貸併用住宅の初期費用で多額の税金
賃貸併用住宅を建築するには、登録免許税や不動産取得税、印紙税などの税金がかかります。登録免許税は所有権の保存や移転登記のためにかかる費用であり、税率は次の通りです。
登記内容 | 必要な理由 | 本則税率 |
建物の所有権保存登記 | 新築住宅の所有権を設定するため | 不動産価額の0.4% |
建物の所有権移転登記 | 購入した家の所有権を移動するため | 不動産価額の2% |
土地の所有権移転登記 | 購入した土地の所有権を移動するため | 不動産価額の2% |
ローンの抵当権設定登記 | 担保となる不動産に抵当権を設定するため | 借入額の0.1% |
土地の所有権移転登記は、2023年3月31日までの取引だと軽減税率が適用されます。そのため、不動産価額の1.5%で計算して登録免許税の計算が可能です。
不動産取得税は不動産取得時に支払う税金であり、土地と住宅は固定資産税評価額の3%、非住宅の家屋だと4%が不動産取得税額です。
また、2024年3月31日までの取引だと、固定資産税評価額を2分の1にして計算できます。不動産取得税には免税点があり、固定資産税評価額によっては非課税となります。
項目 | 免税点 |
土地 | 10万円 |
家屋 | 23万円 |
その他売買などで取得した不動産 | 12万円 |
印紙税は売買契約書や建築請負契約書を作成する際の、収入印紙の費用です。契約書に記載する契約金額によって、費用は変動します。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 | 60,000円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
印紙税にも軽減税率があり、2022年3月31日までの取引なら軽減税率が適用されます。
賃貸経営が赤字でも損をしないため確定申告
年間の収入が20万円以下なら確定申告は不要であり、損失が出ている場合も必須ではありません。しかし、赤字が出ているなら、確定申告をして損益通算をすることで、節税につながることがあります。
損益通算とは、賃貸経営で出た損失を別の所得から差し引いて控除するものです。つまり、赤字分が他の所得から控除されるため、所得税や住民税を節税できます。
損益通算は損失が発生しているからといって、自動で適用されるものではないため、必ず自身で確定申告が必要です。
賃貸併用住宅は相続税の節税目的だけで建てるのは危険
賃貸併用住宅には相続税の節税効果がありますが、それだけで建築するのは危険です。賃貸併用住宅の建築や経営にはさまざまなリスクやデメリットがあるため、これらを把握した上で、建築するかどうかを考える必要があります。
上手に経営することで、家賃収入を得ることができ、かつ複数の税金も節税できます。相続税だけではなく、その他税金や収支のバランスなども考え、リスクヘッジを行った上で賃貸併用住宅の経営に臨みましょう。
また、賃貸併用住宅のについて他に知りたいことがある方は、以下の記事を参考にしてみてください。