マンションの購入は人生における一大イベントのひとつであり、マンションを購入した後は満足感や充足感で満たされているかもしれません。しかし手続きや制度の観点からすると、マンション購入後に「確定申告」を行うまでがひとつの流れであるため、忘れないように注意しましょう。
本記事では、マンション購入後に確定申告が必須な理由や確定申告時に必要な書類、確定申告時の注意点などについて解説します。最後には確定申告に関するよくある質問もまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
マンション購入後は確定申告が必要?不要?
マンション購入後の確定申告は必須ではありませんが、住宅ローン控除を受ける場合は申告の必要があります。そのため、マンション購入者のほとんどは確定申告を行うこととなります。住宅ローン控除の節税効果はとても大きいので、特に事情がなければ確定申告は行うようにしましょう。
マンション購入後の確定申告が必要な「住宅ローン控除」
マンションを購入する場合は住宅ローンを利用することが多いです。その場合、一定の要件を満たすことで所得税の控除を受けられる制度が設けられています。正式名称は「住宅借入金等特別控除」という制度ですが、一般的には「住宅ローン控除」の通称でよく知られています。ただし、住宅ローンを利用してマンションを購入しただけで住宅ローン控除の恩恵を受けられるわけではなく、必ず確定申告をしなければなりません。会社員の方は副業等をしていない限り確定申告をする機会はあまりありませんが、マンションを購入した後は必ず確定申告を行って、住宅ローン控除の恩恵を受けるようにしましょう。
参考までに令和3年度税制改正後の住宅ローン控除の概要をまとめると下図のとおりです。
引用元:国税庁
マンション購入の住宅ローン控除額
住宅ローン控除では、マンションを購入後、最長13年にわたり年末残高の0.7%分が減税となります。借入限度額は新築マンションで最大5,000万円、中古マンションで最大2,000万円ですが、控除の詳細は購入するマンションやローンの借入方法などによって変わってきます。
自分の住宅ローンの控除内容がわからない場合は、不動産会社の担当者などに確認を取ってみると良いでしょう。
マンション購入で住宅ローン控除が適用される要件
住宅ローン控除とは、年末時点のローン残高に応じて所得税の控除を受けられる制度で、控除額は原則として以下の式で計算されます。住宅ローン控除額=住宅ローンの年末残高(原則として上限4,000万円)×控除率(1%)
つまり、最大で1年あたり40万円の所得税が控除されることになります(認定長期優良住宅などの特別な要件を満たしている場合は最大で1年あたり50万円)。
また、住宅ローン控除を受けるための要件は、購入した物件が新築か中古かによって異なっているので、以下では新築・中古それぞれの物件で満たすべき要件について説明します。
中古マンション購入で住宅ローン控除が適用される要件
中古マンションの場合は新築マンションで満たすべき要件に加えて、「築年数」または「耐震基準」に関しても満たすべき要件が設けられています。築年数または耐震基準に関して満たすべき要件は、それぞれ以下の通りです。
【築年数】
- 耐火建築物の場合、築25年以内であること
- 耐火建築物ではない場合、築20年以内であること
【耐震基準】
- 耐震基準適合証明書を取得した住宅であること
- 既存住宅性能評価において耐震等級1以上が確認された住宅であること
- 既存住宅売買瑕疵担保責任保険に加入している住宅であること
※(築年数の条件を満たしていない場合は上記いずれかを満たす必要がります)
中古マンションを購入する場合には、住宅ローン控除の適用対象であるかどうかを慎重に判断する必要があります。
新築マンション購入で住宅ローン控除が適用される要件
新築マンション購入で住宅ローン控除が適用される要件は以下のとおりです。- 登記簿記載の新築・取得の日付から6ヵ月以内に入居していること
- 住宅ローン控除の適用を受ける各年の12月31日まで引き続き居住していること
- 住宅ローン等の返済期間が10年以上であること
- 登記簿記載の家屋の床面積が50㎡以上であり、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住用に利用すること
- 住宅ローン控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること
- 民間の金融機関や独立行政法人住宅金融支援機構などの住宅ローン等を利用していること
家屋の床面積に関しては、売買契約書に記載されている数値と登記簿に記載されている数値が異なることがありますが、住宅ローン控除が適用されるかどうかは登記簿記載の数値によって決まります。
また、金融機関ではなく勤務先や親族・知人などから借入を行って住宅を購入するようなケースもありますが、親族や知人などからの借入は住宅ローン控除の対象とはなりません。
勤務先からの借入の場合も、無利子または利率が0.2%に満たない場合は、住宅ローン控除の対象とはなりませんので注意しましょう。
マンション購入で確定申告する時の必要書類
マンション購入後に確定申告を行って住宅ローン控除を受けるために必要な書類は以下の通りです。- 確定申告書
- 源泉徴収票
- マイナンバーが分かる書類のコピー
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
- 住宅の登記事項証明書
- 住宅の不動産売買契約書や工事請負契約書の写し
- 特例要件を証明するための書類
この章では各書類について詳しく解説していきます。
確定申告書
確定申告書には簡易版のAと汎用版のBがありますが、会社員の方であれば原則としてAを選ぶことになります。確定申告書は税務署で入手する、郵送で取り寄せる、税務署のホームページでダウンロードするといった形で入手することができます。
源泉徴収票
所得金額の証明に加えて源泉徴収された所得税を把握するうえでも、確定申告を行う年の源泉徴収票が必要です。会社員の方であれば12月末から翌年1月頃にかけて勤務先で発行されますし、紛失してしまった場合でも再発行してもらうことができます。
マイナンバーが分かる書類のコピー
マイナンバーが分かる書類に関しては、マイナンバーカード(個人番号カード)があれば表裏両面のコピーでよいです。マイナンバーカードがない場合は通知カードのコピーに加えて、運転免許証やパスポートといった本人確認書類のコピーも併せて提出する必要があります。マイナンバーカードの代わりとして、マイナンバーの記載された住民票と、運転免許証やパスポートといった本人確認書類のコピーを利用することも可能です。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書は、住宅ローン控除の適用を受けるための申請書のような役割を担う重要な書類です。売買契約書や登記事項証明書等を元にして、必要事項を記入し控除額を計算しましょう。
確定申告書と同様に、税務署で入手する、郵送で取り寄せる、税務署のホームページでダウンロードするといった形で入手することができます。
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書は、住宅ローンの借入金融機関から発行される年末時点での住宅ローン残高を証明する書類で、住宅ローン控除における控除額の根拠となります。毎年11月~12月頃に金融機関から郵送されますが、届かない場合は金融機関に問い合わせて発行を依頼しましょう。
住宅の登記事項証明書
住宅の登記情報を証明する登記事項証明書も、住宅ローン控除の適用を受けるにあたって必要な書類のひとつです。居住地を管轄している法務局まで出向いて窓口で入手することができるほか、郵送やインターネットでの交付請求を行うこともできます。
住宅の不動産売買契約書や工事請負契約書の写し
土地を売買したり建売住宅を購入したりした場合には不動産売買契約書、注文住宅の建設を行った場合には工事請負契約書の写しを提出する必要があります。それぞれの契約書は自身の手元にあるはずですが、万が一紛失してしまっている場合は、契約をした不動産会社等に連絡をして事情を説明し、コピーを取らせてもらうとよいでしょう。
特例要件を証明するための書類
特例要件に該当する例はいくつかありますが、たとえば認定長期優良住宅や低炭素建築物としての特例を受ける場合は、「認定通知書」「住宅用家屋証明書」「建築証明書」のいずれかを提出する必要があります。各要件で必要となる書類は異なるので、それぞれで必要な書類を確認したうえで用意しましょう。特例要件に該当していない場合は、用意する必要はありません。
マンション購入後の確定申告の手順
会社員の方はこれまでに確定申告をしたことがない方が多いので、事前に確定申告の流れをある程度把握しておいたほうがよいでしょう。マンション購入後の確定申告の流れは、おおむね以下の通りです。
- 必要な書類を用意する
- 確定申告書に記入をする
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書に必要事項を記入する
- 確定申告書と必要書類一式を提出する
確定申告に必要な書類を用意する
確定申告を行うためにはもちろん確定申告書が必要ですが、それ以外にも必要な書類は数多くあります。簡単に用意できるものもありますが、用意するのに時間がかかるものもあるので、すべての書類が用意できたことを確認してから、実際の確定申告の手続きに入るとよいでしょう。
確定申告書に必要事項を記入する
確定申告書には簡易版のAと汎用版のBがありますが、副業等を行っていない会社員の方であれば原則として簡易版のAを選べばOKです。確定申告申告書の記入方法は基本的には以下のとおりとなります。【確定申告書の第一表に記載する項目】
- 住所氏名を記入する
- 所得の内訳を記入する
- 所得控除を記入する
- 各税金を記入する
- その他、延納や還付金受取場所を記入する
引用元:国税庁
【確定申告書の第二表に記載する項目】
- 住所氏名を記入する
- 所得の内訳を記入する
- 所得控除を記入する
- 住民税や事業税に関する事項を記入する
引用元:国税庁
詳しい記入方法に関しては、国税庁の「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引」を参考に進めてみてください。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書に記入する
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書に必要事項を記入します。引用元:国税庁
計算方法や記入方法などは明細書で詳しく説明されていますが、それでも分からない場合は税務署の相談窓口などに相談するのがおすすめです。
所轄税務署に確定申告書と必要書類一式を提出する
必要事項の記入が終わったら、基本的にはマンションを購入した翌年の1月1日~3月15日までの間に、確定申告書と必要書類一式を所轄の税務署に提出します。「e-Tax」「郵送」「税務署の窓口への持ち込み」の3通りありますが、いずれの方法で提出しても問題ありません。
マンション購入で確定申告する際の注意点
確定申告は決して簡単な手続きではないので、できればやり直すことなく一度だけで終わらせたいところです。マンション購入後の確定申告での注意点としては、以下のようなことが挙げられます。
- 書類は有効期限内のものを利用する
- 夫婦連帯債務の場合は2人分の書類が必要
- 所得税と住民税の還付方法
- 2年目以降の申請は給与所得者と個人事業主で違う
書類は有効期限内のものを利用する
確定申告に向けて早めに準備を進めることはよいことですが、あまりに早く準備を進めすぎると書類の有効期限が切れてしまう可能性があります。基本的に書類の有効期限は3ヵ月なので、1~2ヵ月前程度を目安にして書類をそろえたり書類への記入を進めたりといった準備を行うとよいでしょう。
夫婦連帯債務の場合は2人分の書類が必要
住宅ローンが夫婦連帯債務の場合は、夫婦ともに住宅ローン控除の申請を行うことが可能ですが、そのためには必要書類をすべて2人分用意する必要があります。夫婦どちらかの添付書類は、源泉徴収票と年末残高等証明書以外はコピーでもかまいません。その場合は添付書類に関して「原本は配偶者○○(配偶者の氏名)の申告書に添付」といったような但し書きを添える必要があることには注意しておきましょう。
所得税と住民税の還付方法
所得税の還付については申告の1ヶ月後に指定口座に振り込まれるのが一般的です。2年目以降は年末調整で行うため12月分の給与と合わせて還付されることになります。そのため、毎月のの給与明細はなくさず保管しおきましょう。一方で住民税については還付されなので注意してください。住民税は所得税で控除しきれなかった分を住民税から控除されます。
2年目以降の申請は給与所得者と個人事業主で違う
2年目以降は、会社員の方であれば税務署から送付されてくる「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」、「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」および、「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を勤務先に提出します。そのため、年末調整で住宅ローン控除の適用を受けることができます。個人事業主の方は毎年確定申告をする必要があります。
マンションを購入したら忘れずに確定申告しよう
マンションの購入は非常に大きな出費を伴うだけに、住宅ローン控除で所得税の控除を受けられるのは、家計の負担を軽くするうえで大きなメリットとなります。住宅ローン控除を受けるためには確定申告の必要があり、会社員の方は手続きなどの流れがイマイチ分からないかもしれませんが、本格的な確定申告を行わなければならないのは、控除を受ける最初の年だけです。
確定申告を行って住宅ローン控除を受けるだけで、数十万円単位で所得税が減るので、マンション購入後には必ず確定申告を行いましょう。
マンション購入後の確定申告に関するよくある質問
最後に、マンション購入後の確定申告に関するよくある質問とその回答を紹介します。
- 確定申告はいつまでにする必要がある?
- 確定申告をするデメリットはある?
- 確定申告を忘れてしまった場合は?
それぞれについて、見ていきましょう。
確定申告はいつまでにする必要がある?
確定申告で住宅ローン控除の申請を行うには、住宅取得の翌年3月15日までに手続きを行う必要があります。また、確定申告は住宅取得翌年の1月4日から申請可能です。
自営業者や個人事業主など、毎年ご自身で確定申告を行う方は、2月16日〜3月15日の期間に確定申告をします。
確定申告をするデメリットはある?
確定申告をするデメリットとしては、申告手続きに手間がかかることが挙げられます。しかし、住宅ローン控除で受けられる節税効果の額はとても大きいので、よほどの理由がない限りは確定申告を行うことをおすすめします。
確定申告を忘れてしまった場合は?
初年度の確定申告を忘れてしまった場合でも、5年以内に申告を行えばさかのぼって還付を受けることが可能です。
5年以上経過すると還付を受けることはできなくなってしまうので、確定申告を忘れたことに気づいた段階で、早急に手続きを行うようにしましょう。