今後大地震が懸念される日本では、耐震対策が注目されることも多いです。建物の耐震対策には、主に免震、耐震、制震の3つがあります。
本記事では、それぞれのメリットやデメリット、地震に強い建物の探し方などを紹介します。
免震・耐震・制震の特徴一覧
免震、耐震、制震の3つの特徴について、以下の表にまとめています。
ダメージの大きさや対策にかかるコストがそれぞれ異なるため、特徴を理解して自分に合った対策を検討してみてください。特徴 | 主なメリット | 主なデメリット | |
免震 | 揺れを直接受けないように設計 | 揺れを構造体がほとんど受けないため、被害が小さくなる | 免振装置が必要となるため高いコストがかかる |
耐震 | 建物の強度によって揺れに耐える | コストを抑えられる | 地震の揺れを建物が直接受けてしまう |
制震 | 制振装置を設置して地震の揺れを吸収して抑制する | 免震構造よりコストが安く、耐震構造より構造体へのダメージが少ない | 耐震構造よりもコストが高く地盤による影響が大きい |
このように、耐震、免震、制震はそれぞれ耐震性能が異なります。ここでは、それぞれの特徴について解説します。
免震とは揺れを直接受けないように設計した工法
免震とは、建物と地盤の間に免震装置を入れ、揺れを直接受けないように設計した工法です。免震層には、積層ゴムやペアリングなどを入れることで揺れを吸収してくれます。つまり、免震装置が代わりに動くことで建物自体の揺れを少なくするわけです。近年免震構造の建築物は増加傾向にあります。日本免震構造協会の「2019年免震制振データ集積結果」よると、2010年のビルの免震建築物棟数は2,500~3,000件でした。[注1]さらに、2018年頃になると4,800件と約2,000件も増加していることがわかります。住宅に関しても急激に棟数が増えていることからも、免震構造に対する需要の高さが伺えます。
[注1] 日本免震構造協会:免震制振データ集積結果https://www.jssi.or.jp/menshin/doc/ms_ss_data.pdf
耐震とは地震の揺れを建物の強度によって耐える工法
耐震とは、地震の揺れを建物の強度によって耐える工法です。ほとんどの木造住宅に適用されており、建物の柱、梁、壁の強度を高めて建物全体で地震の揺れを耐えるように設計しています。柱や梁のサイズを大きくしたり、壁の筋交いの本数を増やしたりして耐震性を上げているのです。最新の建築基準法で建てられる住宅は、必ず耐震等級1をクリアしなければなりません。
なお、耐震等級は2~3まであり、数字が上がるごとに強度は増していきます。等級2は等級1より1.2倍の強さで等級3になると1.5倍の強さを想定して作られているのです。
大地震にも耐える建物にするためには、耐震工法の等級を高くすることが求められます。
制震とは制振装置で地震の揺れを吸収する設計の工法
制振とは、制振装置を設置して地震の揺れを吸収して抑制するように設計されています。ダンパーと呼ばれる部材が地震の揺れを吸収することで、部材への影響を軽減させてくれます。免震構造と比べると、制振構造の棟数はそれほど多ありません。しかし、昔と比べると増加傾向にあり、制振構造に関しても需要は高まっているといえるでしょう。
免震工法のメリット・デメリット
免震工法は積層ゴムやペアリングなどを入れることで揺れを吸収し、建物に揺れが伝わらないように設計した工法です。ここでは、免震工法のメリットやデメリットを紹介します。
免震工法のメリット
免震工法のメリットは、以下の2つです。● 地震による揺れをほとんど受けない
● 構造体へのダメージがもっとも少ない
免震工法のメリットは地震による揺れを構造体がほとんど受けないため、被害が小さくなることです。柱や梁などの損傷が少ないため、ダメージの蓄積も最小限で済みます。
建物の長持ちする面でも優れているので、他の工法に比べてもっとも地震対策に優れた対策であることがわかります。
免震工法のデメリット
免震工法のデメリットは、以下が挙げられます。● 他の工法に比べてコストが高い
● 定期的なメンテナンスが必要となる
● 対応できる業者は少ない
● 台風などの強風で揺れることがある
免震工法は免振装置が必要となるのでコストが高いです。免震装置は設置費用だけでなく、メンテナンスも必要としているため、他の工法に比べて圧倒的にコストが掛かります。
また、対応できる業者が少ないため、トラブルの際に対応が遅くなることも考えられます。
地震による揺れは少ないものの、台風などの強風に弱い点には注意が必要です。風の強い日には、揺れを感じることもあるでしょう。
耐震工法のメリット・デメリット
耐震工法は建物全体で揺れを受けるため、建物全体の強度を高めていることがわかりました。ここでは、耐震工法のメリット、デメリットについて解説します。
耐震工法のメリット
耐震工法のメリットについては以下にまとめてみました。● 他の工法に比べてコストが安い
● 強化したい部分だけ補強できるので効率的
● ハウスメーカーでも対応できる
● 耐震等級によっては大地震にも耐えられる
● 地盤や立地による影響が受けにくい
● 強風でも大きな揺れを感じさせない
耐震工法の一番のメリットはコスト面です。新築の場合、建築基準法により必ず耐震等級1をクリアしています。また、安全性を高めたい箇所だけ、部分的に強化することも可能です。
余裕があれば、耐震等級2か3で設計するのもおすすめです。住宅性能表示基準によると、耐震等級3は数百年に一度起こる地震力の1.5倍以上の力に対して倒壊・崩壊しない程度の強度としています。地震被害の規模を極力小さくするためにも、ぜひ検討してください。
耐震工法のデメリット
耐震工法のデメリットは、以下のとおりです。● 地震による揺れを直接受ける
● 地震によるダメージが蓄積される
● 金物で固定されているので地震のたびに緩んでいく
もっとも大きなデメリットは、地震の揺れを建物が直接受けてしまうことです。構造体が直接地震の揺れを受けるため、柱や梁を損傷する可能性があります。一度破損するとダメージが蓄積されるため、将来的な地震に耐えられなくなる可能性もあります。
制震工法のメリット・デメリット
制振工法は、地震の揺れを建物で受けるのではなく、制振装置が代わりに受けることで揺れを吸収していることがわかりました。ここでは、制震工法のメリットやデメリットについて紹介します。
制震工法のメリット
制震工法のメリットは、以下の4つです。● 免震構造よりもコストが安い
● 耐震構造よりも構造体へのダメージが少ない
● 簡易的なメンテナンスで手間暇かからない
● 台風などの強風を受けにくい
制震工法は、免震構造よりもコストが安く耐震構造より構造体へのダメージが少ないです。また、地震時に免震構造のようにメンテナンスや検査を必要とせずに簡易的なメンテナンスで済むのもメリットといえます。
制震工法のデメリット
制震工法のデメリットには、以下が挙げられます。● 耐震構造よりもコストが高い
● 地盤によっては被害が大きくなる
制震工法のデメリットは耐震構造よりもコストが高く地盤による影響が大きいことです。
制震工法は制振部材が代わりに動くことで、揺れを吸収します。地盤が軟弱だと揺れの吸収ができなくなるので本来の効果が発揮できません。したがって、地盤が心配な土地には向いていないといえるでしょう。
免震・耐震に関する大地震のエピソード
耐震対策は昔起こった大地震を参考に改善されてきました。ここでは、これまで起こった大地震の震度や被害、揺れの特徴について紹介します。
1995年阪神淡路大震災
まずは1995年に起こった阪神淡路大震災です。内陸が震源地となったため、「直下型地震」とも呼ばれています。直下型地震は、横揺れよりも縦揺れが強いことが特徴的です。阪神淡路大震災はマグニチュード7.2を記録しています。消防庁の記録によると全壊104,906棟、半壊144,274棟、一部破損390,506棟もの被害が確認されました。直下型地震は地震による直接的な被害が甚大であることがわかります。[注2][注2]内閣府防災情報のページ:阪神・淡路大震災教訓情報資料集阪神・大震災の概要
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/earthquake/index.html#:~:text=%E5%B9%B3%E6%88%907%E5%B9%B41%E6%9C%88,%E6%9C%89%E6%84%9F%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82
2011年東日本大震災
次に起こった大地震は2011年に起きた東日本大震災です。海洋が震源地となるため、「海溝型地震」と呼ばれています。縦揺れの直下型地震とは違い、大きな横揺れが特徴的です。東日本大震災は震度9.0を記録しており、多数の建物に甚大な被害をもたらしました。消防庁の記録によると全壊129,391棟、半壊265,096棟、一部破損743,298棟もの被害が確認されています。[注3]
東日本大震災では、旧耐震基準の建物の倒壊が多く確認されています。一方で、新耐震基準の建築物の倒壊はほとんど確認されませんでした。新耐震基準が採用されて20年近く経っていますが、いまだに耐震補強が間に合っていない住宅も多いことがわかります。
[注3]消防庁消防研究センター:物的被害の状況https://www.fdma.go.jp/disaster/higashinihon/item/higashinihon001_13_03-03-01.pdf
2016年熊本地震
2016年に起きた熊本大地震も震源地が海洋となるので「海溝型地震」になります。しかし、熊本地震は東日本大震災と違って2日間にわたって震度7の揺れが発生しました。熊本大地震の被害は全壊8,298棟、半壊31,249棟、一部破損141,826棟と他の大地震に比べると少ないです。以前の大地震と比べると被害数が減っていることからも、地震に強い建物が増えていることが伺えます。[注4][注4]総務省消防庁:熊本地震の被害と対応
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/h28/items/special1.pdf
今後想定される大地震
政府の防災情報では、想定される大地震について紹介していました。以下に30年以内に70%以上の確率で起こる大地震についてまとめています。[注5]首都直下型地震 | ・関東域で想定されているM7クラスの直下型地震 ・30年以内に発生する可能性が70%といわれている |
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南海トラフ地震 | ・東海地域から西日本全域にかけて想定されているM8~M9クラスの海溝型地震 ・30年以内に起こる可能性が70%といわれている |
日本は今後30年以内に、2つの大地震が想定されています。南海トラフ地震が起こった場合、死者・行方不明者数が約32.3万人、住宅全壊戸数が238.6万棟もの被害が想定されています。東日本大震災と比べると、予想される死者・行方不明者数は約14倍、住宅全壊戸数は約20倍です。
日本において、今後大地震が起きた際は、甚大な被害が想定されています。早急な耐震補強が必要といえるでしょう。
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/hokenkyousai/jishin.html
免震・耐震・制震の建物の選び方
地震に強い建物の選び方のポイントは、以下の3つです。● 免震構造を選ぶ
● 耐震構造+制震構造を組み合わせる
● 新耐震基準を採用した建物を選ぶ
それぞれについて、詳しく解説します。
免震構造を選ぶ
免震構造は、他の構造に比べてもっとも地震に強いです。免震構造は耐震構造に比べて地震の揺れを1/3に減らすことができます。多数の建物に甚大な被害をもたらした東日本大震災や熊本地震でも、大きな被害はありませんでした。コスト面の余裕があれば、ぜひ検討しましょう。
耐震構造+制震構造を組み合わせる
耐震構造と制震構造を組み合わせた構造もおすすめです。建物の強度が強くなるだけでなく、揺れも吸収することができます。大地震が起きた際も、耐えられる可能性が高まるでしょう。新耐震基準を採用した建物を選ぶ
中古の建物を購入する際は、必ず新耐震基準を採用していることを確認しましょう。新耐震基準は震度6~7を想定しています。旧耐震基準では、震度5までしか想定されていないため、注意が必要です。
免震・耐震・制震のメリット・デメリットを抑えて地震に備えよう
今回は免震・耐震・制震の違いやそれぞれのメリット・デメリットを紹介しました。今後想定される大地震に備えるのであれば、免震構造の建物が望ましいといえるでしょう。ただし、免振装置は高コストで設置後のメンテナンスも必要です。
また、耐震構造と制震構造を組み合わせることでも、低コストで強度の強い建物にすることができます。
免震、耐震、制震のメリットやデメリットを把握して、最適な耐震対策を行いましょう。