アパート経営をしている人は修繕費に関して頭に入れておく必要があります。
本記事ではアパート経営で必要な修繕費と具体的な修繕箇所に加え、来るべき大規模修繕への備えについても紹介します。
アパートの修繕費と具体的な修繕箇所
修繕の種類 | 費用目安 | 修繕時期 | 具体的な修繕箇所 |
原状回復 | 数万円~20万円 | 住居人の退去時 | ・壁紙・フローリングの張替え ・ハウスクリーニング |
老朽予防の修繕 | 数万円~数十万円 | 3年に1回程度 | ・シロアリの点検・駆除 ・外壁の劣化調査 ・耐震調査 |
大規模修繕 | 数百万~数千万 | 15年に1回程度 | ・外壁の塗装 ・柱補強工事 ・給排水管の清掃や交換 ・防水工事 ・駐車場やフェンスなどの外構 |
破損個所の修繕 | 数万~数十万 | 破損や災害に応じて | ・エアコンの修理交換 ・キッチンの修理交換 ・浴槽の修理交換 ・給湯器の修理交換 ・トイレの修理交換 |
アパートの修繕には大きく分けて4つの種類があります。以下ではそれぞれについて詳しく説明していきます。
原状回復
入居者が退去した後、部屋を入居時の状態に戻すことを「原状回復」といいます。
原状回復時の修繕にかかる費用ですが、経年劣化や通常消耗においては原則オーナー負担となります。室内の破損、改造などが入居者の責任による場合は、入居者の負担になります。
改正民法(2020年4月施行)では賃借人の原状回復義務について明記されています。
(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(参考:民法・明治二十九年法律第八十九号)
- オーナーが負担すべき場合
日光による壁や床の変色、湿気により窓枠のゴムが傷むなどです。(経年劣化)
ポスターを壁に貼ることでできた画鋲の跡や家具の設置によるカーペットのへこみなど(通常消耗)
- 居者が負担すべき場合
タバコによる畳の焼け焦げ、引越作業で生じた傷など
壁紙・フローリングの張替え
壁紙の張替えは広さで費用が異なります。
8畳 4.6万円〜5.6万円
フローリングの場合は
8畳 10~20万円
ハウスクリーニング
業者にハウスクリーニングを依頼した場合の費用について紹介しておきます。
1DK、1LDK 30,000〜40,000円
2DK、2LDK 30,000〜70,000円
3DK、3LDK 50,000〜85,000円
4DK、4LDK 70,000〜10万円
老朽予防修繕
建物の劣化や損傷を未然に防ぐために行われる修繕のことを指します。通常、定期的に行われる予防的なメンテナンスや点検活動を含みます。
予防修繕の目的は、建物や施設の長寿命化や安全性の確保、将来的な大規模な修繕や修理の費用を抑えることです。
劣化や損傷が進行する前に早期に発見し、修繕や補修を行うことで、建物の価値を維持し、経済的な効果をもたらすことが期待されます。
将来的なトラブルや費用の増大を防ぐために重要です。建物のオーナーや管理会社は、定期的な点検やメンテナンススケジュールを立て、予防修繕を適切に実施することが求められます。
シロアリの点検・駆除
1匹でもシロアリを見つけたら、早めに点検して駆除することが大切です。放置していると建物の木材を食べてしまうため、耐久性に問題が生じる可能性が高くなります
シロアリ駆除(毒餌セット) 約5,000円/平方メートル
外壁の劣化調査
外壁の劣化調査には打診調査と赤外線調査の2種類があります。
打診調査とは、壁の表面を打診棒と呼ばれる棒で叩き、音の違いで外壁材の浮きを調査する方法です。赤外線調査は、壁を赤外線カメラで撮影し、壁の温度変化で浮きやひび割れ、剥離がないかを検査する方法です。
調査方法によって値段が異なります。
赤外線調査 1㎡あたり約120~350円
耐震調査
耐震調査は、建物の構造によって異なります。
鉄骨造(延床面積が1,000㎡~3,000㎡) 約1,000円/㎡~3,000円/㎡
鉄筋コンクリート造(延床面積が1,000㎡~3,000㎡) 約1,000円/㎡~約2,500 円/㎡
大規模修繕
大規模修繕とは、建物や施設の長期間にわたる修復や改修を指す言葉です。
建物の老朽化や劣化が進んでおり、通常の定期修繕やメンテナンスでは対応しきれないような大規模な工事や修繕が必要な場合に行われます。
大規模修繕は、建物全体または一部の構造や設備の改修、更新、強化を目的として行われます。
大規模修繕は、建物の安全性や快適性を維持するために重要です。修繕の計画や費用、工期の調整などは、専門の建築業者や管理会社と協力して行われます。
外壁の塗装
外壁の塗装は、外壁の素材と面積によって費用が異なります。
フッ素塗料 約4,000円/平方メートル
光触媒塗料 約5,000円/平方メートル
柱補強工事
建物の強度を保つための柱補強工事では、柱そのものを交換する場合もあります。施工の際は床や壁を全て撤去して構造をむき出しにする必要があります。
そのため、どうしても工期が長くなってしまい、場合によっては半年以上工事が続く場合もあります。
柱補強工事の費用は、どれだけ金具を入れるか、既存の柱がどれだけ傷んでいるかによって大きく変わりますが、施工期間も長くなりますので、約100万円からが相場となります。
給排水管の清掃や交換
給排水管の修繕費用についての目安は次の通りです。
配管更新工事 約40万円〜/1戸あたり
配管更生工事は、別名ライニング工事とも呼ばれています。配管に樹脂を流し込むことで新しいパイプ管を作り劣化を防止する工事です。短期間で内装を壊さずに工事できる点が特徴です。
配管更新工事は、新しい配管を設置する工事です。古い配管をむき出しの状態にしてから交換するため、外壁や内装を壊さなくてはなりません。
防水工事
雨漏りを防ぐためには屋根の防水工事が必要です。雨漏りが起きてからでは遅いため、定期的なメンテナンスを行い、屋根にひび割れや劣化がないかを確認しましょう。防水工事にかかる費用は、工事の方法によって異なります。
防水塗装(ウレタン塗装)約3,500円/平方メートル
防水塗装(FRP塗装)約7,000円/平方メートル
駐車場やフェンスなどの外構
駐車場やフェンスなど外構の修繕については、修繕計画を立てる必要があります。
工事内容にもよりますが、駐車場の再舗装ですと
破損箇所の修繕
物件そのものや付属の設備に不具合が発生した場合の修繕を指します。給湯器やエアコンの修理や交換、突発的災害や事故による修繕等が当てはまります。
基本的には不具合が生した際に修理・交換を行いますが、設備の耐用年数や交換時期の目安を把握しておきましょう。
破損箇所 | 相場 | 修繕時期 |
エアコン | 修理 1万5,000円~15万円/台 交換 5万円~15万円/台 | 7年~10年 |
キッチン | ガスコンロ交換 5万円~20万円/台 IHクッキングヒーターの交換 4万円〜30万円/台 | 8年~10年 |
浴槽 | 浴槽補修・塗装 9.5万円〜15万円 浴槽交換 5万円〜60万円 | 10年~15年 |
給湯器 | 給湯器の交換 約10万円 | 10年~12年 |
トイレ | 洋式トイレ 5万円〜15万円 タンクレストイレ 10万円〜40万円 洋式トイレ 3万円〜5万円 システムトイレ 6万円〜8万円 | 7年~10年 |
エアコンの修理・交換
エアコンは個体差が激しく、1〜2年で故障が頻発する機械もあれば、15年以上まったく故障しないものもあります。 一斉に取り換えるのではなく、個別に対応します。修理・交換実施の目安は7年~10年です。
交換 5万円~15万円/台
キッチンの修理・交換
IHクッキングヒーターを利用するためには200Vの専用回路が必要です。修理・交換実施の目安は8年~10年です。
既存のガスコンロを取り外して新しいIHクッキングヒーターを取り付ける工事だけではなく、配線やブレーカーの電気工事、ガスの閉栓や撤去作業も発生することになります。
IHクッキングヒーターの交換 4万円〜30万円/台
浴槽の修理・交換
浴槽の交換目安は以下の通りです。修理・交換実施の目安は10年~15年です。
浴槽交換 5万円〜60万円
給湯器の修理・交換
給湯器の交換は、不具合のあるものだけでなく、全戸一斉に取り替えたほうが後々のメンテナンス計画を立てやすくなります。修理・交換実施の目安は10年~12年です。
トイレの修理・交換
トイレの修理や交換については、トイレの形式で異なります。修理・交換実施の目安は7年~10年です。
タンクレストイレ 10万円〜40万円
洋式トイレ 3万円〜5万円
システムトイレ 6万円〜8万円
長期事業であるアパート経営を成功させるためには、アパートの修繕費は、新築中古問わず必ず必要になります。決して少ない金額ではないため、修繕費次第で経営がつまずいてしますこともあります。失敗しないためには、複数の経営プランを比較したうえで、自分に適した経営計画を選択することが重要です。
しかし、複数の業者に一社ごとに経営シミュレーションを請求するのは手間がかかります。そこで、おすすめなのが複数企業からアパート経営プランを一括資料請求できる土地活用比較サイトです。
1分程度のかんたんな質問に答えるだけで、複数企業から資料を取り寄せてアパート経営プランを比較することができます。
企業によっては、「修繕を見込んだ経営シミュレーション」や「修繕費を安く抑えるための情報提供」をしてくれる場合もあります。
まずは、チャットでかんたんな質問に答えて、複数企業に資料を請求してみましょう。
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活用事例:プリエシェノン

(川木建設株式会社の土地活用事例)
アパートの修繕費と資本的支出について
修繕の費用に関して、その年の必要経費として一括で計上することができる修繕費と、一定の年数をかけて少しずつ計上していく資本的支出の2種類があります。
修繕費は必要経費として一括計上できるので当該期間の課税所得を減少させることができます。 一方、資本的支出は長期的な資産の取得や改善を目的とし、減価償却の対象になります。
両者の違いは、一度に要する工事の支出が20万円未満のものなら「修繕費」であり、20万円以上のものなら「資本的支出」という点です。
ですが、グレードアップを伴わない外壁塗装については20万円以上の支出であっても資本的支出ではなく修繕費として計上できます。
修繕費用が足りない場合の対処法
大規模な修繕が必要になった際、修繕費用が足りない場合どうすればいいのでしょうか。ここでは修繕費用が足りない場合の対処法を紹介します。
リフォームローンを利用
マンションなどの大規模集合住宅で区分ごとに所有者が異なる場合、修繕費用が足りない際は、オーナーから一時金と称し、修繕費を徴収することができます。
ですが、賃貸アパートの場合は入居者から修繕費を徴収することはできません。よって、大規模修繕などの修繕費用は全てオーナー持ちです。
入念な修繕計画を立て、日頃からきちんと積立金をしていても大規模修繕の際には費用が不足することもあります。
そうした場合には、リフォームローンで不足分を賄います。古くなったアパートの増改築や修繕などを目的としたリフォーム工事をするときに利用できるローンです。
リフォームローンの金利相場は固定金利の場合0.95%~1.5%とアパートローンに比べて、リフォームローンは審査基準が緩く、低金利で借りられます。
借り入れ金額について、無担保であれば1,000万円ほどが上限になります。返済期間は、10年ほどが一般的です。
修繕工事の延期
修繕費が足りない場合、工事自体を延期するのも手段の一つです。
しかし、工事を延期することで、簡単な補修で済むはずだった傷みや劣化が、今後極端に悪化する可能性もあるため、工事を先延ばしにすることで、さらなるリスクが生じます。
工事内容を見直す
全ての工事を一度に行うのではなく、修繕工事を分割して行う方法もあります。
今回は外壁塗装のみ、屋上防水のみなど、優先順位を決めて、工事内容を見直します。
工事範囲を狭めることで一時的な出費は見送られますが、その後の工事計画を立て直す手間がかかる他、一度に行ったほうが費用もトータルで安く済む場合が多いです。
アパートの修繕費を抑えるためにすべきこと
規模やタイミングに関わらず、修繕費はそれなりの費用がかかります。ここでは修繕費をなるべく抑える方法を紹介します。
綿密な事前プランニング
アパートの修繕費用を抑えるためには、先を見越した綿密な収支計画を立てることが重要です。目先の収支だけを追っていると、いざ修繕が必要となった場合に慌てしまうケースもあります。基本的に修繕費用は、先を見越して積み立てておく必要があります。
収支計画の中には、どのタイミングでどこを修繕してどのくらいの費用が必要となるかをしっかりと盛り込みましょう。アパート経営をスタートするタイミングで、長期的な収支計画を立ててお金の管理をしておくことが大切です。
アパート経営を始める段階で余裕を持った資金計画を立てれられるようになると良いでしょう。
火災保険をうまく活用する
アパートの経営を行なっているなら火災保険に加入しているでしょう。条件によっては、火災保険を利用して修繕費用を賄うことができることもあります。適用外だと思っていた自然災害による損傷が、実は適用範囲だったということもあります。
火災保険で適用外となるのは、経年劣化、シロアリ、虫食いなどの突発的ではない損傷です。水災、水漏れ、盗難、物体の飛来衝突、落雷、雪災、いたずらなどは適用対象になる可能性があります。ただし、加入している火災保険のプランにもよるため、保険会社にしっかりと確認してみましょう。
定期的な修繕がトータル費用を抑える
修繕費用を抑えるためには、定期的にメンテナンスを行うことも大切です。大規模修繕になるまで放置していると、かなりの費用が必要となります。小規模修繕で収まるうちに、少しずつメンテナンスをしておくことで、一気に高額な費用を支払う必要を避けることができます。トータル的に見ると、定期的にメンテナンスを行ったほうが費用は抑えることができます。
中古物件の場合は購入前に修繕履歴をチェック
中古のアパートを購入した場合、購入してすぐに大規模修繕が必要になるケースもあります。購入前に修繕履歴をしっかりと確認することをおすすめします。見た目には問題がないように見えても、見えない部分に修繕が必要というケースもあります。可能であれば購入前に住宅診断を受けることもひとつの方法です。
マナーの悪い入居者を選ばない
入居者を募集する際に、マナーの悪い人を選ばないというのも修繕費を抑えるための手段です。マナーの悪い人は、普段の掃除をしない可能性が高いため、退去時に水回りのカビやトイレの汚れなどがひどいケースもあります。
人は見た目ではわからないものの、ひとまず管理会社にマナーが悪そうな人は入居を拒否しますと伝えておくと安心です。例えば、管理会社の担当者に対する態度が横柄であったり、喫煙場所を確認せずにタバコを吸ったりするような日頃の態度や人に対する対応が不真面目な人は、トラブルを招く可能性がゼロではないといえるでしょう。
専門家への相談が不可欠
アパートの修繕は専門的な内容を含むことも多いため、専門家への相談は不可欠です。信頼できる管理会社を見つけて安心してアパート経営ができるようにするためのポイントも抑えておきましょう。
払えないを避ける!アパートの大規模修繕への備え
修繕費用が足りない場合、リフォームローンなどで費用を賄うことはできます。ですが、アパートローンの債務が残っている場合、追加の借金を背負うことは避けるべきです。
ここでは、大規模修繕での費用不足を回避するためにできることを紹介します。
修繕積立金をおこなう
修繕積立金とは、「大規模修繕」などの修繕に必要な資金をまかなうため、毎月積み立てておくお金のことです。
大規模修繕では多額の費用がかかるために、早い段階から大規模修繕に向けて積み立てをしておく必要があります。
修繕費の積立金の目安は、築年数が古くなるほど多くなります。一般的に築年数と建築費に応じて想定します。以下が築年数における建築費用の目安です。
築年数 | 積立金の目安 |
1~10年目 | 建築費の0.3% |
10年~20年目 | 建築費の0.5% |
21年目以降 | 建築費の1.0% |
例えば、建築費8000万円のアパートの9年目の修繕積立金の目安は「8000万円円×0.3%=24万円(毎年)」は最低でも積み立てておくようにしましょう。
事業計画書や収支計画書を作成するときに、最初から修繕積立金を考慮しておきましょう。
定額制の修繕サービスを利用する
定額制の修繕サービス「メンパク」を利用することで大規模修繕への備えができます。
メンパクとは毎月定額料金を支払うことで、外壁補修や塗装、防水等の修繕工事などの大規模修繕やその後のメンテナンスを15年間継続して行うことができます。メンパクなら大規模修繕などの大きな出費に関しても定額の金額で工事が行えます。
さらに、毎月の賃収の一部を経費として充てることで手元資金を使うことなく建物全体の修繕が可能となります。
大規模修繕は災害などで突如生じる修繕とは違い、15年に一度のサイクルでやってきます。費用は高額ではありますが、来るべき大規模修繕に対してしっかりと備えることで費用面での不安を解消できます。
アパート経営と修繕費用は切り離すことができない関係にあります。アパート経営で必要な修繕費についてしっかりと理解し、長期的な収支計画を立てておくことが費用を抑えるために必要な工程です。修繕費用を抑えるためには定期的なメンテナンスが必要です。定期的にメンテナンスをし、結果的に長くアパートの資産価値を維持していきましょう。