アパート経営を検討している人は修繕費に関して頭に入れておく必要があります。また、アパートの部屋を借りて住もうと思っている人、すでに住んでいる人にとっても気になることでしょう。
下記は修繕にかかる費用の種類と、それぞれにかかる費用の目安、修繕時期、具体的な修繕箇所をまとめたものです。
修繕の種類 | 費用目安 | 修繕時期 | 具体的な修繕箇所 |
---|---|---|---|
原状回復費 | 数万円~20万円 | 退去のタイミング | ・壁紙 ・フローリング ・ハウスクリーニング |
老朽予防の修繕 | 数万円~数十万円 | 3年に1回程度 | ・シロアリの点検・駆除 ・外壁の劣化調査 ・耐震調査 |
大規模修繕 | 数百万~数千万 | 15年に1回程度 | ・外壁の塗装 ・柱補強工事 ・給排水管の清掃や交換 ・防水工事 ・駐車場やフェンスなど外構 |
破損個所の修繕 | 数万~数十万 | 破損や災害に応じて | ・エアコンの修理交換 ・キッチンの修理交換 ・浴槽の修理交換 ・給湯器の修理交換 ・トイレの修理交換 |
本記事では、アパートの修繕費は誰がどれくらい支払うのか、収支計画を立てる際の注意点や来るべき大規模修繕への備えについても紹介します。また、資本的支出と修繕費の判断基準についても解説します。
アパートの修繕費は誰が何を支払う?
アパートの修繕費には原状回復費・老朽予防の修繕費・大規模修繕費・破損個所の修繕費の4種類があります。この4種類について、それぞれオーナーと入居者どちらが支払わなければならないのかは以下をご覧ください。
修繕費の種類 | 支払い責任 |
---|---|
原状回復費 | オーナーor入居者 |
老朽予防の修繕費 | オーナー |
大規模修繕費 | オーナー |
破損個所の修繕 | オーナー |
上記の表を見てわかる通り、この中で入居者に関わる修繕費は原状回復費です。
原状回復費、どちらが支払う?
入居者が退去した後、部屋を入居する前の状態に戻すことを原状回復といい、それによって発生する費用を原状回復費と呼びます。原状回復義務について、改正民法(2020年4月施行)によると以下のように明記されています。
(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(参考:民法・明治二十九年法律第八十九号)
つまり、原状回復時の修繕にかかる費用は、経年劣化や通常消耗においては原則オーナー負担となります。一方、室内の破損や改造などが入居者の責任による場合は入居者の負担になります。
経年劣化や通常消耗の修繕費はオーナー
経年劣化や通常消耗などの、通常の範囲で使用した上で発生したと考えられる原状回復費に関しては、オーナーの負担となります。経年劣化の例としては、日光による壁や床の変色や湿気による窓枠のゴムの損傷などが当てはまります。通常消耗の例としては、ポスターを壁に貼ることでできた画鋲の跡や家具の設置によるカーペットのへこみなどが挙げられます。
国道交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』では損傷の具体的な事例の一覧があるため、詳しく知りたい人は参考にしてください。
通常損傷でないものなどの修繕費は入居者
入居者の過失や故意による損傷、または通常の使用では発生しない損傷に関する原状回復費については、入居者が負担することになります。
入居者が負担することになる修繕の例としては、タバコによる壁の黄ばみや臭い、引越作業で生じた床や壁の傷、入居者の過失による畳屋フローリングの変色や色落ちなどが該当します。
オーナーの原状回復義務と同様、国道交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』に入居者が原状回復義務を負う例や考え方について一覧があるため参考にしてください。
修繕義務は契約で決めることができる
修繕費をオーナーと入居者のどちらが負担するのかについて、契約自由の原則の下に合理的な内容であれば、修繕費について民法の規定とは異なる特約を設けることが可能です。
ただし入居者に修繕義務を負わせることを含む特約は、国土交通省の原状回復に関するガイドラインに基づき、一定の要件を満たす必要があります。その要件は以下の通りです。
① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
出展:国土交通省住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 』
原状回復についての特約を設ける場合は、内容を明確に契約書面の定め、入居者の十分な認識と合意を得た上で契約する必要があります。
原状回復費の目安
原状回復費は数万円~20万円程度が目安であり、賃借人の退去するタイミングで発生します。具体的には、壁紙・フローリングの張替え・ハウスクリーニングなどにかかります。
- 壁紙の張替え
8畳 4.6万円〜5.6万円
- フローリングの張替え
8畳 10~20万円
- ハウスクリーニング
1DK、1LDK 30,000〜40,000円
2DK、2LDK 30,000〜70,000円
3DK、3LDK 50,000〜85,000円
4DK、4LDK 70,000〜10万円
原状回復費以外のアパート修繕費
修繕の種類 | 費用目安 | 修繕時期 | 具体的な修繕箇所 |
老朽予防の修繕 | 数万円~数十万円 | 3年に1回程度 | ・シロアリの点検・駆除 ・外壁の劣化調査 ・耐震調査 |
大規模修繕 | 数百万~数千万 | 15年に1回程度 | ・外壁の塗装 ・柱補強工事 ・給排水管の清掃や交換 ・防水工事 ・駐車場やフェンスなどの外構 |
破損個所の修繕 | 数万~数十万 | 破損や災害に応じて | ・エアコンの修理交換 ・キッチンの修理交換 ・浴槽の修理交換 ・給湯器の修理交換 ・トイレの修理交換 |
先述した通り、アパートの修繕には大きく分けて4つの種類があります。原状回復費については先ほど解説したため、本章では他三つの修繕費について詳しく解説します。
老朽予防の修繕費
老朽予防にかかる修繕費は数万円~数十万円が目安で、3年に1回程度の頻度で発生します。老朽予防の修繕とは、建物の劣化や損傷を未然に防ぐために行われる修繕のことです。定期的に行われる予防的なメンテナンスや点検活動を含みます。具体的には、シロアリの点検・駆除や下壁の劣化調査、対審査調査などにかかる費用です。
予防修繕の目的は、建物や施設の長寿命化や安全性の確保、将来的な大規模な修繕や修理の費用を抑えることです。劣化や損傷が進行する前に早期に発見し、修繕や補修を行うことで、建物の価値を維持し、経済的な効果をもたらすことが期待されます。
将来的なトラブルや費用の増大を防ぐために重要です。建物のオーナーや管理会社は、定期的な点検やメンテナンススケジュールを立て、予防修繕を適切に実施することが求められます。
シロアリの点検・駆除
1匹でもシロアリを見つけたら、早めに点検して駆除することが大切です。放置していると建物の木材を食べてしまうため、耐久性に問題が生じる可能性が高くなります
シロアリ駆除(毒餌セット) 約5,000円/平方メートル
外壁の劣化調査
外壁の劣化調査には打診調査と赤外線調査の2種類があります。
打診調査とは、壁の表面を打診棒と呼ばれる棒で叩き、音の違いで外壁材の浮きを調査する方法です。赤外線調査は、壁を赤外線カメラで撮影し、壁の温度変化で浮きやひび割れ、剥離がないかを検査する方法です。
調査方法によって値段が異なります。
赤外線調査 1㎡あたり約120~350円
耐震調査
耐震調査は、建物の構造によって異なります。
鉄骨造(延床面積が1,000㎡~3,000㎡) 約1,000円/㎡~3,000円/㎡
鉄筋コンクリート造(延床面積が1,000㎡~3,000㎡) 約1,000円/㎡~約2,500 円/㎡
大規模修繕費
大規模修繕費の目安は数百万円~数千万円で、頻度は15年に1回程度です。大規模修繕とは、建物や施設の長期間にわたる修復や改修のことです。
大規模修繕は、建物の老朽化や劣化が進んでいて通常の定期修繕やメンテナンスでは対応しきれないような、大規模な工事や修繕が必要な場合に行われます。具体的には外壁の塗装や柱の補強工事、給排水管の清掃や交換などです。
大規模修繕は、建物全体または一部の構造や設備の改修、更新、強化を目的として行われま。建物の安全性や快適性を維持するためにも重要で、修繕の計画や費用、工期の調整などは、専門の建築業者や管理会社と協力して行われます。
外壁の塗装
外壁の塗装は、外壁の素材と面積によって費用が異なります。
フッ素塗料 約4,000円/平方メートル
光触媒塗料 約5,000円/平方メートル
柱補強工事
建物の強度を保つための柱補強工事では、柱そのものを交換する場合もあります。施工の際は床や壁を全て撤去して構造をむき出しにする必要があります。
そのため、どうしても工期が長くなってしまい、場合によっては半年以上工事が続く場合もあります。
柱補強工事の費用は、どれだけ金具を入れるか、既存の柱がどれだけ傷んでいるかによって大きく変わりますが、施工期間も長くなりますので、約100万円からが相場となります。
給排水管の清掃や交換
給排水管の修繕費用についての目安は次の通りです。
配管更新工事 約40万円〜/1戸あたり
配管更生工事は、別名ライニング工事とも呼ばれています。配管に樹脂を流し込むことで新しいパイプ管を作り劣化を防止する工事です。短期間で内装を壊さずに工事できる点が特徴です。
配管更新工事は、新しい配管を設置する工事です。古い配管をむき出しの状態にしてから交換するため、外壁や内装を壊さなくてはなりません。
防水工事
雨漏りを防ぐためには屋根の防水工事が必要です。雨漏りが起きてからでは遅いため、定期的なメンテナンスを行い、屋根にひび割れや劣化がないかを確認しましょう。防水工事にかかる費用は、工事の方法によって異なります。
防水塗装(ウレタン塗装)約3,500円/平方メートル
防水塗装(FRP塗装)約7,000円/平方メートル
駐車場やフェンスなどの外構
駐車場やフェンスなど外構の修繕については、修繕計画を立てる必要があります。
工事内容にもよりますが、駐車場の再舗装ですと
破損箇所の修繕費
破損個所の修繕にかかる費用は、数万円~数十万円が目安です。これは物件そのものや付属の設備に不具合が発生した場合の修繕なので、その都度修繕が必要です。給湯器やエアコンの修理や交換、突発的災害や事故による修繕等が当てはまります。
基本的には不具合が生した際に修理・交換を行いますが、設備の耐用年数や交換時期の目安を把握しておきましょう。
破損箇所 | 相場 | 修繕時期 |
エアコン | 修理 1万5,000円~15万円/台 交換 5万円~15万円/台 | 7年~10年 |
キッチン | ガスコンロ交換 5万円~20万円/台 IHクッキングヒーターの交換 4万円〜30万円/台 | 8年~10年 |
浴槽 | 浴槽補修・塗装 9.5万円〜15万円 浴槽交換 5万円〜60万円 | 10年~15年 |
給湯器 | 給湯器の交換 約10万円 | 10年~12年 |
トイレ | 洋式トイレ 5万円〜15万円 タンクレストイレ 10万円〜40万円 洋式トイレ 3万円〜5万円 システムトイレ 6万円〜8万円 | 7年~10年 |
エアコンの修理・交換
エアコンは個体差が激しく、1〜2年で故障が頻発する機械もあれば、15年以上まったく故障しないものもあります。 一斉に取り換えるのではなく、個別に対応します。修理・交換実施の目安は7年~10年です。
交換 5万円~15万円/台
キッチンの修理・交換
IHクッキングヒーターを利用するためには200Vの専用回路が必要です。修理・交換実施の目安は8年~10年です。
既存のガスコンロを取り外して新しいIHクッキングヒーターを取り付ける工事だけではなく、配線やブレーカーの電気工事、ガスの閉栓や撤去作業も発生することになります。
IHクッキングヒーターの交換 4万円〜30万円/台
浴槽の修理・交換
浴槽の交換目安は以下の通りです。修理・交換実施の目安は10年~15年です。
浴槽交換 5万円〜60万円
給湯器の修理・交換
給湯器の交換は、不具合のあるものだけでなく、全戸一斉に取り替えたほうが後々のメンテナンス計画を立てやすくなります。修理・交換実施の目安は10年~12年です。
トイレの修理・交換
トイレの修理や交換については、トイレの形式で異なります。修理・交換実施の目安は7年~10年です。
タンクレストイレ 10万円〜40万円
洋式トイレ 3万円〜5万円
システムトイレ 6万円〜8万円
長期事業であるアパート経営を成功させるためには、アパートの修繕費は、新築中古問わず必ず必要になります。決して少ない金額ではないため、修繕費次第で経営がつまずいてしますこともあります。失敗しないためには、複数の経営プランを比較したうえで、自分に適した経営計画を選択することが重要です。
しかし、複数の業者に一社ごとに経営シミュレーションを請求するのは手間がかかります。そこで、おすすめなのが複数企業からアパート経営プランを一括資料請求できる土地活用比較サイトです。
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数多くあるメンテナンス費を把握しておこう
アパートを運営していく上では、これまで述べた修繕費のほかにも様々なメンテンナンス費がかかります。
以下はメンテナンス費の例です。物件の規模などによっては当てはまらないものもありますが、基本的にかかるものと考えて頭に入れておくと良いでしょう。
- ゴミステーションのメンテンナンス費
- 共用灯や敷地内の電灯のメンテンナス費
- 植栽の手入れにかかる費用
- 除草剤の散布費
- 防火設備のメンテナンス費
- エレベーターのメンテンナンス費
ゴミステーションのメンテンナンス費
ゴミステーションが敷地内にある物件の場合、清掃費が管理費に含まれる場合とそうでない場合があります。
別途でとられる場合は、隣家の人に月々のお金を支払ってゴミステーションの管理を依頼することもできます。
共用灯や敷地内の電灯のメンテンナス費
大きい物件の場合は敷地内に外灯が設置されていることもあり、その外灯の種類にもよりますが、高いものだと取り替えるだけで3万円近くかかってしまうこともあります。
定期的に交換するものであり、敷地内に複数ある場合はかかる費用は見過ごせないものになります。
植栽の手入れにかかる費用
植栽がある場合は業者を呼んで剪定をしてもらうことになります。大体職人1人1日当たり1.5万円~3万円が相場です。
自分でも行なうことは出来ますが定期的に訪れなければなりませんし、出来栄えの面でも専門の業者に依頼したほうが良いでしょう。
除草剤の散布費
一般的に除草剤の散布は、依頼すると1㎡あたり300円ほどが相場です。ただし、背の高い雑草があり除草剤の散布だけでは処理が困難な場合、雑草除去後に除草剤の散布をすることになります。その場合は雑草除去作業にかかる費用として、1㎡あたり200円~500円がプラスでかかります。
これも自分で行なうことは出来ますが、薬品や散布器を購入する必要があります。
防火設備のメンテナンス費
大きい物件には防火扉の設置が義務付けられていたり、火災報知機やスプリンクラーのなどの点検もあったりします。これらは大規模なものだと年間で6万円~8万円ほどかかることもあります。
オーナーの中には講習で認定を受けて、自分で点検をしている人もいます。
エレベーターのメンテンナンス費
エレベーターのメンテナンス費に関しても大きな物件に限った話ですが、少なくない額がかかります。
点検にかかる費用は、フルメンテナンス契約の場合独立系業者で月3万円~4万円、メーカー系業者で月4万円~6万円程度が相場です。
大規模修繕費は減価償却が可能
大規模修繕費は減価償却することが可能ですが、それには条件があります。
会計処理の方法によって、減価償却費として計上できるかどうかが変わるため注意しましょう。
大規模修繕費の会計処理の方法
大規模修繕費の会計処理の方法は基本的に2通りであり、「資本的支出」として計上するか「修繕費」として計上するかです。
資本的支出に当てはまる場合、大規模修繕費は固定資産とみなされ毎年減価償却ができます。一方、大規模修繕費が修繕費に当てはまる場合は資産とはみなされないため、減価償却を行なえません。
資本的支出として処理
資本的支出とは、アパートなどの固定資産の価値を高めたり耐用年数を延長したりするための工事にかかる費用のことです。
建物の価値向上が目的なので、資本的支出は経費ではなく資産として計上されます。これは定められた耐用年数に応じて年ごとに経費として計上されます。修繕費として処理
修繕費とはアパートなどの劣化や損傷の原状回復、通常の維持管理のためにかかる費用のことで、全額をその年度分の経費として計上します。
考え方を言うと、アパートの価値を高めるためのものが資本的支出、元の状態に戻すためのものが修繕費と判断できます。
資本的支出と修繕費の分け方
資本的支出と修繕費の正確な分け方としては、工事の内容によって税務上で基準が設けられています。ただし、屋上の防水工事やフローリングの張替えなど、判断が難しいものもあるでしょう。そういった際は、以下のチャートを参考にしてください。
支出額が20万円に満たない場合はその年の経費にすることができます。また、およそ3年周期ごとに必要となるメンテナンスの場合も修繕費として認められます。
そして、上記に当てはまらずとも60万円未満であれば経費として扱われます。さらに、その年の前年末の建物取得価額の10%以内であれば経費となりますが、明らかに価値の上がるものに関しては資本的支出になります。
それでは、具体的な費用について資本的支出と修繕費のどちらに当てはまるかの例を紹介します。
蛍光灯の取り換え費用
蛍光灯の取り換え費用は修繕費に該当します。
蛍光灯は建物の付属設備の一部品であるため、たとえその部品の性能が向上したとしても建物付属設備自体の価値が向上したとはみなされません。
塗装工事
外壁舗装などの舗装工事は定期的に必要となる工事なので、基本的には修繕費として計上が可能です。
ただし、それまでの塗装から特別な材料を用いたものなどにグレードアップさせた場合、建物の価値を向上させるものとみなされて資本的支出として扱うことになります。
壁紙の張替え
壁紙の張替えも塗装工事と同様に、建物の通常の維持管理・原状回復の範囲であれば修繕費とみなされますが、高級壁紙や材料を特別なものに変更して行なう場合には資本的支出となります。
キッチンの取り換え
キッチンの取り換えに関しても、「グレードアップがなされたかどうか」が判断基準となります。例え違う型番のものへ変更したとしても、同程度のものであると判断できる場合は修繕費として扱います。
減価償却の計算方法
アパート経営で減価償却費を計算する方法として、定額法というものがあります。
これはアパートの購入・建築価格を耐用年数の期間中で均等に割り、毎年同じ金額で減価償却するものです。建物に関するものが基本的にこの定額法によって計算されます。定額法の計算方法は以下の通りです。
償却率はアパートの購入・建築費を1と考えた時にそれを耐用年数で割った値のことです。耐用年数と償却率は以下の通りです。
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
木造 | 22年 | 0.046 |
鉄骨造(骨格材の厚みが3mm以下) | 19年 | 0.053 |
鉄骨造(骨格材の厚みが3mmを超え4mm以下) | 27年 | 0.038 |
鉄骨造 | 34年 | 0.030 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 | 0.022 |
例えば、建築価格が6,000万円で新築時の法定耐用年数22年の木造、償却率0.046の減価償却は以下のように計算できます。
定額法で計算すると、毎年276万円を減価償却費として計上することが可能です。
アパートの修繕は計画的に進めよう
アパートの修繕は長期に渡り計画的に進めなければなりません。不具合や入居者トラブルのたびにその場しのぎの対応をしていると、不適切な修繕となり費用が割高になる可能性があるためです。
アパート経営において修繕費は入居者確保のための投資で、そう考えると修繕を計画的に進めることの大切さがわかるでしょう。長期的な修繕計画に盛り込む内容としては、「将来どのようなタイミングでどれくらいの費用の修繕・改修が見込まれるか」と「計画的な修繕のために必要な修繕積立金はどれくらいか」といったものです。
本章ではアパートの修繕を計画的に進めないとどうなるか、計画的に進める方法について解説します。
参考:国土交通省『民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック』
適切なメンテナンスをしないとどうなる?
アパートは新築時は問題なくとも年が経つにつれて様々な不具合が生まれるため、人間が医者に行くように建物にも適切なメンテナンスが必要なのです。
適切なメンテナンスを行なわなかった場合、様々な箇所に以下のような問題が発生します。
- 屋根:塗装、防水処理の劣化により漏水や雨漏りが発生
- 外壁:ひび割れなどで外観の劣化とともに雨水が建物内に浸水
- 手すり:錆や腐食により損壊、崩落の危険性が増大
- 旧排水管:傷み、詰まりにより水道水の濁りや排水の逆流が発生
- 給湯器・エアコン:頻繁に故障して入居者からのクレームが続出
築年数が経ち劣化したアパートは、新築物件と比べると競争力が落ちてしまいます。そしてこの状態を放置すると入居者が減っていき、いざ修繕をしようとした時には費用を確保できず老朽化が進む一方、ということもあり得ます。
点検・修繕が必要なタイミングを把握する
前述したような悪循環に陥らないためには、計画修繕をしていく必要があります。
最初に行なうのは建物の各部位や外構に関して、それぞれ点検や修繕が必要なタイミングと費用がどれくらいかかるかを把握することです。建築会社からの提案にこれらの情報が含まれている場合がありますが、専門的な知識が必要となるものなので施工会社などに確認することをおすすめします。
室内の設備に関してもメーカーに確認し、交換の時期や費用の目安を頭に入れておきましょう。なお、設備はライフスタイルの変化や入居者のニーズによって、交換の際にグレードアップさせる必要も出てくるかもしれません。
点検・修繕をする
修繕の必要な時期が大体わかったら、修繕を一番効果的に行える具体的なタイミングを判断するために建物の点検をします。
日常的な清掃と併せて行なう点検に加えて、年に1度くらいで定期的に行なう点検で問題のある個所を見つけましょう。早期に見つけることが出来れば部分的な修繕による改善が可能となり、コストを抑える結果にもなります。
点検によって不具合のある個所を見つける、もしくは長期修繕計画による修繕時期が近付いたら精密な調査を行ないます。そしてその結果を基に具体的な修繕の内容を決定し、費用の見積もり後に工事が実施されます。
次の修繕に備える
修繕は一度やって終わりではないため、工事が終わった後は次の修繕に備える必要があります。
次回の修繕では今回の図面や現場写真など工事の実施状況が役立つため、資料は大切に保管しておくようにしましょう。
資金を確保する
修繕の計画を立てたところで、資金がなければ実行に移ることができません。そのため日ごろから建物の点検だけではなく、資金の確保にも注力することが大切です。
修繕を実施していない人の理由の多くが資金に余裕がないことであるため、将来のために計画的に資金の積み立てを行ないましょう。定期の点検によって具体的な修繕のタイミングと費用がわかったら、それに合わせて積立額を調整します。
積立額が不足しそうな場合、金融機関からの融資が可能かどうかを早めに確認することが重要です。
積立金の目安
修繕費の積立金の目安は、築年数が古くなるほど多くなります。一般的に築年数と建築費に応じて想定します。以下が築年数における建築費用の目安です。
築年数 | 積立金の目安 |
1~10年目 | 建築費の0.3% |
10年~20年目 | 建築費の0.5% |
21年目以降 | 建築費の1.0% |
例えば、建築費8000万円のアパートの9年目の修繕積立金の目安は「8000万円円×0.3%=24万円(毎年)」は最低でも積み立てておくようにしましょう。
事業計画書や収支計画書を作成するときに、最初から修繕積立金を考慮しておきましょう。
修繕への備え
定額制の修繕サービス「メンパク」を利用することで大規模修繕への備えができます。
メンパクとは毎月定額料金を支払うことで、外壁補修や塗装、防水等の修繕工事などの大規模修繕やその後のメンテナンスを15年間継続して行うことができます。メンパクなら大規模修繕などの大きな出費に関しても定額の金額で工事が行えます。
さらに、毎月の賃収の一部を経費として充てることで手元資金を使うことなく建物全体の修繕が可能となります。大規模修繕は災害などで突如生じる修繕とは違い、15年に一度のサイクルでやってきます。費用は高額ではありますが、来るべき大規模修繕に対してしっかりと備えることで費用面での不安を解消できます。
安全で質の高い住宅を次の世代へ
計画修繕の効果としては、住宅性能を維持できること、高い入居率を確保できること、周辺物件に対する競争力が高まること、家賃水準を維持できることが主に挙げられます。
これらの効果を保つことができれば次の修繕に向けて資金を貯めることができ、それがさらに住宅性能の維持などに繋がります。つまり、計画修繕によって悪循環ではなく好循環を形成することができるのです。
入居者に長い間安心して暮らしてもらえるように、また、子供に相続する時などにこういった好循環の状態で渡すためにも計画修繕を実施しましょう。
アパートの修繕費を抑えるためにすべきこと
規模やタイミングに関わらず、修繕費はそれなりの費用がかかります。ここでは修繕費をなるべく抑える方法を紹介します。
綿密な事前プランニング
アパートの修繕費用を抑えるためには、先を見越した綿密な収支計画を立てることが重要です。目先の収支だけを追っていると、いざ修繕が必要となった場合に慌てしまうケースもあります。基本的に修繕費用は、先を見越して積み立てておく必要があります。
収支計画の中には、どのタイミングでどこを修繕してどのくらいの費用が必要となるかをしっかりと盛り込みましょう。アパート経営をスタートするタイミングで、長期的な収支計画を立ててお金の管理をしておくことが大切です。
アパート経営を始める段階で余裕を持った資金計画を立てれられるようになると良いでしょう。
火災保険をうまく活用する
アパートの経営を行なっているなら火災保険に加入しているでしょう。条件によっては、火災保険を利用して修繕費用を賄うことができることもあります。適用外だと思っていた自然災害による損傷が、実は適用範囲だったということもあります。
火災保険で適用外となるのは、経年劣化、シロアリ、虫食いなどの突発的ではない損傷です。水災、水漏れ、盗難、物体の飛来衝突、落雷、雪災、いたずらなどは適用対象になる可能性があります。ただし、加入している火災保険のプランにもよるため、保険会社にしっかりと確認してみましょう。
定期的な修繕がトータル費用を抑える
修繕費用を抑えるためには、定期的にメンテナンスを行うことも大切です。大規模修繕になるまで放置していると、かなりの費用が必要となります。
小規模修繕で収まるうちに、少しずつメンテナンスをしておくことで、一気に高額な費用を支払う必要を避けることができます。トータル的に見ると、定期的にメンテナンスを行ったほうが費用は抑えることができます。
中古物件の場合は購入前に修繕履歴をチェック
中古のアパートを購入した場合、購入してすぐに大規模修繕が必要になるケースもあります。購入前に修繕履歴をしっかりと確認することをおすすめします。
見た目には問題がないように見えても、見えない部分に修繕が必要というケースもあります。可能であれば購入前に住宅診断を受けることもひとつの方法です。
マナーの悪い入居者を選ばない
入居者を募集する際に、マナーの悪い人を選ばないというのも修繕費を抑えるための手段です。マナーの悪い人は、普段の掃除をしない可能性が高いため、退去時に水回りのカビやトイレの汚れなどがひどいケースもあります。
人は見た目ではわからないものの、ひとまず管理会社にマナーが悪そうな人は入居を拒否しますと伝えておくと安心です。例えば、管理会社の担当者に対する態度が横柄であったり、喫煙場所を確認せずにタバコを吸ったりするような日頃の態度や人に対する対応が不真面目な人は、トラブルを招く可能性がゼロではないといえるでしょう。
専門家への相談が不可欠
アパートの修繕は専門的な内容を含むことも多いため、専門家への相談は不可欠です。信頼できる管理会社を見つけて安心してアパート経営ができるようにするためのポイントも抑えておきましょう。
アパート経営と修繕費用は切り離すことができない関係にあります。アパート経営で必要な修繕費についてしっかりと理解し、長期的な収支計画を立てておくことが費用を抑えるために必要な工程です。修繕費用を抑えるためには定期的なメンテナンスが必要です。定期的にメンテナンスをし、結果的に長くアパートの資産価値を維持していきましょう。